表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミノの迷宮  作者: Ridge
4/7

3 迷宮へ

 森に入り、木漏れ日の中を進むと、異質な雰囲気を放つ建造物が見えて来た。これが迷宮。

 迷宮の入り口は開いており、壁には火の灯された燭台が置いてある。迷宮の前に立つと、外から中へ風が吸い込まれていくのを感じる。

「はあ…ぶっ壊してしまえば話は早いが、まだ娘の居場所が分からないからな」

「クリーチャーの情報は私に任せて。全て網羅しているから」

「頼りにしてるぞ」

 迷宮へと踏み込んだ。薄暗いためか、閉塞的な印象は受けない。照明の仕方は、真ん中を照らす方法と、境界や壁を照らす方法があり、用途に応じて使い分けるのでどちらが優れているとは言い難いが、後者の方が広く感じさせることができる。ここでは後者の使い方がされている。


 ある程度進むと、T字路の中央に石像が置かれていた。

「あれは何だ?向きを変えるのか?」

「いや、あれはクリーチャー。無視して横を通ろうとすれば潰される。あそこに配置されているなら戦うしかない」

 剣を出して構えを取る。

「敵の情報を」

「無属性、コスト1,ST0,HP1のクリーチャー。能力は無し。初期ユニットの一体。無属性はST0,HP1にしか存在せず、それ以外は効果で属性を消すしかない」

「要するに雑魚か。早く壊して次へ行こう」

「待った!装備品が使われている可能性がある。危険な効果だと、ST+3で先制攻撃、HP+3で戦闘終了時に受けた物理ダメージを相手に返す、HP+3で戦闘終了時に互いのステータスをひっくり返す、物理攻撃反射、破壊されると相手のST=0」

「見分け方は無いのか?」

「攻める側からは分からない。そういう仕様になっている」

「なるほど。雑魚でも危険性があって、それによって消耗を強いるわけだ。直感だが、ここは押す!」

 オーラを纏った剣を振りかぶり、上から石像を叩き斬る。石像はビキビキとひび割れて崩れていった。

 …何もない。残心を解いて剣を仕舞う。

「ただのブラフだったね。しかし、そうするとまだ相手は装備を残している」

 左に向かって進む。道なりに進み、目の前は壁。仕方が無いので、道を戻って右へと進む。

 道を進みながらリンゴに尋ねる。

「属性相性はあるのか?」

「無い。けれど、例えば火属性の攻撃無効能力や、水属性にダメージ増加能力、みたいに属性参照はあるから、一応意味はある。まだ始まって間もないし、これからかな」

「これから種族みたいな別のステータスが追加されることも?」

「もしかしたらあるかも。でもあまり多いと戦略を楽しむ以前に、覚えることが多すぎてとっつきにくいから、そんなに追加しないと思う。するにしてもビギナールールでは関係ない死にステータスとなるでしょう」


 道の真ん中にまた何かいる。燃える玉のようだ。熱気で景色が歪み、壁は赤く照らされている。よく見ると、左へと曲がれる場所より奥にいる。

「あれは?」

「火属性、コスト7,ST4,HP5で、破壊されると相手のMP+10の能力を持っている。おじさんにはMP関係ないけどね」

「普通にゲームした場合は、倒すと得な奴か。代わりにステータスが高い、と」

「それに加えて、相手に侵略意欲を促すから誘導の役割もある。MPを得ようとして攻め込んだ敵を返り討ちにして、戦力を減らそうという戦略もありうるよ。高いHPだからそれを倒すには高いSTが必要、つまり切り札級を引き出すからね。それを潰せば迷宮側は防御力が高まる。もちろん、相手がそう考えるだろうとブラフの可能性もある」

「うーん、MP要らないし、返り討ちのリスクもあるのなら無視していいな」

 左へと曲がった。道なりに進み、またT字路に出た。今度は、関節部ではなく、一つの通路上にミイラのようなクリーチャーがいる。

「あれは?」

「地属性、コスト7,ST2,HP5で、破壊されると経過時間×5のコインを得る。高い防御力があって、やられてもプレイヤーに利益のあるやつだよ」

「プレイヤーにとっては倒された方が得なんだな。ということは、あいつはゴールへの経路上に置かれるであろうクリーチャー」

「おお!このゲームの考え方にもう慣れて来たじゃない!もちろんそう思わせるブラフの可能性もあるけどね。リターンを考えたらゴールへの経路上に置く可能性が高い。後は、装備品の有無。石像の時と同様に、返り討ちの警戒しないといけない。しかもさっきよりも防御力が遥かに高い。防御力が高いので返り討ち以外にも、単純に防御を高めて相手のMP消費を誘うこともありえる。倒すのを失敗すると召喚回数が1回増えて、その分の魔力消費が増えるからね。HP+3や+4で、追加能力として状態異常無効化や属性変化、戦闘後に魔力収入やHP上昇などもありえる」

