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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第五章 遭遇……アクタの謎

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いざ、違法賭博場へ

ヤツハは地球への帰還を目標に掲げている。

その目標を達成するための重要な空間魔法。

しかし、身体が元の自分とは違う女性の身体であるために、空間魔法を使いこなせない。

そのため、ヤツハは男へ戻ることを強く決心する。


今のところ、男に戻る方法も帰還の方法も見つからない。

そういうことで目の前の仕事に精を出すしかない。

その仕事がきっかけで、アクタの謎に迫ることになる。



 サシオンからの依頼。

 街の人々の(まこと)の声を届け、できたら違法賭博場の情報を得ること。

 できたらってのは俺の言い分で、サシオンから見ればこちらが本命。

 

 彼は無理強いや急かすようなことはしないが、内心は『はよ、情報集めてこい』と思っているだろう。

 俺としても、なんだかんだで大金を貰っているわけだし、それなりのことはしようと考えている。


 そこで違法賭博場の視察を考えた。

 しかし、自分一人で乗り込むというのはかなり心細い。

 誰か、賭博場に詳しい人が一緒に来て欲しいけど、そんな人物、俺の心当たりにいるわけ――いたよ。




 心当たりの人物とともに、夜の食事処。賭博場へやってきた。

 彼は酒の匂いのする息を吐き出しながら、へらへらと笑っている。

 

「いや~、ヤツハちゃんが賭け事に興味あるなんてね~。おじさん、びっくり」

「どんなものか覗きたいだけだよ。てゆ~か、サダさん。あんたもう、酒が入ってるのか?」

「酒は命の源だからね、仕方ないね」

「はぁ~、まあいいけど」


 おっさんの飄々っぷりにがくりと肩を落とす。

 そんな俺たちの後ろから、女の子が声を掛けてくる。


「ほら、ヤツハにサダさん。こんなところで突っ立ってないで、早く中に入りましょ」

「アプフェル。ほんとに一緒にくるの? 来てくれるのは心強いんだけどさ」

「ここまで来て帰れるわけないでしょ。でも、頼ってくれてるんだ。ありがと」


 彼女は変装用の眼鏡をくいっと上げつつ、ピンクのケモ耳をピンっと跳ねて、くすりと笑う。

 どうしてアプフェルまで違法賭博場に来ることになったかというと、話は昨日の宿屋サンシュメまで戻る。

 


 俺は遊び人のサダさんに賭博場のことを尋ねる。

 すると、彼は予想通り賭博場を出入りしていた。

 そこで連れて行ってもらえるようにお願いをした。

 もちろん、サシオンの話はしていない。あくまでも俺が興味があるというかたちで。

 

 しかし、それをたまたまアプフェルが立ち聞きしてしまった。

 当初、真面目な彼女はこめかみに青筋を浮かべて、尾っぽと耳の毛を逆立てながら咎めてきた。

 

 だけど、アプフェルは騎士団関係者。すでに、俺がサシオンの隠密もどきをやっていることは知っている。

 依頼による仕事だと耳打ちすると、すぐに彼女は納得した。

 納得したのだけど……自分もついていくと言い出して、こうなってしまったのだ。

 

 

 アプフェル曰く『賭博場って荒くれどもが多いんでしょ。サダさんの案内だけじゃ、ヤツハのこと心配だもん』と。

 

 本当なら、彼女をこんな危険なことに付き合わせたくない。

 

 でも、つい、顔を真っ赤に照れながら心配してくれるアプフェルがとても可愛くて、そして嬉しくて、素直に彼女の申し出を受け入れてしまった。

 

 もっとも、そういった感情的なことを抜きしても、万が一何かあった場合のことを考えると、魔法使いであるアプフェルという存在はとても頼りになる。


 そんなわけでアプフェルには、俺からの正式な護衛依頼という形で協力してもらうことにした。

 もちろん、仕事料は支払う。

 彼女はそれを何度も断ったが、無理矢理にでも受け取らせた。

 今後、他の人と組んで仕事をすることを想定すると、アプフェルだけタダというわけにはいかない。

 

 親しいから、友人だから、身内だから、そんな理由で仕事を手伝ってもらうのは良くない。

 仕事は仕事。友達は友達。

 特に今回は、身の危険があるかもしれない仕事。厚意のみに甘えるわけにはいかない。


 サダさんも協力者に入るが事情は説明できないので、今までの尻触り代を免除してやることにした。

 理由も教えずに免除すると調子に乗りそうだけど、そこは我慢しよう。




 

 賭博場に乗り込む前に、アプフェルはもう一つの変装用眼鏡を出してきた。

 そして、サダさんに聞こえないように小声で話しかけてくる。

「念のため、ヤツハも掛けといた方がいいんじゃない?」

「いや、俺はアプフェルと違い、学生でも何でもないから」


 アプフェルは学生で騎士団とも関係があるため、変装は必要。

 しかし、俺は立場上、普通の民間人。余計な行動は無用な疑いを生む。


 彼女は軽く息を漏らして、眼鏡をひっこめた。

「そう。それじゃ、さっさと行きましょ」

 


