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「ボクと契約して美少女戦士に転生しようよ!」その2

 そんなことがあって、魔法少女シリーズに盛大に沼ったアルシェがいた。ミルはちょっとダークすぎて引いていた。シュバリエは様々な武器が出てくるのを興味深そうに観察していた。

 サージュはお騒がせ組が静かなので機嫌がよく、ソルはなんだかんだ平和だな、と思っていたのだ。




 ノワールに謎空間に閉じ込められるまでは。

「どうしてこうなったんですっけ……」

 ソルの隣で呟くような問いかけをしたのはサージュであった。サージュが問いかけた先はもちろん魔王四天王の中でまとも枠のソルなわけだが、普段なら見上げる巨躯はそこにはない。

 というか、どうしてこうなったか一番聞きたいのはこの場において、ソルである。何故なら、ソルは今、土塊の巨人ではなく、ピンクの髪をツインテールにした可愛らしい衣装の女の子の姿になっているのだから。膝を抱えてぼんやりとしている姿は何故だか様になっている。

 この空間に送られたのは、魔王四天王とミルの計五人で、皆一様に可愛らしい女の子の姿になっている。元々女の子であるミルはさておき、普段は魚のひれのような形の耳を持つアルシェも、角を持つシュバリエも、それらの身体的特徴がなくなり、普通の人間の姿になっている。サージュは人間たちの中に潜入するときの姿なのでいくらか見慣れたものだ。

 ただ、アルシェもシュバリエも一目見れば両人と判断がつく程度の変化しかなく、ふりふりのスカートだったり、スタイリッシュな胸当てだったりという服装に目を瞑れば、彼女と化した彼らはアルシェとシュバリエに相違なかった。

 問題はアミドソルである。

 アミドソルは全身が土でできた巨人だ。顔は人間のような精巧な造りをしていない。ざっくりと赤い目と口があるだけ。鼻もなければ耳もない。ついでに言うと、髪もない。服も着ておらず、土の民には性別がない。正に魔物。それが土の民であり、アミドソルだった。

 それがピンク色の髪のかわいい女の子になってしまうなんて、誰が想像できるだろうか。少なくとも他四人は「知らない女の子」がいることにはすぐ気づいたが、「ソルがいない」つまり「この女の子がソルかもしれない」とはすぐにはならなかった。女の子の正体を悟ったのは女の子が喋った瞬間である。

「な、何がどうなってるだ……!?」

 特徴的なイントネーションと口調。これしかソルと断定できるものがなかった。

 可愛らしい女の子の口から、「おら」という一人称や訛りが出てくるのは大分に衝撃的で、四人は雷に打たれたかのようにぴしゃーん、と固まった。その後、アルシェとシュバリエが大爆笑。あわあわしたミルが「アミドソルさま、とても愛らしいのでご安心ください!」と斜め上の答えを出し、アルシェとシュバリエから拍手喝采。サージュは現実逃避気味に呆然としながら、頭は冷静に事態を読み解いたらしく、憎しみを込めて「あんの腐れ上司め……」と虚空に悪態を吐いた。

