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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第八章 駆け抜ける日常
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楽しい時間は急ぎ足

 フォレを見送って、俺はティラとピケに近づき、何を話しているのか尋ねようとした。

 すると、ついさっきまでご機嫌だったピケが、なぜかふくれっ面をしている。



「あれ、ピケ、どうした?」

「む~、ヤツハおねえちゃんのバカ~」

「え、いきなりバカって? なんかあったの、ティラ?」

「これだ、この髪飾りにピケは怒っておる」

 ティラは自分の前髪を留めている、ガガンガの髪飾りを指さす。


「そのガガンガの髪飾りで、なんでピケが?」

 髪飾りに何か怒る要素があるんだろうか? 

 理由に見当がつかず首を捻っていると、ピケがちょんっと俺の二の腕をついてきた。


「わたし、おねえちゃんから、何もプレゼントされたことない……」


 ぷく~っと、ほっぺを膨らまして、こちらを睨んでいる。

 どうやら、ティラにだけプレゼントしたことを怒っているみたいだ。


「そっか、わるかった。ピケには普段からお世話になりっぱなしだし、礼の意味を込めて何かプレゼントするよ」

「ほんと?」

「うん、ほんとほんと。何が欲しい。ぬいぐるみとか?」

「それじゃあ、あの髪飾りが欲しいっ」


 ピケが指さした髪飾り。それはティラにプレゼントした同じガガンガの髪飾り。


「同じものでいいの?」

「うん、ティラちゃんとお揃いがいい」

「うむ、私とお揃いだ」


 二人はね~っといった感じで、首を斜めに傾け合う。

 さっき出会ったばかりなのに、まるで仲の良い姉妹のようだ。



「じゃあ、髪飾りをっと。店員さ~ん」

「待って、おねえちゃん。おねえちゃんの髪飾りも買おうよ」

「俺の? いや、別に髪飾りなんて」


「ダメだよ。おねえちゃん、全然女の子らしくないんだもん。髪飾りくらいないと。ね、ティラちゃん」

「たしかにピケの言うとおりだ。振舞いは粗野で言葉は乱暴なのだから、せめて見栄えくらい良くしないとな」


「お前らなぁ……はぁ、わかった。そんなに高いもんじゃないし。すみません、同じものを二つください」


 髪飾りを購入してピケにプレゼント。

 ピケは包装紙をビリビリと豪快に破いて、早速髪飾りを自分の前髪につけた。

 ガガンガの可愛さが、より一層ピケの愛くるしさを引き出している。

 

