2話 犬人の森にて
ベルに強制的に転移された俺は、転移の光で目を開けていられなくなる。
ベルの野郎。後で、覚えておけよ!!
目を閉じて暫くすると、転移が終わったのか、光が止んでいることに気付く。
目を開けるとそこは、俺の記憶にある森だった。
「ここは、犬人の集落のあった森じゃないか。この森には特徴的な木があるから判りやすいからな」
しかし、驚くのはベルだ。アイツは亜人との交流はあったのか? 俺が犬人に会ったのがこの森だと、何故分かったんだろうか?
そのことは、帰ってからベルに聞くとしよう。
犬人の集落のあったこの森は、葉の色が青い木が生えている。勇者として色々な場所に行ったのだが、こんな木が生えている場所は、ここ以外には無かった。
イグニスが、「ここは他の森に比べて、海の魔力が充満している」と言っていたな。
勇者だったころの俺には魔法の才能がなかったから、海の魔力と言われても、何を言っているかは分からなかったが、リッチキングとなった今なら何となくわかる気がする。
海の魔力というのは、こういうことを言うのか……。
何と言ったらいいのだろう……。水につつまれているというか、深海にいるような気分になるというか……。不思議な感覚だ。
「まぁ、今はそこは良い。犬人はどこだろうか? どうも、この辺りにはいない気がするな」
俺は森の奥に入って行く。
しかし、いつでも魔王城に帰還が出来るというのは、安心感につながるな。勇者時代にこの森に来た時は、独特の雰囲気にのまれて、足が前に進まなかったのを覚えている。
恐怖感とでもいうのだろうか。
俺は元々、ただの村人だ。勇者という肩書がなければ、こんな森に入ることもなかっただろう。
それは俺以外の奴も同じで、この森を進むのに偉く時間がかかった。
そもそも、この森の奥に試練があると言われ、行ったんだよな……。あの頃はこんなことになるなんて、思いもしなかった。
そういえば、魔導士であるオズマだけは、歳を重ねているせいか、気にせず進んでいたな。
森の中を進むと、木々が深くなり、日もあまり差さなくなる。薄暗くなってきたな。
青い葉が日に透けて幻想的にはなるんだがな。今は一人だからかどうかは知らないが、この光景が不気味に見える。
暫く進むと、道が開ける。
ここには太陽の光が差し込んでいる。ここで休憩をしてもいいかもな。まぁ、どうも疲れてはいないようだから、休む必要もなさそうなのだがな。
これも、俺が屍者だからだろうな。
それにしても綺麗な場所だ。ここでなら、青い葉の木も綺麗に見えるな。
落ち着いたら、メリアと一緒にここでピクニックもいいかもしれないな。
俺は、この場所を散策するかのように回る。
ん? ここだけ焦げているな。
俺は地面を調べてみる。これは焼け焦げた跡? 魔法による焦げ方だろうか? それとも焚火か?
いや、焚火は無いな。そのような跡とは思えない。
ここで戦闘があったのか? 開けているとはいえ、ここは森の中だから魔物くらいはいるだろう。魔物の中には魔法のような咆哮や火の息を吐く奴もいる。だから戦闘痕ならば、このような焦げ方もあり得るか……。
しかし、腑に落ちない。勇者時代にこの森で何日も過ごしたが、いたのはゴブリンかコボルトくらいだ。火を吐くような魔物はいなかったはずだ。
俺が死んでから十年は経つのだから、新種などがいてもおかしくはないが……。
いや、魔物同士の戦いならば、どちらかが死ぬまで争うはずだ。この周辺には魔物の死体は無かった。
じゃあ、冒険者か? しかし、この森には冒険者の興味を引くようなものはなかったはずだ。
試練があると言われていたのも、結局はガセだったからな。
俺は周りを見回す。
すると、かなり遠くの方に、人が倒れている。
怪我人か!?
俺が急いで近付くと、それは死んだ犬人だった。
正直犬人の性別は俺には判別できない。が、何故死んだのかは分かる。
これは何かと戦闘したうえで殺されている。斬り傷が多く、命からがら逃げて、恐らく血を流し過ぎて死んでしまったのだろう。
この体には焦げた跡もある。先程の焦げ跡があった場所で戦ったのか?
