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四天王の戯れ

 たまに真面目にファンタジーやってみる。

「今日もアミドソルいねぇのかよー。暇ー」

「言うことがいちいちだらしないですよ、シュバリエ」

 今日もシュバリエとサージュのこんな会話から始まる一日。

 ここはセフィロートの一大都市に据えられた闇の女神を奉る神殿。魔王ノワールや魔王四天王といった、魔王軍の上層は大抵神殿に引きこもって次の侵攻計画の命令が出るのを待っている。

 侵攻計画はノワールが立てたり、時にはサージュが助言をしたりして、進められる。その間、真面目なアルシェは武器などの整備を行っているのだが、脳筋筆頭シュバリエはアミドソルと組み手をしている。

 もちろん、組み手においてのアミドソルの実力は四天王一だ。渡り合えるのは、シュバリエくらいなものであるが、シュバリエでも勝てない方が多い。ちなみに、単純な素手での力を表すと、アミドソル>アルシェ>シュバリエ>サージュとなる。アルシェは腕力は強いが、体術がからっきしであるため、組み手となると弱い。ただ、ここで注意してほしいのは、魔王四天王基準で弱いということ。セフィロート基準にしたら、かなり強い部類に入るのは言うまでもない。

 ちなみに、組み手の強さで言うと、アミドソル>シュバリエ>サージュ>アルシェとなる。アルシェの名前は射手を意味する。その名の通り、アルシェは弓の名手で、敵を自分の近くに寄せ付けないという点では、魔法使いのサージュと同等と言えるだろう。

 色々と極めすぎた魔王四天王にとって、普通の訓練は退屈だし、その辺の雑兵と戦っても得るものが何もないためつまらないのだ。

 剣士であるシュバリエは、故にアミドソルとの組み手を毎日楽しみにしているのだが、アミドソルは魔王四天王の中で唯一、神殿の外で活動することが多い魔物なのである。

 というのも、アミドソルは土の民という特殊な一族で、フロンティエール大森林の土から生まれるため、自らの故郷であるフロンティエール大森林を守るという責任が生まれたそのときから課されているのである。

 故に、神殿にいるより森林にいる場合の方が多いのだ。

「アミドソルにはちゃんと役割があるんですから、仕方ないじゃないですか。少しは我慢してください。素振りでもやっていたらどうです?」

「お前素振り始めたら軽量化魔法解く気だろう?」

「鍛えるためでしょう?」

「ぐっ、剣士でもないくせに正論言うなや」

 サージュは普段の仕返しとばかりに、シュバリエの大剣にかかった軽量化魔法を解くことがある。だが、それも無為にやっていることではない。

 サージュやアルシェが遠距離戦に特化しているように、アミドソルやシュバリエは近接戦に特化している。だが、どちらにも相手にするには苦手な戦法というのがある。例えば、サージュやアルシェなら近接戦、アミドソルやシュバリエなら遠距離戦の相手だ。

 特に、魔法を併用するタイプの近接戦タイプは、魔法使いを相手にしたとき、気をつけなければならないのである。身体能力強化魔法や、剣など重い武器に使う軽量化魔法が隙を見て解かれてしまう可能性があるからだ。そうなると身体能力低下はもちろん、武器まで重くなって動きが鈍ることは確実である。

 そこにできた隙をつかれると、高威力魔法を扱う魔法使い相手では分が悪い。例えば、サージュなど。

「ふん、そういうなら、今日はお前が付き合えよ?」

「いいですよ。ただし、組み手と違って、なんでもありでいきますからね」

「望むところだ」

「ちょ、ちょっと」

 好戦的な雰囲気になるサージュとシュバリエの様子に見ていたアルシェが焦り出す。

 二人は二人共、魔王四天王であるのだ。四天王内での優劣差は、決してセフィロートの基準にはならない。この二人が本気で戦うとなると、周囲が大惨事になることは請け合いだ。

