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少女漫画しようぜ!!

「ぬおおおおおおおあおおおおおおおおおおっ!!」

 闇の女神神殿内に響き渡る魔王四天王が一人、シュバリエの雄叫び。魔王軍内がざわざわとする。何が起きたのだろうか、と。

「シュバリエ様と誰かが手合わせを?」

「シュバリエ様にこんな苦戦しているような声を出させる方というと……」

「アミドソル様がちょうど帰ってきていると聞きました」

「それだわ」

 なんて、囁かれていた。


 実際は。

「フラム。静かにしてください」

「だってよぉ、だってよぉ」

「静かにしないと水球に閉じ込めるぞ」

「アルシェの水球くらい秒で割るわ」

「ヴァンに封印魔法かけてもらう」

「いいですね」

「あーっ、卑怯だぞ! 二人がかりとか卑怯だ」

「……手っ取り早くシュバリエの持ってる本引き裂くだか?」

「「「それは駄目、絶っっっ対!!!」」」

 シュバリエが何やらきらきらした絵の書いてある本を読んでいた。それに感動して号泣している。それが真相だ。

 サージュにもアルシェにも五月蝿がられている。アミドソルもたぶん暗に五月蝿いと言っているのだろう。神殿中に響く声である。

「シュバリエ様! 何かございましたでしょうか!?」

「よく来たミル!」

 非常事態としか思えないタイミングで魔王四天王の間に入ってこられる猛者の一人、ミルがやってきた。只事ではないと判断したのだろう。まあ、もう少し遅かったら、魔力量最強の魔力で魔法使い最強の賢者がセカイ最強の剣士を封印していたかもしれないから、只事でないのは確かだ。

 シュバリエはミルに閃光のごとく迫り、手にしていた本を見せる。

「ノワールが、暇潰しにって漫画っていう本を貸してくれたんだ。めっちゃ面白ぇぞ!」

「そうなんですか?」

 魔王四天王に次ぐ実力とされるミルは魔王四天王のうちシュバリエとサージュから戦闘訓練を受けているため、魔王四天王の暇をもてあました遊びには造詣が深かった。まあ、魔王四天王の遊びとは、魔王ノワールが持ってくる異文化なのだが。

 ノワールが翻訳してくれているのかはわからないが、異界の文化だけれど、文字は読めるようになっている。

「ええと……『嘘でもいいから好きって言って!!』ですか……シュバリエ様も少女漫画読むんですね」

「え! ミルはもう漫画知ってた!?」

「アニメは漫画原作とか、アニメ放送からコミカライズされることが多いんですよ。あんまりお話ししたことはないんですけど、魔王様が魔法少女ごっこの後にわざわざ私に教えてくださって……」

「ミルも魔王様と直接お話しするくれえになっだか」

 話の内容は完全に雑談だが。

「シュバリエ様は恋愛ものの少女漫画は興味ないかと思いました。少年漫画の異能力バトルものの方が好きかと」

「少年漫画!? なんだそれ」

「少年向けの漫画ですよ。少女漫画は思春期の女の子の感情の機微とか感傷に触れるタイプの話が多いんですけど、少年漫画はあれですね、友情! 努力! 勝利! 魔王倒そうぜ! 的な」

 彼らは魔王軍である。

「仮想の敵として『魔王』っていうのは魔王様の世界ではよくあるものだったそうです」

「友情努力勝利は確かにシュバリエ好きそう」

「そりゃリヴァルたちがやってるあれだろ」

「じゃあこれとかどうですか! ダークヒーローものなんですけど」

「ダークヒーローって?」

「悪役みたいな振る舞いを大局的にはしてるんですけど、自分の信念を貫き通すかっこいい主人公みたいな感じです」

 シュバリエの目がきらりと光る。

「いいじゃねえか」

「ちなみに魔王様一番のおすすめだそうですよ」

「だがミル! お前こそこれを読め!!」

 そう言って、シュバリエは手にしていた少女漫画をミルに押しつける。

 まあ、少女漫画なので、少女姿であるミルにあてがうのはある意味正しい判断と言える。

「再現ドラマしたい!!」

「ドラマ?」

「ノワールが言ってた、アニメとはまた違った映像作品のことだ」

「再現って……?」

「やっぱタイトルになってる名シーンを再現したい!!」

 そこで他四人が「嘘でもいいから好きって言って!!」を眺める。ミルは該当ページを探していた。

 あ、ありました、と見つけたミルが読み上げる。

「『嘘でもいいから好きって言って!!』

『本当に嘘でいいのかよ?』

『いいわけないでしょ馬鹿ぁ!!』」

 見事なまでの棒読みなので、全然臨場感がない。ただ一つわかったのはこの「嘘でもいいから~」の台詞を言っているヒロインの容姿がミルに似ていることだろうか。

 なんと安直な、とサージュはシュバリエを見る。が、シュバリエはあんまり主人公の男に似ていない。そこはいいのだろうか。

「っていうか、短髪の男がいませんね」

 シュバリエはポニーテール、サージュはストレートロングヘアである。アルシェは女だ。

 と、容姿の確認が同時に終わった一同がすっと視線を向けた先は……

「な、なしておらを見るだ?」

「ノワールの変身魔法だと、わりと自在に変わるんだよな、ソルって」

「もういっそアミドソル様に二役やっていただいては? 分裂できますし」

「分裂でねくて激震っつう技だ」

「ソルはアミちゃんのときに演技派であることが判明していますからねえ」

「ちょっとサージュ!?」

「アミちゃんとソルくんでいこう」

「おし、ノワールに頼みに行くか!」

「まっ待つだあああああああ!!」

 ソルが行動の速い四天王たちを止めるために激震で土壁を作り出すが、シュバリエが物ともせずにぶち破り、サージュは魔法で無効化し、アルシェは魔法を乗せた矢で打ち砕いた。能力の無駄遣いである。

 その後、才能の無駄遣い組に結局やらされたソルは「おらの肖像権……」と嘆いていたそうな。

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