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きみに心奪われたまま  作者: 松石愛弓
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 夜の繁華街の人波を掻き分けながら、私は必死で逃げていた。


「待て~~~~~!!」

 強面のお兄さんたちが、私を捕まえようと追いかけてくる。

「なんでこんな事に~~~!!」

 思わず、夜空で輝く月に向かって吼えていた。


 こんなことになった原因は、数日前に会社の先輩が持ってきた1枚の紙切れだ。


 「万年筆のインクの調子を見てみたいから、このへんに名前を書いてちょうだい?」という、鬼瓦先輩の指示。

今思えば、明らかに不自然な指示だった。白い紙の左端寄りに名前を書けだなんて。


「速く書いてよ! 急いでるんだから!」と、怒られ、急かされ、気の弱い私はつい自分の名前を書いてしまった。

 その瞬間、先輩はニヤリと笑った。

 その笑い方にすごく嫌な予感がして紙を取り返そうとしたけど、先輩は素早く姿を消してしまった。


 その日、どんなに先輩を探しても見つからず、翌日は休んでいるようだった。

 そして不安に押し潰されそうになりながら一人暮らしのアパートに戻ると、怖いお兄さんたちが待っていた。


田辺陽菜たなべ ひなさんですね? 鬼瓦道世の借金を肩代わりするそうですね?」

 目の前に広げられた見覚えのある白い紙には、『鬼瓦道世さんの借金500万円を私が支払います』と、紙の右半分に鬼瓦先輩の字で書き足してあった。そして左端の私の名前の下には『田辺』のハンコが押されていた。

 わざわざ私の苗字のハンコを買ってきて押したの? 酷い。勝手に偽造書類を作るなんて!


「この書類は、私が納得して書いたものではありません。無地の紙に名前を書かされたけど、右の文章は鬼瓦さんが後から書き加えたものだし、ハンコも私の所持品ではありません」

 必死に弁明したけど、消費者金融らしきお兄さんたちは面倒くさそうに聞いているだけだ。


「それなら、鬼瓦さんをうちの店に連れてきてもらわないと。うちも逃げられて困ってるんだよ」

「そ…そんなこと言われても…親しい人じゃないし、鬼瓦さんが何処にいるかなんて知りません」

「あんた知り合いなんだろ? ちょっと店で話聞かせてもらおうか!」

 腕を捕まれそうになり、思わず逃げる!

 店まで行ったら、ちょっとで済まないかもしれないし、行きたくない!


 今年の春、短大を卒業して、東京に憧れ上京して就職して、まだ半年。

 まさか、こんな落とし穴が待っていたなんて!


 住宅街から繁華街へと、逃げて逃げて逃げまくる!

 高校時代、陸上部に入ってて良かった~。

 ああでも。ヒール走りにくいし、折れそうだし。


 ゴキッ!!

 折れた!!


 ああもうだめ。裸足じゃ痛くて走れない。

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