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「おーい、花火しようぜ!」


 それは幼い日の回顧のようだった。


「ハナビ? なんですか、それは」

 シュバリエの提案を訝しむサージュ。アルシェもきょとんとしていて、概要は聞かされていないようだ。

 そこにずずず、と地面からアミドソルが現れる。これで魔王四天王が揃い踏みだ。

「三人集まって、どうしただか?」

「花火しようぜ、ソル」

「花火……あー、ノワールが言ってたやづだな」

「ソルは知っているんですか?」

「ああ」

 ノワールと魔王四天王は友だちみたいな間柄だが、ソルは最初、異形を極めているため、ノワールに恐れられていた。

 しかし、魔王四天王の中で一番面倒見が良く、優しいというのがわかると、ノワールはソルとよく話すようになった。普段穏やかな分、本気で怒らせたときに怖いらしいが。

「ノワールのいたとこでは空に色んな色の光の花を咲かすんだど。夏……? の風物詩っつってたな」

「セフィロートには季節がありませんもんね」

「なんとなく咲く花が変わるくらいだもんね」

 そう、このセカイ、セフィロートには季節、というか四季がない。天候の変化も少なく、雪が降ったりすることも少ない。雪なんて降ったらそれは天変地異の予兆とされることだろう。

 どうやら、季節の移ろいのないセフィロートで退屈をしているであろう魔王四天王の四人のために、ノワールなりに考えてくれたらしい。

「頑張れば魔法で再現できるかもしれないってよ」

「それは腕が鳴りますね」

 サージュの目がきらりと光った。サージュは魔法のエキスパートだ。魔法で再現できるとなれば、知識を尽くして再現するだろう。

 友だちみたいな関係の四人がこうしてノワールの提案に付き合うのは、ノワールが元々、異世界の人間だったからだ。闇の女神ディーヴァによって魔王としてこのセカイに魂を連れ込まれた。ディーヴァとは何かしらの契約を交わしたようで、魔王と祭り上げられることをノワールはよしとしている。

 だが、ノワールが前の世界で過ごした時間はたった十六年である。セフィロートの人間でも五十年は生きるし、長命である魔物や魔族の魔王四天王たちからすれば、十六年というのは瞬き一回にも満たないあまりにも短い時間だ。

 元の世界に戻ることができない以上、元の世界のことを恋しく思うのも無理はない、けれど諦めざるを得ない状況にあるノワールのことを魔王四天王たちは自分たちなりに励まそうとしているのだ。

 ノワールは実際、面白い異世界のことを教えてくれるし、異世界の遊びはすったもんだあるが楽しいものばかりだ。これが戦争中でなければ、セフィロート中に広めたいほどに。

 そうして、遊びに付き合うことで、少しでもノワールの郷愁の念を慰められれば、と思うのだ。

「それで、花火は光なんですよね?」

「ああ。正確に言うど、色のついだ火花だな」

「爆発だー!」

「なんでも爆発させないでくださいよ」

 サージュがアルシェをじろ、と睨む。魔力量だけで言えば、この中ではアルシェが一番多い。ただ、アルシェは通常魔法の数百倍も魔力を消費する原語魔法をばかすか打てる化け物である代わり、通常魔法が使えない。使えても調整が上手くいかず、爆発する。

 原語魔法を使えることがアルシェの強みではあるが、普段使いの魔法が使えないところが玉に瑕である。魔王四天王の間が闇の女神神殿の中でも殊更頑丈なのは、アルシェが魔法を暴発させたときのためだったりする。爆発常習犯なのだ。

 アミドソルがいんや、と頷く。

「今回はアルシェの魔法がなかなか使えるかもしれねえだ」

「本当!?」

「花火っつうのは、火薬を空に飛ばして、爆発で散る火花で夜空を彩るものらしいど」

 アミドソルが慣れた手つきで大きな板を操作し、動画を出す。そこには「花火大会」の光景が映し出されていた。

「爆発も空でならあまり被害は出なさそうですね。けれど、単なる光だけではなく、青、緑、ピンクなど、様々な火花が散っていますが、これはどうやっているんでしょう?」

「火薬に混ぜ物すっと、色のついた火花になるらしいど。それはこのスマホみてえな科学技術が発展してるからこそだべな。そこをセフィロートでは魔法で補うのでどうだ?」

「まあ、光魔法なら、基本害はないですからね。火魔法と光魔法は互換関係にないですけれど、相性は悪くないですし、複合魔法の要領で」

「はーい、はいはい、サージュストップ。お前魔法の話になると長いからな。とりあえず、空にぶち上げるもんなら、外でやった方がいいだろ。移動しようぜ」

「まだ昼ですよ?」

 セフィロートには季節はないが、時間の経過はある。朝があり、昼があり、夜がある。

 だが、魔力という力はその摂理をねじ曲げる力を持つ。

(うみ)の近くなら、いつも暗いだろ。それに、花火は水辺でやるらしいしな」

 火薬を使うので火事になったら一大事なため、川辺でやるらしい。

 セフィロートには水辺というのが少ない。その数少ないうちの一つがマルクトの奥地にある湖だ。そこには魔力、しかも闇属性の魔力が充満しているため、昼夜問わずいつも暗い。花火の試運転には適しているだろう。

「ソル、土の友使ってくれよー」

「土の友は土の民にしか使えねえだ。怠けでねえで自分で歩け」

「ソルの土の友は怠けじゃないんですかー!」

「フロンティエール大森林ほぼワンオペ管理だぞ、シュバリエ。どれだけ広いかわかってるのか?」

 セフィロートの都市部よりも広いとされるフロンティエール大森林。その管理をほぼアミドソル一人で行っているのだ。しかもセカイができたときからずっと。その上魔王四天王なんてやっているのだから、間違ってもアミドソルを怠けているなんて評価はできない。

 シュバリエは少し考えるような表情をする。

「……俺たち魔王四天王は、セフィロートの一都市を壊滅するのなんて欠伸くらい簡単にできる。それをソルは、守ってんだよな。守ることは、壊すことよりずっと難しい」

 シュバリエの神妙な面持ちに、一同がしん、となる。

 闇の女神は破壊の女神だ。ノワールの上にいるシュバリエたちが崇める対象。故にシュバリエたち魔王四天王に課されたのは破壊である。

 けれどアミドソルは闇の女神の対抗神である生命の神が司るフロンティエール大森林を守護する立場にある。難しい立場だ。アミドソル自身は割り切っているが。

「こんなことしなくて済む平和なセカイになる頃には、俺たちは死んでるだろうからな。楽しもうぜ」

「ふふ、シュバリエにしては気の利いたこと言う」

「うるせー」

 そうして四人は湖に移動する。

「ふむふむ、さっきの動画は打ち上げ花火っていうんですね。火魔法で着火して、光魔法で丸く散らす感じに……」

「どうせなら、打ち上げだけじゃなくて、手持ち花火も作ろうぜ。土魔法と引力魔法使えば、ノワールの言ってた火薬作れるかもしれねえだろ」

「夏といえばスイカってノワール言ってたから、ケセドから取り寄せたそれっぽい果物用意する」

「風鈴も作れそうだな」


 そうして、四人は花火……というか、ノワールの言う「夏」の再現を楽しむのだった。

 セフィロートのほんのひとときの話。

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