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魔法の杖の作り方

 魔王四天王の間で、準四天王と呼ばれる実力を持つミルは可愛がられた。

 アルシェが可愛がり(抱きしめる)、サージュが可愛がり(指導する)、シュバリエが可愛がり(しごく)、アミドソルも可愛がる(尊敬する)。

 ん? 変な言葉が見えた? 気のせいだ。

 そんなミルに、サージュはとうとう武器を与えた。なんてことはない木の杖である。魔法使いらしくなり、ミルを妬む者が魔王軍内に現れるようになった。もちろん、ミルに嫌がらせをするような胆の小さい輩は、ミルを可愛がる魔王四天王(主にアルシェ)によって成敗されている。

 ただ、全てが全て、魔王四天王がやっているわけではない。真っ向から挑んでくるやつもいるので、ミルは自分でも対処していた。対処は簡単だ。どうやら、魔法使いで人間の女のような容姿をしているのを侮られるようなので……シュバリエからの教えに習い、杖(物理)でぼっこぼこにする。時には手で殴ることもあるが、魔法じゃない攻撃手段は杖である。

「シュバリエ、何をどう育てたら、彼女が物理で殴りに行けるんですか?」

「俺は普通に教えただけだが?」

 さすが脳筋である。

 もっと具体的に言うと、

「まず、組み手をやって、筋は悪くないから、木刀を持たせた。女剣士ってのも悪くないだろう? んで、デバフかけられても持てるようにって、鋼の模擬刀を持たせて、慣れてきたら重量を増やすようにしている。あいつなかなか怪力でな。俺の大剣もバフなしで持ったぞ」

 らしい。

「待ってください、それを普通とは言いません」

 言い返すサージュにえー、というシュバリエ。サージュの方にそうだそうだ、とアルシェが加勢する。

「可愛い女の子にあんな化け物の持ち物持たすのは間違っている」

 そこではない。

「化け物とはなんだ、化け物とは」

 そこでもない。

「「お前だよ」」

 サージュとアルシェの声が揃う。だが、そこではない。段々論点がずれていっている。

「それをこなすミルもミルだな」

 確かに。やはりアミドソルが一番まともという通常運転な魔王四天王である。

「あの杖より重いものを持たせる必要がないでしょう」

 サージュの意見はもっともだ。魔法使いタイプの人間は回避に特化している方が戦術を組みやすい。故に、軽装が好まれる。サージュに至っては武器すら持っていないくらいだ。

 それは魔法を封じられたとき、物理攻撃手段を持たない魔法使いは逃げに徹するのが得策だからである。

 だが、ミルの向上心はアルシェ並みにある。シュバリエは言い訳した。

「だって、あいつがやりたいっていうんだし? 別に強制してねぇよ」

 苦しい言い訳である。アルシェの眉間のしわが深くなる。

「ミルちゃんが大剣をぶん回す姿なんて、姿なんて……みたいかも」

 サージュとアミドソルが盛大にずっこける。シュバリエも見たいのかよ! と突っ込んだ。

「ミルちゃんは私のアイドル。何をしても許せる」

 中毒者の発言だ。そのうちストーキングを始めないかサージュは不安になった。

 それはともかく。

「ミルの武器はあの木の杖で充分なんですよ。余計なことは教えないでください」

「余計なこととはなんだ。こちとら親切で教えてんのに」

 納得のいかなさそうなシュバリエにサージュが詰め寄る。

「あの杖、どうやってできたと思うんですか?」

「えっ、あの杖、何か特別な由来があるのか?」

 きょとんとするシュバリエにじと目のサージュ。はあ、と大きく溜め息を吐き出し、サージュは告げた。

「私が弟子に中途半端なもの持たせるわけがないでしょう」

「いや、そもそもお前弟子いないだろうが、他に」

「勇者パーティを一人育てました」

 まあ、その勇者パーティの魔法使いは無手だが。

 サージュは魔法を極めるならとことん追究するタイプだ。自分が認めた相手なら尚更、妥協は許さない。故に、それとなく、ミルに手渡された木の杖にもサージュの拘りがある。

 アミドソルが遠慮がちに口を開いた。

「だども、ミルには口が裂けでも言えねぇだ……あれが樹木神アルブルさまの体からでぎでるだなんて……」

「はいぃっ!?」

 シュバリエとアルシェは耳を疑った。サージュはにこにこしている。

「そういえば、あのときはアミドソルにお世話になりましたね」

「礼ならフェイに言うだよ。おらは繋いだだげだがらな」

 そう、ミルの木の杖はサージュがアミドソルに頼み込み、アミドソルがフェイに話して作ったものだ。

 フェイとは、フロンティエール大森林を司る樹木神アルブルの化身である少女のことだ。森の守護者であるアミドソルとは顔馴染みである。

「本当は木を一本一本見て回りたかったんですが、木の枝一本折るだけでも目を光らせる森の守護者がいますからね」

 それはアミドソルもそうだが、もう一人、森には人間の守護者がいる。リアンというその少年はアミドソルとの約束を重んじ、真摯に森の守護者の役目を果たしている。その実力はアミドソルに勝るとも劣らない。それを敵に回すのはいただけないので、アミドソルを介し、交渉したのだ。

「それにしても、よく樹木神の枝なんてもらえたな」

 シュバリエが声をひそめて言う。確かに、森の大樹であり、神であるアルブルの本体の一部というのは普通ではない。

「アルブルさまはおらに一つ借りがあるだがらな」

「神に貸し作るとは、アミドソルも隅に置けない。剛毅なやつだな」

 アミドソルたち土の民は普通とは異なる生と死の概念がある。土の民は死ぬと文字通り土に還り、何年、何十年、時には百年単位の時を経て、同じ土から同じ土の民が生まれる。アミドソルも何度か土に還ったことはある。魂はそのままなので、記憶はそのまま引き継がれる。そのことをアルブルは承知しているので、随分昔の貸し借りでも、ちゃんとしなければならないのだ。

「おらはずっと森を守ってるだ。土に還ったのも数えられるぐらいだがらな。そんな長い間森を守ってるごどへの見返りはほとんどねぇだよ。その分が借りになるんだ。何百年か分の借りと引き換えなら、アルブルさまの枝ぐれぇは手に入れられただ」

「ソルやべぇ」

 シュバリエが若干引いた。失礼ですよ、とサージュがシュバリエの頭を叩く。

「加工は、フェイの善意だ」

「すげぇな……神の化身の作品ってわけだ」

「そうなるだな」

 普通に会話しているが、そうそう手に入るものではない。アミドソルというコネがあったからこそのあの杖である。知ったら、ミルはアミドソルに足を向けて寝られないだろう。

「あれは最高のものです」

「使い手に相応しいかね」

「シュバリエが指導した炎の勇者くんとは違いますよ」

「何気に俺に対する毒がひどいよな、サージュ」

「いつもじゃないですか」

 サージュの笑みは清々しいほど爽やかだ。シュバリエが渋い顔をする。

「シュバリエのせいでただの魔法使いだったはずが、バーサークヒーラーに育ってしまって」

「俺のせい!?」

 指導だよ、と言い張るシュバリエ、ミルの戦闘スタイルの変貌を嘆くサージュ。魔王四天王は今日も異常性抜群で平常運転なのであった。



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