5話 魔王城へと辿り着いた。
魔王城。
人間にとっては忌むべき魔王の居城だ。そして、勇者と魔王が戦った場所でもある。
ベルは、自身の居城に俺達を連れて行けばいいというのだ。
俺がそのことを聞くと「お前等は行くとこがなくて困っておるのじゃろ?」と屈託のない笑顔で答えていた。
こいつ、底抜けのお人好しなんじゃ……。
「魔王城なら、おいそれと人間達も来れんだろうから、静かに暮らすのも可能だと……って、わしは何を言っておるのじゃ!? わしはこ奴等に復讐させねばならんというのに!?」
なんだ? 自分に統一性のない奴だな。もしかして、お人好しじゃなくてただのアホなのか?
どのみち、諦めが悪いな。そもそも俺達に復讐させなくても魔族や魔物を操ればいいだろうに。
「ベル。お前は何故、俺達に復讐させたがる? 俺達に頼らなくても、魔族達に人間の国を襲わせて憎悪とやらを溜めればいいじゃないか」
「それはできんのじゃ」
ベルが話すには、魔族は本来素朴で、争いを臨まない大人しい種族だということを聞いた。
だがそれはおかしい。
俺達人間は、魔族こそ諸悪の根源で世界征服を企むから、勇者として魔王を討つと聞いた。それに付いてベルは、「人間の国王の方がよほど強欲じゃ!!」と怒っていた。
俺も勇者をやっていた時のことを思い出す。
確かに魔物が襲ってくることはあっても、魔族が積極的に襲ってきたということは無かった。いや、むしろ人間側が魔族に襲いかかっていた事実すらある。
そう考えれば、ベルが怒っているのも理解できる。
俺が勇者になって一年が過ぎて、魔王城の場所が特定出来た頃くらいに変な話を聞いたことがあった。
なんでも、アロガンシア王国のすぐそばの村で魔族が生け捕りにされ、なぶり殺したという噂を聞いた。
俺達はその時点で魔王四天王や、魔族の将軍などと何度か戦っていたので、強さは知っているはずだった。のにもかかわらず、魔族が嬲りごろされたことに疑問があった。
当時仲間達にも相談したのだが、アレスが「そんな下らない噂に構っている暇はない」と言って、まともに取り合ってもらえなかったのを覚えている。
おそらくアイツは、この噂が噂ではなく真実と知っていたのだろう。
「ともかく、このままここにいても仕方が無い。魔王城へと移動を始めよう」
本来であれば、村人全員を移動させることは至難の業と言えるのだが、今の村人はフレッシュゾンビ。ヨボヨボだった爺さんまで、元気ハツラツに走ろうとしている。
これならば、全員で移住することも可能だろう。
長年住み慣れてきたこの村を捨てるのも忍びないが、ここにいるよりも安全だ。いつ、アロガンシアの兵士が来るかもわからないからな。
ベルの話は魔王所までの道中で聞くとしよう。
ここで俺は重要なことを思い出す。
俺の記憶では、魔王城は北の果てにあったはずだ。俺達は徒歩でしかない、何カ月かかるのか見当もつかないし、途中で船にも乗る必要がある。
正直、魔物になったことで疲れなどはほぼないだろう。数ヵ月であろうと、俺達は不死系の魔物なのでそこのところは何の心配もしていない。ただ、問題は船だ。
船に乗るということは国境を超える必要もあるということだ、俺達には身分証があるのだろうか? いや、ないな。
「これは困ったぞ……」
「どうしたのじゃ?」
ベルに、船のことを説明する。なにより、俺達は滅びた人間だ。身分証などあるわけがない。
魔王であるベルからすれば、何を言っているか分からないだろう。だが、人間にはいくつもの国とルールがある。
「なんじゃ。だから先ほど言ったじゃろう? どうやって移動するのかと」
俺の困った様子を見たベルはない胸を張る。
「心配せんでいい。魔王城へは転移魔法を使えばいいのじゃよ」
転移魔法だと? 確か、仲間だった賢者イグニスでも使えないと愚痴っていた。ベルは魔王だから使えるのか?
