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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第十章 アクタ
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早すぎる情報

 みんなを見送ったあと、俺は席を離れ、サシオンの傍に立つ。

 そして、首を少しだけ傾けて尋ねた。



「なにか、用でも?」

「実は皆の手前、先ほどの議会の説明の一部を改変した。ブラウニー陛下のご発言、『関係者を取り締まるべき』という箇所。正確には『異界の関係者を取り締まるべき』とご発言された」


「ああ、それには何となく気づいてたよ」

「そうか……迷い人の襲撃により、彼らの正体を異世界人と知る者は異世界人に対して懐疑的な態度をとっている。ヤツハ殿、申し訳ないが……」

「俺が異世界人だとバラすなってことね。それについて、気になることがあるけど、いい?」


 俺が問おうとすると、サシオンは問いの中身を先回りする。

「なぜ、迷い人が異世界人であること。また、異世界人がアクタにいることを秘密にしているのか……という疑問かな?」

「うん、それ。なんで?」


「理由はいくつかあるが、大元となるのは、異世界人は知識の宝庫だということ」

「それって、アクタの発展に妙な影響を与えないようにって話? 前も言ってたね」

「うむ。細かな影響は仕方ない。しかし、あまり大きな影響はな」

「例えば?」


「技術。例を挙げればキリがないが……技術提供の行い方によっては、各国、各地域で技術的な不均衡が起こってしまう。そのことが争いの呼び水となるであろう。自滅の可能性も……」

「ふむぅ~、技術ねぇ」



 俺は頭の中で、自分なりの例を挙げる。

 

 技術的な不均衡――アクタに航空技術がないと仮定して、とある異世界人がA国に飛行機の作り方を教えたとする。

 そうすると、A国はその技術を生かし、他国へ侵攻する可能性がある。

 また、A国の技術を欲して、B国・C国がA国へ攻め込んでくる可能性もある。


 自滅の可能性――核兵器や細菌・化学兵器。遥かに進んだ技術なら反物質兵器ってのもあるかもしれない。

 そんなものが突如アクタに現れたら、たぶんアクタ人は持て余してしまう。

 特に反物質兵器なんてもの、使用を誤れば女神の結界も関係なくアクタが消えてなくなる。


 これらが自分たちのせいで起きたならともかく、部外者の存在で引き起こされたとなると、多くのアクタ人にとって納得のいかない事態だろう。



「うん……専門知識を持つ異世界人に考えもなしに行動されて、勝手な交流を持たれたら大変そうだ」

「それゆえ、行き過ぎだと思われる事柄は私や迷い人たちが監視し、時に介入している」

「あ、そんなこともしてるんだ」


「世界で起きている全てを把握できているわけではないがな。さらに、これらの技術情報以外に、新たな思想もまた、世界を混乱に陥れる可能性がある。現在、アクタ人側は技術よりも、こちらの方を大きく問題視している傾向があるな」

「思想? どんな?」


「ヤツハ殿は民主主義の国家からやってきたのだろう。それを王侯貴族が治める地に伝えたとしたら?」

「そうだねぇ、特権階級と民衆で争いが起きかねない、かな? 進んだ考えでも、まずは受け入れる土壌や理解できる人たちが必要……価値観の準備が整わないと毒にしかならないってことか」


「そういうことだ。価値観の影響は予期せぬ大きな波紋を打つ。その一端は、コナサの森のエルフから見えてくるだろう」

「そんなにズレた価値観なんだ。どんなのか説明してくれないの?」

「済まない。私の時代とは大きく価値観が違っていて、説明する(すべ)がない」

「その言い方、めっちゃ不安なんだけど……」



 エルフの受けた影響は俺の時代と近い価値観らしいけど、サシオンが説明不能と言うくらいのもの。

 本当に俺なんかで理解できるんだろうか?