 どうしてこうなったのか。五人は今日も楽しく魔法少女シリーズの第三期を履修していただけである。……いや、そのせいかもしれない。

 鑑賞中にテレビからマスコットの不思議な生き物が飛び出してきたのである。そうして、魔法少女シリーズでマスコットがやたらと口にするのにも似た台詞を口にしたのだ。

「ボクと契約して美少女戦士に転生しようよ!」

 それに対する反応は様々だった。白けた目のサージュ、目が点になるアミドソル。大草原不可避のシュバリエ。かわいい、と無邪気に抱きつくミル。二つ返事のアルシェ。

「アルシェの馬鹿ーーーーーーー!!」

 サージュのその叫びを最後に、五人の意識は一旦途切れ、気がついたら現状の姿で謎の空間に閉じ込められていたわけである。

「サージュ、この状況について何かわかるだか?」

「ノワールの魔法に女神さまの魔力が混じっています。暇を持て余した魔王と女神さまの悪戯ですね」

「要するに、二人を満足させればいいつうごどだな」

「理解が早くて助かります。まあ、何をすればいいのかさっぱりわからないのが難点ですが」

 火魔法の上位魔法とされる闇魔法。これは言わずもがな、闇の女神の得意魔法であり、魔王も闇魔法の使い手だ。

 闇魔法の性質は混沌と破壊である。火魔法の上位互換かどうかはあらゆる説があるが、木や紙などの物を燃やして火は生まれるものなので、それが「破壊」を、どんなものでも燃やして光をもたらす姿が「混沌」を表しているため、火と闇には性質の同一性が認められる云々。

 魔法理論はさておき、闇魔法の生む混沌は至高の領域のものであれば、もはや「意味不明」としか形容しようのない現象を引き起こすことが可能である。例えば、五人の魔物を人間の少女の姿にして珍妙な衣装を着せ、謎の空間に閉じ込めるとか、そんな感じだ。

 一般的に闇魔法とはあらゆる事象を反転させる、もしくははマイナスに落とし込むものであり、ノワールと闇の女神のこれは魔法と称していいのかすらわからない代物だ。だが、サージュたちの知る身近な言葉で表すと、これは魔法としか表現しようのない事象に該当する。

 まあ、一口に言ってしまうと、「訳のわからない魔法」が「闇魔法」である。

「おーい、サージュ、ソルー!」

「なんですかシュバリエ」

 また馬鹿な話でもするのか、と呆れながら振り向くと、シュバリエは無駄に高い天井を指していた。

「何か書いてあるぞ」

「うわ、原語ですね……」

 原語とは今はもう使われていないセフィロートのかつての言葉である。原語魔法が使われないのは相当量の魔力を消費することが大きな原因ではあるが、現代で原語を読める人物が少ないということもある。

 原語魔法を扱えるアルシェは古より長命で知られる竜人族だが、原語は口頭で覚えたため、文字は読めない。風の民であるサージュは本を読んで覚えたために、原語を読むことができる。

 そしてもう一人、原語を読める人物がこの場にはいた。

「んと、『魔法少女ごっこをしないと出られない部屋』だ?」

「ソル滅茶苦茶目がいいじゃないですか」

 無駄に天井が高いので、魔法で飛んで確認しようとしていたサージュの脇で、ソルがすらすらと読み上げた。

「他にも書いてあるだ。ええと……『注意! この空間はセフィロートではないので、セフィロートの形式での魔法は使えません。代わりに魔法少女たちと同じ仕様の魔法を使えるようにしたから、存分に楽しんでね!』だど……」

「セフィロートの形式での魔法ってなんですか?」

 黄色い衣装をふわふわとさせながらミルがサージュに尋ねる。

「セフィロートの魔法は属性への呼び掛け、その属性への懇願や命令で魔法が成り立ちます。つまり、詠唱が必須ということです」

「魔法少女シリーズの子たちと同じ仕様ってことは、詠唱なくても自分の武器を思い通りに操れちゃったりするってこと!?」

「まじ!?」

 滅茶苦茶目がきらきらになるシュバリエ。アルシェがえいっというと、矢がずらっと現れ、空間の白い壁に刺さっていく。唐突な出来事にサージュは思わず呪文を唱えそうになるが、その前にすくっと立ち上がったソルが守るように両手を前に出す。