「そんな便利な魔法があるのか? お前は力を失っているのに使えるのか?」
「今のわしでは使えんが、リッチであるお前なら使えるじゃろうて」
俺が?
恥ずかしい話だが、俺は魔法の類が全くと言っていいほど使えない。これは勇者適正でもハッキリしている。
一概に勇者と言っても数種類の適性があるらしく、俺は『剣神適正』だそうだ。だからこそ、俺は聖剣を使ってベルを倒した。
ベルもそのことを知っているはずだ。戦闘が始まる前に「魔法も使えずどう戦うつもりじゃ?」と聞いてきたくらいだからだ。
「何を言っているんだ?」
俺は素直に自分の思っていることをベルに話す。するとベルは呆れた顔になる。
「何を呆けておる? 今のお前は魔族じゃぞ? 魔族には魔王城のみに転移できるよう転移魔法が使えるようになっておる。これは一種のわしとの契約じゃな」
契約だと? そんなこと初めて聞いたぞ?
「お前、勇者だった時に魔王四天王をことごとく撃破したじゃろう? あの時、四天王は瀕死で消えたじゃろう? アレは魔王城に転移しとっただけじゃよ。お前達は滅びたと勘違いしていたようじゃが、実際には、四天王達は魔王城で治療されて養生しておっただけじゃ」
「な!?」
俺達が必死に倒した四天王が生きていた? ならば何故、再戦してこなかったんだ?
疑問は残るが、ベルの話が本当だとしても、俺はベルとは契約していない。そんな俺にも転移魔法が使えるのだろうか? ……いや、そもそも、どうやって使うかは知らん。
そのことをベルに相談すると、ベルはさらにあきれた顔になる。
「本当に世話のかかるやっちゃな。『テレポート』と唱えるんじゃ。後はお前の中の魔力が勝手に調整してくれる。更にここにいる者全員転移したいのならば、ここにいるやつ全員でと念じろ。それで問題なく転移できるはずじゃ」
なんだかんだ言って、ベルは世話を焼いてくれる。おい、メリアに抱きつかれるな。嫉妬するぞ……。
ベルに言われた通り、ここにいる者全てを対象に転移できるよう念じ『テレポート』と魔法を唱える。
すると俺達の体が消えていく。
一瞬目が眩むほどの光が発生したが目を開けると懐かしい魔王城の前にいた。しかし、魔王城は何故か朽ち果てかけている。
「ど、どう言うことじゃ? なぜ魔王城に人の気配がないのじゃ?」
人の気配がない? 俺達が攻め込んだときも魔物はいたが魔族はいなかったはずだが、いや、今考えたらそれもおかしい。
「ベル。俺達がお前と戦いに来た時に魔物以外は避難させていたのか?」
「そうじゃ。お前達は無茶苦茶強かったからの。魔族達は城の地下に避難させておった。だからこそ、わしも全力で戦うことが出来たのじゃ」
ベルは、眼を閉じ何かを探りながら答えてくれる。
しかし、今にも泣きそうな顔になる。
「なぜ、魔族の反応がこんなに少ないんじゃ? 魔族はほぼすべて匿っていたはずじゃ」
少ない? ということは生き残りがいるのか?
「ベル、その生き残りの魔族の所へ行って話を聞くぞ。どうも嫌な予感しかしない」
「あ、あぁ」
数が少なった魔族は、かつてベルが隠れさせたという地下で息をひそめて暮らしていた。
ベルの姿を見た魔族達は、魔王の無事と帰還に涙を流した。
こんな幼女の姿になってもベルは慕われているんだな。そう感心していたのだが、魔族達は俺達を見て怯えだす。俺は元・勇者だから仕方ないのだろうが、メリア達を見て怯えているのはおかしい。
どういうことだ? 人間そのものに怯えている気がする。
「ベル、魔族というのはここまで人間に恐怖感を覚えているものなのか? 俺達の存在が恐怖になっているのか?」
「いや、この怯えようはおかしい。おい、一体何があった?」
俺達は、生き残りの魔族から話を聞くことにした。
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