「この犬人が生きていれば、話を聞くことが出来たのだがな」
俺の脳裏に、屍蘇生という言葉が過った。
しかし、この犬人を屍蘇生したところで、協力してくれるかが問題だ。それどころか恨まれる危険性もある。
そう思っていた時、ふと以前会った犬人ことを思い出す。
彼等、犬人は人間に友好的だった。だから、助けられるものは助けたい。
それが例え、俺のエゴだとしてもだ。
「カダ―ベール・レスレクシオン!!」
俺は犬人を復活させることにした。これで強制的に俺の眷属となるわけだ。
だが、この犬人が拒否を示した時は自由にしてやろう。
自由に生きたいと望めば開放するし、死にたいと思うのならば死なせてやろう。
魔法をかけて少しの時間が経つと、犬人が起き上がる。
「あれ? 僕は死んだんじゃ?」
犬人は、自分の体を見て、戸惑っている。
「気分はどうだ?」
「え? に、人間!? どうしてこんな所に!?」
俺は、犬人を生き返らせたことを説明する。ただ、屍者になったことは、まだ説明していない。
これは、俺なりの思いやりだ。真実を語るのは、もう少し落ち着いてからでいいだろう。
この犬人は『ノービス』という名だそうだ。
彼は雄で、年齢は十五歳だそうだ。
ノービスは、生き返らせた俺に感謝していた。
真実を知ったとしても、感謝できるかどうかは分からない。けど、今は話を聞いてくれるだけでも構わない。
ノービスがなぜあんなところで死んでいたのかを説明してくれる。
「コボルトが、集団行動をとっていただと?」
「はい」
ノービスの話では、コボルトが集団で犬人の集落を襲って来たらしい。
村の戦士が、果敢に戦ったのだが、質よりも数できたコボルト達に、やられてしまったらしい。
彼も戦士として戦ったのだが、まだ新人だったので、少しでも数を減らそうとここまで逃げたらしい。
逃げたと言っても、仲間を見捨てたわけではなく、敵を引き連れて逃げたのだという。
しかし、ここで疑問に思うことがある。
俺が知る限り、コボルトは単独行動が多かったはずだ。
この森で何が起きているんだ?
「お前以外の犬人はどうしたんだ?」
「あ、はい。この先にある洞窟に身を寄せ合っています。あ!! 早く助けに行かないと!! あそこには、戦えない犬人しかいないのに!!」
こいつは一度殺されても、自分達の仲間が気になって助けに行こうとする。
俺は正直こういう奴が……。
大好きだ!!
ついつい助けてやりたくなる。
「よし!! 助けに行くぞ!!」
「あ、はい!!」
犬人が隠れているという洞窟は、森を抜けたところにあるそうだ。
急いで洞窟まで来たのだが、森を抜けようとしたとき、俺は不穏な空気を感じた。
ノービスは、洞窟に早く辿り着きたいのか焦っているが、俺がノービスを止める。
「おい、ノービス。お前はここにいろ。俺が様子を見てくる」
「どうかしましたか?」
「洞窟の外に嫌な気配を感じる。お前はここにいろ」
「ぼ、僕も行きます!! 皆を守らないと!?」
正直、ここに来るまでは、こいつは一人で逃げたんじゃないか? と疑っていたが、本当に仲間を守ろうとしている様だ。
多数に無勢で再び殺されるかもしれないのに、それでも戦いに行こうとしている。
こいつはここで死んでも構わないと思っていそうだな。まぁ、死なないんだけどな。
「分かった!! お前は俺が死なない限り死ぬことは無い!! ただ、強くなったわけじゃないから無理だと思ったら逃げろよ!!」
「え? 死なないって?」
「そこは後で説明してやるから、俺を信じろ!!」
「は、はい!」
洞窟の前に出ると、案の定、コボルトが群れて洞窟に入ろうとしている。しかし、犬人の一人が必死にそれを押さえていた。
「おい!! 手助けするぞ!!」
「え!?」
「ノービス!! お前は無理をするなよ!! 死なんと言っても、強くなったわけじゃないからな!!」
「はい!!」
洞窟入り口を守っていた犬人は、俺とノービスを見て驚いている様だった。
しかし、今はそんなことで手を止めている暇はない。
コボルトの数は二十前後。さほど多くはない。
俺は、コボルト達を斬りながら考える。
このコボルト達は群れている。少なくとも、俺が戦ったコボルトは群れはしなかった。せいぜい五匹一緒にいれば多い方だった。
それに、気になったのは、コボルトの目だ。目の焦点が合っていないというか、目が操られている感じがする。
コボルト自身の強さはたいしたことが無かった。
まぁ、コボルトは低級の魔物だ。俺も一応は元勇者だからな。このくらいなら、息を切らさずに倒せる。というか、今の俺は息が切れるのだろうか? 息はしているから……うーん。わからん。
しかし、予想外のこともあったな。ノービスだ。こいつかなり強いぞ。とはいっても、犬人にしてはだが……。
こいつが、このまま俺の仲間になってくれれば、ありがたいんだけどな。
あぁ、当初の目的を忘れる所だったな。
「ノービス。お前達の中で一番偉い人の所へ案内してくれ」
「分かりました!!」
洞窟の入り口で頑張っていた犬人との、再会を喜んでいたノービスに道案内を頼み、俺達は洞窟へと入って行った。
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