 

 店の中に入り、俺はサダさんに耳打ちする。

「本当に大丈夫? 俺たちみたいな子どもが来ても」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。金さえあれば誰でもいいんだから。一応、誰かの紹介がないといけないけど。そこはおじさんに任せといてよ」


 グッと、サダさんは胸を張る。張った矢先にむせている。不安だ……。



 店の奥まで来ると木製の扉があり、前には柔和な表情をした優男が門番をしていた。

 彼は俺たちに視線を向ける。

 

 その視線を向けられた瞬間に、ぞくりと冷たいものが背筋を走った。

 一見、穏やかな青年なのだが、彼からはどろりとした闇を感じる。

 さすが賭博場へ通じる門番だけあって、ただ者ではないらしい。


 サダさんは勝手知ったるといった感じで、扉に近づき、青年に話しかける。


「ご苦労さん。今日は勝たせてもらうよ~」

「サダさん、いつも楽しんでいただきありがとうございます。そちらのお嬢様方は?」

「この子たちね。お・れ・の、いい子たち」


 そう言いながら、サダさんは俺とアプフェルの尻を揉む。

 アプフェルは一瞬、尾っぽの毛を毛羽立たせたが、グッとこらえて笑顔を見せている。

 俺も彼女を見習い、笑顔で青年に答えた。


「はい、サダさんにはいつも遊んでもらってるの。今日は面白いところに連れて行ってくれるって言ってくれたんだけど……私たちは、入っちゃだめ?」



 上目遣いを見せながら、甘えるように青年へ微笑んだ。

 彼は顔を赤く染めて、体全身から発してたおどろおどろしい気配を引っ込める。

 自分で言うのもなんだが、ヤツハという女性の魅力に飲まれたようだ。


「い、いえ、そんなことは……。サダさん、どこでこんな綺麗な子たち見つけてきたんですか? この、妖艶さ。とても年若い子の魅力じゃない」

「へっへっへ、いいでしょ。でも、ないしょ」


「はは、残念です。しかし、サダさんはあまり年下の子に興味なかったですよね。どうしてまた?」

「ん? 俺は可愛けりゃ、何でも食べるタチだぞ」

「あはは、そうなんですか。それで、こんな若い子と……おや、そちらのお嬢さんはどこかで?」



 青年は俺をじっと見ている。

 俺は仕事であちこち歩き回り、噂もあるだろうから、どこかで俺のことを知ったのだろう。

 だけど、いくら有名人でも俺は一介の庶民で、表向き騎士団とは関係ない。

 下手に動揺すれば怪しまれる。


「最近は、いろんな仕事してるからね。ふふ」

「ああ、そうか、それで。申し訳ありません。お客様の素性を探るような真似を」

「いえ」

「ここは誰もが気兼ねなく楽しめる場所。今宵は何者でもないあなたとして、遊戯をお楽しみください。では、どうぞ」


 

 

 奥へ続く扉が開かれ、いざ賭博場へ。

 扉が閉じたのを確認して、俺はサダさんの脇腹を殴った。


「おい、ふざけんなっ。何が紹介だよ。あんたの女扱いか! 尻まで触りやがって!!」

「ぐはっ、ヤツハちゃん。いきなり脇腹はやめてね」

「うるさい、あとでボコボコの刑にしてやる」

「ええ~、そんな~、きっついなぁ。たっはっは」


 俺の怒りに対してサダさんは全然懲りた様子を見せず、おでこに手を当てて、へらへらしている。

 しかし、後ろから響いてきたドス黒い声を聴いて、彼の心は凍りつく。


「サダさん。必要とはいえ、物事にはやりすぎってことがあると思うの」

「へ? ア、アプフェルちゃん。ちょっと、落ち着いて。ここで暴れたら、追い出されるよ。まぁ、もっとも……」

 

 サダさんはアプフェルの右手を見た。

 そこにはいつも握っている、クラウンの形をした金属で翠石(すいせき)を包んだ魔導杖は存在しない。

 さすがに賭博場に武器は持ち込めないため、今日は置いてきたのだ。

 


 だからこそ、サダさんはアプフェルが何もできないと高をくくっている。

 しかし、その考えは甘すぎた……。


 アプフェルは無言のまま、右手でサダさんの首をグッと掴んだ。

「あがっ! あ、あ、あ、あぷふぇる、ちゃん?」

(いかづち)よ。我が手に宿り、このクソ親父の魂を焦がせ」

「アプ、ま、まってっ。アビャびゃびゃびゃ~」


 哀れサダさん。

 全身から電気を(ほとばし)らせ、身体を激しくばったばったと振るわせている。

 

 ま、ざまーみろ、と。

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