 だが、そんなことはサージュもわかっている。まさか神殿内で暴れるわけがない。

「風よ、我らを人なき場所へ運べ」

 サージュが唱えることで、転移魔法が発動する。

 風に運ばせるような詠唱だが、二人が竜巻に包まれ、その竜巻が晴れると景色が変わっている仕様だ。サージュの魔法練度が成せる高度な転移技術である。

 転移先は鬱屈とした空気の神殿から打って変わって、爽やかな風の吹く花々が色鮮やかな草原である。

「まあ、セフィロート内で人気のない場所、といったら、やはりここになりますよね」

「相変わらず魔王の支配下にあるとは思えない長閑な風景だこと。ティファレトは」

 二人が転移した先は、ほぼ無血で魔王の支配下に渡った農耕都市ティファレトであった。

「ま、邪魔くさい建物とかがない分、戦いやすい」

 シュバリエがぎらついた目でにやりと笑う。さて、どうですかね、とサージュがローブのフードを被ったのが、戦闘開始の合図だった。

 シュバリエがサージュのいた空間を薙ぐ。だが、サージュはもうそこにはいない。ちっ、と舌打ちをして、シュバリエは空を見上げた。そこにはローブをはためかせ、サージュが悠然として浮いていた。

 風魔法である。しかし、シュバリエの耳には詠唱が聞こえなかった。仕方ないことだろう。サージュは何しろ「()()」としか唱えていないのだから。

 使う魔法の属性だけを唱えて魔法を意のままに操れる魔法使いなどセフィロートには三人といない。その筆頭格がサージュである。

 風の民である故か、風魔法が最も使い勝手がいいらしいが、サージュにはあまり関係のないことだ。

 サージュはセフィロートでは珍しい、各属性を悉く操ることのできる人物なのだ。故に、セフィロートでサージュの右に出る魔法使いはいない。勝てるとするなら、神くらいなものだろう。

「ったく、最初っから本気かよ」

「貴方はそれをお望みでしょう? 戦いの種族なのだから」

「ふっ、よくわかってらっしゃるようでっ」

 シュバリエは得物を地面に突き刺し、その取っ手を踏み台に空へと飛び上がる。あっという間に空中戦というサージュの領域に到達し、その拳を振りかぶる。

 だが、それをただ受けるサージュではない。

「引力よ」

 そう唱え、手を上から下へと振り下ろす。

「っ!!」

 シュバリエは地面に引き寄せられるように着地した。膝をつく。

 これは重さを操る魔法。今の場合は引力を操り、強制的にシュバリエを地面に叩きつけるものだ。実際に叩きつけられなかったシュバリエの身体能力の異様さが際立つ。

「ちっ、まずは近くに寄るところからかよ。ああ、面倒くせぇ」

 まあ、当たり前と言えば当たり前である。遠距離戦を極めるならば基礎中の基礎である。相手を寄せ付けないこと。そこに関して、高威力の攻撃を続けて放つことが必要なのだ。

 目には目を、歯には歯を、という。シュバリエは大剣を媒体として魔法攻撃に出ようと思った。

 が。

「抜けねぇ!?」

 上空でサージュが笑う。

「私は先程引力魔法を使いましたが、その効果範囲は指定していませんよ?」

「ぐっ」

 つまり、この大剣にも例外なく引力魔法が作用しているというわけだ。この様子では軽量化魔法も打ち消されているだろう。

「くそっ……たれがっ」

 しかし、それで折れるようでは、シュバリエは四天王筆頭を名乗れない。その豪腕でもって、強引に引き抜いた。

「さすが脳筋」

「誰が脳筋だ」

 軽口を叩きながら重いであろう剣を振るう。横薙ぎにされた剣から炎が飛び出す。サージュは冷静に水魔法で打ち消そうとしたが、そこでシュバリエはにやりと笑った。

 炎と水がぶつかり合った瞬間、サージュの方へ氷が襲いかかる。シュバリエは火魔法の中に氷魔法を忍ばせるという一般魔法使いも卒倒の技術をやってのけたのだ。

 サージュはしかし冷静に火魔法で打ち消し、それから地面に降り立つ。

「魔法の腕、なかなか上がったんじゃないですか」

「お師匠さまが厳しいから、なっ」

 風よりも早く駆け抜けて、シュバリエは大剣を振るう。完全に仕留める勢いだ。

 が、がきぃん、とそれを氷の盾が現れて弾く。

「反則的なやつめ」

「それは貴方もでしょう? 戦闘狂」

 そうして二人の死闘は夕暮れまで続いた。さりげなく、花々に被害が及ばないようにしている辺り、どっちもどっちと言えるだろう。



 魔王四天王のチートメーターが振り切れている。


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