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アミちゃん

「魔法少女の件はノワールも女神様も満足してぐれだど思ってだだが……」

 魔王四天王土の一角、アミドソルはいつもの口調でそう喋った。それがか弱そうな女の子の声なものだからか、シュバリエとアルシェの腹筋が崩壊している。それはいいのだ。

 問題は、普段は人間の倍以上の背丈があり、体躯のいい土塊の巨人であるアミドソルが、その声に見合うほどのか弱い美少女になっていることである。背丈は魔王四天王に紛れている準四天王の有望株の少女、ミルもよりも小さい。

 ミルはピンク髪の儚げな自分より幼い少女を見て庇護欲が掻き立てられているのか、男性陣に気取られないように結界を張る準備をしている。実際、気づいているのは魔法使いとしてのミルの師匠サージュのみなので、サージュは腕を上げたものだ、と満足げににこにこしていた。

 魔王四天王相手に、結界など無意味である。誰も彼もが一撃必殺を通常攻撃に持つ、異常な強者の集まりだからだ。ソルも元の姿なら、素手で結界を割る猛者。素手というか、何なら指先一つで割れる。それを見たノワールが「世紀末救世主だ!」と言っていたのは印象的な出来事だ。

 そんな魔王ノワールの仕業と思われるソルの少女化。これはノワールが闇の女神ディーヴァと共に魔王四天王を巻き込んだ「魔法少女ごっこ」のときに生まれたソルの姿である。ピンク髪の一見か弱そうな少女。まあ、身体強化能力で敵をぶちのめすフィジカルモンスターと化したわけだが、それはあのときの悪ふざけの産物なだけである。そのはずだった。

「ちなみに、何か不便がありますか?」

 おそらく魔王四天王の中でもまともな神経をしているであろうサージュが尋ねる。ソルは困り顔だ。

「『土の友』や『激震』は普通に使えるだ。魔法少女ごっこのどぎど違って、おらの土の民としての性質は変わっでねえがらな。だが……」

 言うとソルが握りしめた拳に魔力を込める。いつもの拳からすると十分の一以下の小さな手から、化け物じみた魔力が感じ取れて、サージュは思わず顔をひきつらせた。だが、ソルがそれだけ魔力を込めるのには理由がある。

 ソルは魔力を込めた拳を、しゅたっと地面に叩きつける。地面とは即ち土だ。ソルの属性そのものである土の魔力が、地面の魔力を活性化させ、強制的に土の民を生み出す。それがソルの持つソルだけが持つ力の一つ「激震」である。のだが……

 ぴょこぴょこと大量に土から発生したのはピンク髪の女の子の小人たち……今のソルをそのまま小さくしたような人間の女の子だ。普段なら人間の子どもより大きいプティソルという魔物が生まれるはずなのだが。

「ノワールの魔力が混じってるせいなのが、こうなるだ」

「な、なるほど……」

 ぴょこぴょこと動き回る愛らしい少女たちにサージュも笑いをこらえるのに必死だ。

 激震で生まれるプティソルは別にソルの分身というわけではないのだが、ソルの分身にしか見えない現状がさすがに面白かった。

「かわいすぎるのでこのままでよくないですか?」

「よくねえだ」

 小人たちをちょいちょいつついて微笑んでいたミルの一言にソルはきっぱり即答する。サージュも思わず何故、という目を向けた。

 すると、ソルが顔を両手で覆い、その場に崩れる。

「この姿でリアンに顔向けできねえだ……」

 リアンというのは、ソルが守護する森で共に守護者を務める人間の少年のことである。サージュとミルは顔を見合わせる。

「ソル、もしかして氷の剣士くんに懸想してるんですか?」

「ちげえだ!」

 否定するソルは赤面していない。ツンデレじゃないのかあ、と落胆するアルシェの声がしたが、ソルは華麗にスルー。

「不便はないと言っただが、とてもリアンの前にこの姿で移動する気にはなれねえだ……いづもの姿があるがら、威厳とかそういうものが保たれでっどごもあるだろうに」

「いや、リアンはそんなに気にしないと思うぞ。まじで」

 リアンの師匠だったことのあるシュバリエが真顔で指摘する。

 リアンは見た目で人を判断しない。だからこそ、人間と魔王軍が争う世の中で魔物の棲む森を守るという行動に出ることができるのだ。

 そんなことは現在の師であるソルも知っている。問題は見た目ではない。

「戦闘スタイルが変わってしまうだ。それでリアンに迷惑はかげだぐねえ」

 四人がぽかんとする。

 ソルの戦闘スタイルはごりごりの物理攻撃だ。魔法による身体能力強化がなくとも、ソルの拳は軽く地面を割る威力がある。また、激震による手数での撹乱、土の地面なら自在にどこにでも移動できる土の友という瞬間移動、土の民固有の身体能力強化魔法「恩恵」など、用い方次第でどうとでも戦える能力がある。