 すると、巨大な盾が現れ、矢を防ぐ。盾はその役目を終えると、光になって消えた。なんともそれっぽい演出だ。

 シュバリエとミルは出現させた得物で矢を払い落としていた。さすが脳筋たちである。

「おー、おもしれー」

「詠唱なしで普段使えない魔法使える……」

「アルシェ、いきなり打たないでください!」

 この空間に適応できていないのはもはやサージュだけである。

 アルシェは矢を階段のように連ねながら、駆け上がっていく。とても生き生きとした表情だ。

 てっぺんの矢の上でくるん、と一回転すると、ピース! とポーズを決めて、アルシェは笑った。

「サージュ、これはもう楽しんだもん勝ちだよ。契約しちゃったんだから!」

「あなたが勝手に契約したんでしょうが!」

 サージュの雄叫びに呼応するように砲台が現れ、アルシェめがけて大砲が放たれる。砲弾と思われたそれは空中で細かく分かれ、空間中に散っていった。ぱちぱちと弾けていく。

 その様子ににいっと口端を上げたのはシュバリエだ。いつも扱う大剣ではなく、少し華奢になった体躯に見合う細剣を構える。

「案外楽しそうじゃねえか」

 そうしてサージュに斬りかかってくる。この空間の魔法に適応できていないサージュはとことん感覚派のシュバリエからすると隙だらけだ。

 一閃。確実に捉えたと思われた横薙ぎの攻撃は盾によりいなされる。

「な……!」

「魔法少女ごっこってのはおらだぢが戦うってごどでいいだか?」

 シュバリエの剣を受け止めるのではなく、同じ方向へ受け流すことで見事にシュバリエの体勢を崩させたソルが愛らしさと危険さを兼ね備えたアンバランスな笑みを浮かべていた。シュバリエはまずい、と思う。

 その予想通り、その小さな体躯からは想像もつかないようなパワーでシュバリエが殴り飛ばされる。

「ええーーーーーー!?」

 まさかの力業に全員が総ツッコミ。

 ソルがさらっと言った。

「変身した姿で身体能力が強化されるのはどんなシリーズにもある設定だで」

 それはそう。

「え、この滅茶苦茶かわいい、どちらかというと守りたくなるタイプの姿の女の子、ステータス値ソルのままなの? 怖すぎない?」

 アルシェが言うのも仕方ない。何せ、戦うヒロインものでピンクの女の子は最強と決まっている。必殺技も強い。魔法も強い。そこにソルのポテンシャルが加わると考えると……最強の二文字しか見えない。

 何故なら、環境適応能力が魔王四天王中ナンバーワンなのだ、ソルは。

「こごならいぐら暴れでもいいだべ? なんら、楽しませでぐれだ。なあ? シュバリエ、アルシェ」

 サージュもミルもここで察した。

 普段表に出さないだけで、ソルも相当な戦闘狂なのだ。おそらく、一番暴れ足りていないのは、アミドソル……

 瞬間、シュバリエから細剣の嵐が、アルシェからは矢がソルに集中して飛んでくる。サージュは咄嗟にどうすればいいのかわからず、ミルが鞭のような武器で流れてきた攻撃を捌いて身の安全を確保した。

 ソルは、と嵐が止んだところを見ると、そこにソルの姿はなかった。シュバリエが呆然と宙を見上げている。

「上!?」

 ソルは盾を足場にし、足場を器用に操ってアルシェに急接近していた。あの矢の嵐の中を潜り抜けたらしい。傷一つなく。

 掠り傷すらないソルの可愛らしいフリルドレスにアルシェは呆然としていた。ソルはその目の前でにっこりと笑う。それは愛らしい美少女の笑みにちがいないのだが、何か迫力があった。

「悪いだ、普段より的が小せえがら、当だんながったべ」

 そういう問題ではなくない?

 と思ったが、アルシェはそれを口にすることすら許されず、拳で吹き飛ばされた。

 青魔法少女、脱落。

「あ、アルシェ消えただ」

「えぐ……意識刈り取られたらアウトじゃん」

「明らかにオーバーキルですよ……」

「この調子でみんな元のセカイに戻るだ。行ぐぞ、シュバリエ、サージュ」

「え、ちょ、ま」

 ノリノリになってしまったソルに戦慄いたり、面白がったりする傍ら、ミルがぽそりと呟く。

「魔法少女って、これでいいんですか……?」

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