 俺は長い後ろ髪を一本に束ね、髪飾りをパチリとつけてまとめる。

「どう、二人とも、似合う?」

「うん、可愛いよ、おねえちゃん」

「そうだな、これで息を止めておれば、素晴らしい美人だ」

「ティラ、辛辣すぎるだろ。でも、普段からこれを着けてるのは、ちょっと恥ずかしいな」


 後ろ髪を束ねるパンダのようなガガンガの髪飾りをそっと撫でる。

 可愛らしすぎて、なんというか……照れくさい。


 ピケはぴょんぴょん跳ねながら俺の髪飾りを見つめる。


「そう、大丈夫だと思うけど?」

「ほら、なんていうかな。合う合わないがあるだろ」

「そっか、衣装との相性は大事だもんね」

「あ、うん。それだっ、それ」


 俺には合わないって意味だったけど、ここはピケのお洒落意識に乗ろう。

 しかし、ティラはジトーっと疑いの眼差しを向けてくる。



「ふむ、何やら、誤魔化しに聞こえるが」

「そ、そんなわけないだろっ。ま、髪飾りはお守り代わりにいつもポケットに入れておくからさ。それでいいか、ピケ?」

「うん! じゃあ、私もそうする。ティラちゃんも!」

「そうだな。私も常に持ち歩くとしよう」


「よし、話がまとまったところで……これからどうしよっか? そうだ、ティラ。ピケも一緒に連れて行っていい?」


「もちろんだ。ピケといると楽しいからな」

「私もティラちゃんといると楽しいよ」

「うむ、とうぜんだな。私とピケは友達だからな」

「うん、と~っても仲良しの友達」


 二人は手を取り合って飛び跳ねている。

 その様子はとても微笑ましい。

 でも、なんでしょうか? この微妙な疎外感は……。



「さて、一緒に遊ぶのはいいけど、これからどこへ行こうか?」

「はいは~い、ヤツハおねえちゃん」

「はい、ピケさん。なんですか?」

「おいしいお菓子屋さんがあるので、ティラちゃんに教えてあげたいです」

「そりゃ、かまわんけど。ティラはさっき散々飲み食いしたから――」


「お菓子屋だと? それは是非とも行かねばな」

「うん、こっちだよ。ティラちゃん」

「うむ、わかった。ほれ、ヤツハ。何をしておる? 置いてくぞ」


 二人は仲良く手をつないで走っていく。

 俺は一人、その場にぽつんと取り残される。


「ふむぅ~、どんなに親しくしても、子ども同士の友達の間には入れないのか……て~か、ティラの奴、どんだけ食うんだ。おい、お前ら走ると危ないぞ!」



 俺は二人が人ごみに消えてしまう前に、急いでピケとティラの元へ走っていった。




 ピケとティラは街中をあちらこちらと動き回り、楽しげな会話を交えながら流れ歩く。

 時折、ピケお勧めの雑貨屋、食べ物屋さんを覗く。

 俺は子ども特有の無現の体力を前に、ついていくのがやっと。


 そして、ついていくたびに懐が軽くなっていく。

 少しは遠慮してくれぇぇぇ!



 

 結局、日が傾くまで、二人に引きずり回された。

 空色が少しずつ赤みを帯びてくる。


「もうすぐ日暮れか」


 俺は肉まんみたいなパンを頬張っているティラに近づき、耳元で囁く。


「おい、ティラ。そろそろ、戻らないとヤバいんじゃないのか?」

 この一言に、ティラは瞳から色を消して、肉まんから口を放した。

 そして、小さな声を漏らす。


「……あと少し」

「いやいや、日が沈む前に帰らないとバレるだろ」

「やだっ!」


 ティラは大声を張り上げて、帰ることを拒絶する。

 その声に驚いたピケが不安そうに瞳を震わす。


「どうしたの、おねえちゃん?」

「そろそろ、ティラはおうちに帰る時間なんだよ」

「え、そうなの?」

「うん、だけど……」


 視線をちらりと動かしティラを見る。

 ティラは(うつむ)き、薄く、呟く。


「私は帰りたくない。もうすこし、ピケと遊びたい」

「うん、わたしも……ヤツハおねえちゃん、ダメなの?」


 先ほどまでとても元気だった二人。

 だけど今は、祭りの後に似た寂しさが辺りに漂っている。

 だからとって、雰囲気に流されるわけにはいかない。



「う~ん、さすがに日が沈むまではヤバいし。ティラ、わかってるだろ」

「わかっているっ。でも、もう少しくらい自由があっても……私だって、子どもなのに……」


 ティラは力のこもらない瞳を俺に向ける。

 そのまま瞳だけをずらし、周りでやんちゃに遊んでいる子どもたちへ向けた。


(あ~、弱ったなぁ。そんな目を見せられたら……仕方がない)

「あと、ちょっとだけだぞ」

「ヤツハっ」

「おねえちゃん、本当っ?」

「ああ。だけど、本当にちょっとだけだぞ」

「おお、わかっておるっ!」

「うん、おねえちゃんありがとう!」


 さっきまでの寂しげな雰囲気はどこに行ったのか。二人は元気はつらつとウサギのように飛び跳ね回る。

 するとそこへ、聞き覚えのない女性の声が響いた。



「だめですよ~」



 女性の声はとてもゆったりとした口調で、思わず身体から力が抜けてしまいそうになる。

 その声はふにゃりとしながらも、とても優し気な声。

 

 そんな声なのに、ティラはどういうわけか、電気でも走ったかのようにビクリと身体を跳ねて、固まった。

 そして、言葉詰まらせ声を漏らす


「そ、そ、その声は……アレッテ……」

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