「ま、やるしかないか。えっと、技術、価値観、思想……他には?」

 

「他か……あまり、口にはしたくないが、異世界人たちへの異物感というものもある」

「なにそれ?」

「この世界は多種多様な種族がいる。そのため諍いも多い。その中で、明らかに自分たちと異なるモノの存在を知れば、我々に対する拒否感が先行するだろう」

「つまり、差別や弾圧や迫害の対象になりやすい?」


「その通りだ。それらに対抗するため、異世界人たちは必要な措置を取る。そうなれば、技術的に劣るアクタ人は不利。アクタ人からすれば、異世界人の知識は大変魅力的だ。だが同時に、いない存在であり続けて欲しいというわけだ」

「見えない存在。空気のような存在『マヨマヨ』、か」

 

 

 ここまでの話を要約すると、マヨマヨはアクタの歪な発展を回避するため、極力アクタ人と距離を置いている。

 

 アクタ人の支配階級は、力の勝るマヨマヨと敵対することを恐れている。

 また、余計な価値観を与えてもらっては困る。

 実際の事例として、影響を受けているコナサの森のエルフとは交流が難しくなっている。

 

 マヨマヨとアクタ人は見つめる方向が違いながらも、互いにあまり関係を持ちたくないというわけだ。


 だけど同時に、アクタ人は異世界人の技術を魅力的に受け取っている。

 この点が非常に気になる。


「知識は魅力的……それって、アクタ側が優位に立った瞬間、間違いなく無理やり異世界人の知識を奪いに来るよね?」

「おそらくは。その時までに、アクタ人の精神が高みに昇っていることを切に願おう」

「高みねぇ。アクタよりも多少は考えが進んだ地球から来た俺の意見だけど、たぶんそれ、期待できないと思う」


「フッ、どのような世界でも、智と欲を持つ者は変わらぬか……」


 サシオンは小さな笑いを飛ばす。

 彼も最終的には争いを避けられないと感じているみたいだ。

 でもこれは、遠い遠い先の話……とはいえ、たくさんの人々が悲しむとわかっているのに止められないというのは、良い感じがしない。



「ふぅ。ま、大体わかった。他にもいろいろ弊害がありそうだし、気をつけるよ」

「そうして頂けると助かる……そういえば、ヤツハ殿はなぜ、自分が地球から来たことを隠していた?」


「え? いや、名乗ろうかどうか悩んでたら、フォレが記憶を失っていると勘違いしたんで、ちょうどいいから、こっちの世界のことがわかるまで乗っかっておこうって思っただけ」

「なるほど」


「でも、そのせいで妙に思われるし、みんなを騙してる感じで後ろめたいし、今は浅はかだったなぁって思ってる」

「思いが深まれば、そうなるであろうな。しかし、申し訳ないが今しばらく、皆にも秘密にしてもらいたい」

「はぁ~、いよいよバラせなくなったってわけか。全部が落ち着いたら……あ、でも、う~ん」

「どうされた?」

「いや、何でもない……」


 考えてみたら、異世界人以外にも性別も偽ってるわけで、いろいろ説明しがたい……考えても仕方ないことは考えない。

 ここは自分の信条に従い、進もう。

 その時が来たら、なるようになるだろ。正直、毎度毎度このことで悩むの疲れてきたし。

 俺は軽くため息をついて、サシオンへ顔を向ける。



「話はこれだけ?」

「ああ」

 話はこれでおしまいみたいだ。

 では、最後にこちらから最も基本かつ重要な話を尋ねて終わるとしよう。



「そっか。じゃあ、帰る前に一つ、こっちからもいい?」

「もちろんだ、構わない」


「あんがと……サシオンは女王推しなの? あと、六龍将軍のトップ、クラプフェンって人も」

「私は女神コトアの守護者。どちらの味方でもない。ただ、ブラウニー様よりもプラリネ様の方が、より女神コトアの安全を図れると思っただけだ」

「じゃあ、女王の味方はクラプフェンだけ?」

「クラプフェンは規則を重んじる。プラリネ様を味方したわけでない」

「え、じゃあ、プラリネ女王は孤立無援……」


「教会はプラリネ派だ。六龍将軍や近衛騎士団団長は基本的に態度を露わとしていない。立場上、双方の王に仕える身だからな」

「基本的ねぇ……ま、上のことは上の連中で遊んでればいいや。こっちに迷惑掛かりそうだったら、怒鳴り込んでやろう」

「あはは、頼もしいな。そのようなことが起きぬよう、私も努力しよう」

「頼んだよ。じゃ、帰るね」

「うむ」


 大広間を後にして、玄関へ向かう。

 その途中、ティラのことを思い出す。


(襲撃の日から一度も会ってないな。お母さんは大変そうだし、大丈夫か? 明日、ちょっと様子見に行ってみるか)

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