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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第五章 遭遇……アクタの謎
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マヨマヨ

 赤い襤褸(ぼろ)を纏うマヨマヨは、もう一度俺に向かい尋ねてくる。



「なぜ、扱える?」

「え、いや、扱えるわけじゃ。ただ、線が外れたから、くっつけただけで」

「偶然、だと言うのか?」

「ええ、まぁ、そうなるかな」


 マヨマヨは真っ暗なフードの中から目だけを光らせて、じっと俺を見つめている。

 まるで心の中を覗き見られているようで、落ち着かない。

 彼はしばらく無言でこちらを見つめ、目を逸らしたかと思ったら、そばに近づいてきた。



 俺とアプフェルは後ろへ足を運ぶ。

 だが、途中で大きな機械に阻まれ、それ以上後ろに下がれなくなってしまった。

 マヨマヨは俺たちのことを無視して、ボックスの中から水晶を取り出している。


「反応を見せるとは……小さいとはいえ、回収すべきか。あまり、無用な動きはしたくないのだが。まさかと思うが、一応……ふむ」


 そう、籠った声で呟き、俺をちらりと見たかと思うと、彼の周囲に光のカーテンが降りて、姿を消した。

 空気は一気に弛緩し、俺たちは大きくため息をつく。



「はぁ~、びっくりしたぁ。なんなのあいつ?」

「知らないよっ。マヨマヨから話しかけられるなんて。あんた、何者よ?」

「知らんわっ、それこそこっちが聞きたい。なんで話しかけられたのか!?」


「はぁ~。まぁ、いいわ。今日は疲れた。とりあえず帰って、ご飯食べよう」

「メシに逃げんなよ。だけど、マヨマヨって何なんだ? いきなり消えるし」

「すごいよね。あの転送魔法。時計塔に張られている結界を簡単に飛び越えて。しかも、魔力の変動を一切感じさせないなんて。エクレル先生でもおそらく無理よ」

「……ああ、そうだな」



 魔力の変動を感じさせない転送魔法――アプフェルはそう語るが、あれは魔法じゃない。

 一応、俺も空間魔法を齧っているから、あれが空間魔法でないことぐらいわかる。

 あれは、技術的な転送。SFに出てくる転送技術のように思える。



(地球の技術を遥かに超えている。あいつは宇宙人か? でも、日本製のエレベーターはあるし、未来人? も~、わけわかんねぇっ)


 わからないことは考えないのが、俺の信条。

 しかし、放置できないことだってある。

 


(くそ、なんだか面倒そうなことになってきた。でも、これらは調べておいた方がいい気がする。特にマヨマヨとは、一度、じっくり話をしないと)


 未知の技術……マヨマヨは俺の知る技術を遥かに超えた存在。

 ということは、男に戻るための方法や帰るための方法を知っているかもしれない。

 

 俺は(うつむ)いて考えをまとめる。

 そこに、アプフェルが覗き込んできた。疑問の声とともに……。


「ヤツハ、どうして笑ってるの?」

「え?」

 

 口元を押さえ、指摘されたことを考える。


(なぜ、笑っているのかって……おそらく、手掛かりを見つけたから。全てを元に戻せるかもしれない手掛かりを……)


 喜びを噛みしめて、俺はじっと黙り込む。

 それをアプフェルは、心配そうに無言で見つめている。

 そんな彼女の姿が視界に入った途端、口元から笑みが消えた。


(そうか、元に戻るってことは、みんなと別れることになるのか……でも、地球には家族がいるし……そうだな、これらは全て、可能になってから考えよう。それからでも遅くないはずだ……)





――王都『サンオン』より離れた丘の上



 光のカーテンが降りて、中から先ほどの赤い襤褸(ぼろ)を纏ったマヨマヨが現れた。

 彼が手を前にかざすと、目の前に半透明の画面が現れる。

 画面には、彼とは色違いの黒い襤褸(ぼろ)を纏ったマヨマヨの映像が浮かぶ。

 映像の中の黒いマヨマヨが語り掛けてくる。


「王都に潜り込んだそうだな。あそこには奴がいる。あまり刺激を与えるな」

「わかっている」

「それで、女神の様子はどうだった?」

「大丈夫だ、守護のための眠りは深い。加え、王都のシールドに綻びを見つけた」

「それは重畳。今、虚無の女神に目覚められては、いかに我々であろうと太刀打ちできない。だが、シールドに綻びとは……条件がそろったな。ふふ、英雄祭が楽しみだ」



 黒いマヨマヨは嫌らしく笑い声を漏らす。

 その声を聴いて、赤いマヨマヨは僅かに顔をしかめた。

「…………っ」

「他に何か報告は?」

「ダークエネルギーの欠片を回収した」


 彼はエレベーターの動力源だった赤い水晶を黒いマヨマヨにかざす。

 すると、黒いマヨマヨは責めるような口調を見せた。


「そんな小さな欠片を回収してどうする? 王都で無茶はよせ。下手に動けば奴の不興を買いかねないのだぞ」

「わかっている。しかし、欠片と反応する者がいた。専門的な知識はなさそうだが、我々の概念を知る者。だから、念のために回収したのだ」


「そいつは何者だ?」

「我々と同じ存在だ。だが、いまはまだ、旅人ではない。おそらくは咎人」

「ふん、別世界の高位種め。また、『不要なモノ』を送りつけたか」


 黒いマヨマヨは吐き捨てるように言葉を出す。

 どうやら、彼は笠鷺燎(かささぎりょう)を送り届けた存在に嫌悪感を抱いているようだ。

 黒いマヨマヨはため息を交え、言葉を続ける。

 


「ふぅ~、まぁ、そのおかげで多くの力と知識が得られる。それは女神コトアもなのだが……ともかく、そいつが我らの旅路を邪魔する者でないといいな」

「ああ、そうだな。うまくいけば、我らの協力者になるかもしれない」

「だといいが……」


 黒いマヨマヨは力なく言葉を漏らし、胸元に手を当てる。

「我ら、迷い迷いて迷いざるを得ない旅人に道の幸福を」

「道の幸福を」


 二人は互いに、祈るような言葉を唱え、静かに(こうべ)を垂れた。



 

 赤いマヨマヨは画面を消して、新たに別の画面を浮かべる。

「事前に得ていた情報と姿も性別も違うが、次元係数は同じ。一応、アイツに伝えておくか。笠鷺燎(かささぎりょう)らしき存在を見かけた、と」

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