 そのどの能力も問題なく使えるようなのに、何が不便だというのか。

「まず、というか、一番問題なのが、この体の大きさだ。おらの技はおらの図体があるからこそ成り立つ。人間は筋肉が必要だ。土の体なら、問答無用で魔力流したもん勝ちだが、この体のベースが人間のものである以上、土の体のどぎど同じ感覚で戦闘したらガタがくるのは明白だ」

「確かに……」

 サージュがふむふむと頷く。ソルの魔法や技の数々はソルが人間の体でないことを前提に成り立つものが多い。この貧弱そうな少女の体で今までのようなごりごりの物理攻撃は難しいだろう。

 二つに、とソルは続けた。

「おらの体を形作ってんのが、今はおらの魔力でねえんだよな。たぶん、ノワールの魔力だ。おらが普段、魔力で体を固めてるのは知ってっぺ? だがらな、おらの魔力が普段より有り余ってるだ。その上にノワールの魔力があっから、おらは魔力を持て余してんだ」

「魔法を使えば良いのでは?」

「原語魔法打てるレベルだど?」

「……」

 サージュが押し黙る。原語魔法とは遥か昔に使われていた言葉で詠唱する魔法だ。今の魔法より使い勝手が悪いが、威力は凄まじいものがある。例えば、アルシェなんかは原語魔法で一都市を滅ぼした。

 ソルの土の体は暴力的な魔力量の巡りにより保たれていたわけだ。体を保つために魔力を温存する分、魔法に使える魔力が少ないとは聞いていたが、まさか体を保つ必要がなくなると魔力量だけで魔法使い最強のサージュや、魔力タンクの化け物アルシェ並になるとは。

「あと……この体、軽くてな……いまいち力が出せねえんだ。筋肉のごどもあっとは思うげど」

「え」

 サージュとミルが硬直する。魔力が込められていたとはいえ、先程激震を使ったときの拳は軽く地面にめり込んでいたのだが……そういうことが魔法による強化がないとできないタイプだと、なんだろう、どうしようもなく、考え方の差を感じる。

 実際、ソルとよく取っ組み合いをするシュバリエなんかは、めり込んだ跡を見て、確かになあ、などと呟いている。戦闘スタイルの違いというものをまざまざと見せられた気分だ。基本性能が違うのである。

「体が軽いと体重を乗せる攻撃の威力が変わっちまうんだよ。質量による威力の相乗は魔力だけじゃ補填できねえって言えばわかる?」

 珍しく、シュバリエがサージュに説く形だ。なるほど、魔力は質量を伴わないものだ。物質に混ざることによってその物質の質量に依存している形になる。そうなると、質量は明らかに少なくなっているソルが体が軽くていつも通りの力を発揮できないというのもわかる。

「つまりは、ソルは今、ソルの一番の強みである高威力の物理攻撃ができねえってわけだな」

「んだ」

「いやいやいや」

 地面にめり込む攻撃が高威力でないとしたら何なのか。

「何より、見た目が変わった上に、戦闘スタイルまで変わったら、そもそもおらがソルだど信じてもらえねえがもしれねえだ……」

 しょんぼりと肩を落とす少女、もといソル。根本的な問題はそれである。

 纏う魔力量が変わっており、中には他者の魔力も混じり、見た目は本人の面影など欠片もなく、戦い方も違う。これで口調まで変わったら、それはもうアミドソルの「ア」の字もない。

 魔力探知能力がほとんどないリアンではソルと判別することができないだろう。それどころか、人間の姿なので、敵と間違えられる恐れまである。確かにそれは由々しき事態だった。

 そこで妙案を思いついたかのように、アルシェがぽん、と手を打った。

「いっそ別人として振る舞ってみたら?」

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