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ミルたんなう!!

 闇の女神神殿、四天王の間。

「ミルたんなう!! ミルたんなう!! ミルたんミルたんミルたんなう!!」

 狂ったようにそう叫ぶのは、魔王四天王「水」の一角、アルシェである。

 それをあからさまにドン引きして眺めているのは「風」の一角、サージュである。

「え、何言ってるんですか、アルシェ」

「ミルたんを称える歌の作成なう!!」

「ちょっと何言ってるかわかりません」

 ミルたん──そう呼ぶのはアルシェだけだが、サージュにも心当たりはあった。

 準魔王四天王、ミル・フィーユ。魔物ではあるものの、容姿は人間そのものという、人外ひしめく魔王軍の中では見た目だけでも異彩を放つ人物である。

 そういえば、アルシェはミルのことをひどく可愛がっていたな、とサージュは思い出す。それはもう、目に入れても痛くないというほどに。

 ただ、スキンシップが激しすぎて、ミルが時折その怪力でぶっ飛ばしているのだが、幾度となくぶっ飛ばされているはずのアルシェは全く懲りていないらしい。ミルを見るなりハグは日常である。

 魔王軍として進軍が始まって以降、イェソドの守りを任されている真面目なミルは、今、イェソドで侵入者がいないか見張っているという。一度、勇者一行が来てからは彼女もぴりぴりしており、触らば切る、と言わんばかりの威圧感を漂わせているのだが、その緊張感をガン無視して抱き着きに行くのがアルシェである。アルシェが魔王四天王でなければ、ミルお得意の千枚葉で微塵切りにされているところだろう。

 そんなわけで、暇で暇で仕方のないアルシェは、今、深刻なミル不足に陥っているのだという。サージュからすると知ったことか、となるのだが。

 四天王の間に見慣れない備品があった。それは丸くて薄い何かの入れ物だろうか。見ると、中が透けて見える部分があり、中では円盤状の何かがぐるぐる回っている。

「これは何ですか?」

「んとね、ノワールが娯楽用に仕入れてきた……えーと、何て言ったっけ? しーでぃー? とか言うやつ」

「ノワール……戦争中なのに緊張感のない……」

 ノワールノワール呼び捨てにしているが、ノワールは魔王である。つまり魔王軍の総大将なわけだが……前線には出ないので、現場指揮の四天王たちには敬われていなかったりする。

 これでよく魔王軍が成り立っているな、とは思うが、これだからこそ、魔王軍なのである、とも言える。

「いいじゃん。セフィロートは娯楽が少ないんだよ? 本くらいしかないじゃん」

「まあ、そうですけどね……だからこそ、マルクトが娯楽都市なわけですが」

 セフィロートのごく僅かな人物だけが知る真実。セフィロートとは別の世界が存在すること。けれど、その別な世界との繋がりはマルクトにしかないのだ。ノワールはその繋がりを利用している。

 それで、今アルシェとサージュの前にあるのが、しーでぃーというわけだ。

「しーでぃーとはどんなものですか?」

「歌が入ってる円盤だよ」

「歌、ですか」

 サージュも聴いてみなよ、としーでぃーから伸ばされていた糸のようなものを渡される。耳につけて使うようだ。

 ……途端に流れてくる音声は狂ったように同じ言葉を連呼していた。音量も相まって、サージュは即座に外した。

「なんですか!? これが歌!? ふざけないでくださいよ!!」

 ちなみに、セフィロートにも歌という概念は存在する。主に吟遊詩人が奏でる美麗な旋律の連なりで、吟遊詩人はそこに魔力を込めて、癒しを与えたりする。

 基本、吟遊詩人が歌うためのものが歌なので、セフィロートの歌はこんなにがちゃがちゃしていない。

「えー、いいじゃんー、これはこれで乙というか」

「どこが!?」

 目を剥くサージュ。

 いや、それよりも重大なことを、二人は忘れていた。

「あの、アルシェさま、サージュさま」

 後ろからかけられた声。それは。

「ミルたん!!」

「いや、あの、ええと」

「何故私の話で盛り上がっているのですか?」

 ミルたんことミル・フィーユがその場にいたことである。ミルはまだ歌を聴いていないが……

 ぶちん、としーでぃーに繋がれた糸を切る。大音量で流れる「ミルたんなう!!」の歌詞の内容に絶句し、それからミルはアルシェを特に汚物を見るような目で見た。

「人で勝手に気持ち悪い妄想しないでください」

「ごめん、ミルたん!!」

「失礼致します」

 それから一月ほど、ミルが神殿に戻ってくることはなかったという。

その剣を更新しない代わりに突発的に書きたくなった話をば。

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