「これでどうだ」

 ホルダーから巻物を抜き、勢いよく広げる。巻物の字が光って反応し、ミイラの足元から炎の柱が現れて体を焼く。

「やったか!?」

 炎の中で揺れる人影は炎から飛び出し、爪で襲い掛かってきた。即座に下がり、攻撃をかわすと、ミイラは着地に失敗して姿勢を崩して倒れる。鎧を身に纏っており、ダメージが軽減されたようだ。ミイラが再び立ち上げり、両手を前にヒタヒタと走り出した直後、オーラの剣で首を撥ね飛ばした。ミイラは体が崩れて砂になった。

「今度こそやった!」

「そのようだな」

 ミイラだったものの横を通って奥へと進んでいった。


 また分かれ道で、とりあえず左から進むとまた壁だった。壁の側には積まれた頭蓋骨があり、袋が置かれていた。中を見るとコインだった。手に入れたところで意味がないので戻す。

「う…」

 光景が目の前に表れる。積み上げられた頭蓋骨、全身に殴打痕のある若者たちの死骸、蝋燭が多数置かれた机、血のかかった牛の頭蓋骨、黒いローブの集団…。幼い子の悲鳴…。

「大丈夫?」

「あ、ああ」

 息が上がっているので、深呼吸。落ち着け、ここは迷宮だ。

「どうしたの?」

「いや、骸骨にびっくりして。もう大丈夫だ、行こう」

「それならいいけど…」

 来た道を戻って、さっきの道を右に行く。今度迷ったら右に行こうか。いや、偶々だろう。それに結局分からないのなら、変えずに最初は左と決めておけば、どっち先に行ったか忘れずに済む。

「あれもクリーチャーか?」

 十字路の真ん中に拳銃を持った女性がいる。

「あれもクリーチャー、あの子は侵略寄りの効果なのに…。風属性、コスト9,ST3,HP3、戦闘終了時MP+10。初期侵略ユニット4体のうちの1体」

「防衛側でMP回復の意味あるのか?次に上限が増えるとか?」

「そもそも回復しないから意味ない。だからこれは数合わせかな?」

「攻めれて生き残ればMPが僅かに増えるのか。MP損失なしどころか微増で雑魚敵を潰していけるのは便利だな」

「その反面、ステータスは低めだから、下手に反撃を食らって退場してしまえば、MP補充があてにできなくなる」

「人型、しかも美人は気が引けるが…、やるしかないな」

 盾を出してジグザグに近づく。敵は拳銃を連射した。弾は全て盾で弾かれ、距離を詰めていく。急に銃撃が止んだかと思うと、敵に足払いをかけられ、倒れかかったところで背後から首を絞められる。

「ぐっ…」

「おじさん!」

 肘うちで相手の脇腹を叩き、首絞めが緩んだ隙に脱出し、振り返り際にナイフで相手の腕を斬りつけ銃を落とさせる。踏み込んで傾斜と勢いをつけつつ返す刃で喉を裂いた。

 敵は倒れて消えていった。

「嫌な感触だ。だがもう少しの辛抱…」


 道を進むと、道の真ん中で見覚えのあるクリーチャーが陣取っている。

「あれは知ってるかもね。水属性、コスト6,ST4,HP3、戦闘終了時に待機ユニットを破壊する。初期ユニット16体のうちの1体」

「そうだ。こいつだけは知っている。ラストスライムだ。能力からして防御力を高めているだろう」

「おじさんには待機ユニット破壊は関係ないけどね」

「悪いが躊躇せずに行かせてもらう」

 オーラの剣を取り出して近寄る。

 想定外!スライムはレイピアを持って素早い動きで突っ込んでくる。剣の根元はさび付いている。あれで傷つけられたらまずい。

 即座に避けたが、左腕を刃の部分が掠める。また来る!腰を落として膝を曲げて剣を構え、すれ違いざまにスライムを両断した。スライムは溶けて地面の染みとなっていく。

「やった!」

 怪我を負ったが、大した怪我じゃない。ここから先のペースは不明だが、何とか無事に辿り着き、ミレイを救い出すまでは死ねんな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