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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
最終章 物語は終わらない
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女神コトアの計画

 夏の陽射しが容赦なく照りつけるシオンシャの草原。

 しかし、そこに佇む四人には暑さ届かず、肌に震えを与える空気が周囲に漂っていた。

 女神コトアは語る。


 彼女の計画を。



「まずは……そうだね~。全知全能となった君は、アクタにひどいことをした」

「ひどいこと? なにをだ?」

「なにって、アクタにいたマヨマヨたちを自分の世界に戻したことだよ。そのせいでアクタから多くの情報が失われた」


「ああ、そういうことか」

「だけど、それらを失っても余りある情報を手に入れることができた」

「え?」


「運命の力を自在に操れるようになった君は、無の先に存在する有の世界から、多くの情報をアクタへ流入させた。その情報は、全宇宙、全次元の情報。今まで私が集めてきた情報の比じゃない!!」



 この彼女の言葉を受けて、笠鷺はすぐに理解した。

「そういうことか。そういや、あの時」


 情報を自分に集めていた時、笠鷺は女神コトアの気配を感じていた。

 だが、彼女は死力を尽くし、己の存在を笠鷺から覆い隠そうとしていた。

 それを知ろうと彼はしたが、その時にはすでに脳の崩壊が始まり、万能ではなくなっていた。



「コトア。あんたは、俺があまねく世界から集めた情報を横取りしてたわけだ」

「うん、そのとおり」

「そのためにあの場面に至る道を作った」

「そういうこと。そこに至るまで大変だったけどね」

「ってことは、いまのあんたは……」


「そう。私の世界には、無限と称しても遜色のない大量の情報が集まっている。それにより、運命に次ぐ力を手に入れた」

「それが、あんたの目的。女神コトアの計画だったわけだ」


「うんっ、そうだよっ」


 

 コトアはリズミカルに言葉を跳ねる。

 四人の目に姿は映らなくとも、彼女が踊りを舞いながら、言葉を産んでいる姿が脳裏に宿る。


「もう、私を馬鹿にできるものは存在しないっ。私は如何なる存在よりも情報を持つ存在。有の世界の連中に嘲り笑われることもない!」


 ひたすら踊り狂う言葉に、地蔵菩薩が言葉を荒げた。

「そのようなことをすれば、無の障壁が無くなり、有の世界は!!」

「大丈夫。有の世界は消えてなくならないよ。今の私にはそれができる。その方法を知っている。それに、いずれは無や有の垣根なんてなくなるんだから心配しなくてもいいよ」


「まさか、コトア様っ!?」

「うん。私は有の世界を飲み込むつもり」

「な、なんてことを……世界が一つとなれば、多様性を失い、先に在るのは緩やかな死だけですよ!」

「大丈夫、大丈夫、そうならない情報を持っている」

「傲慢な……」

「そう? だったら、止めてみる?」

「それは……」



 地蔵菩薩は錫杖を強く握り締め、押し黙ってしまった。

 この一件には地蔵菩薩も関わっている。

 彼は溢れんばかりの慈悲の心で、少年であった笠鷺へ手を差し伸べた。

 それがここへ至る女神の計画と知らずに……。

 

 笠鷺は無言で錫杖を震わせ先端の金環をカチカチと鳴らし続ける地蔵菩薩を目にして、声に悔しさを混ぜ込む。


「どうやら、俺はとんでもないことをしでかしたようだな」

 この言葉に、コトアは無邪気な笑い声を立てた。


「あっはっはっは、気づいてももう遅いよ。でもさ、笠鷺は関係ないよね?」

「なに?」

「だって、これから起こることは高位次元の問題で人間の君には関係ないもの。仮に今すぐ、世界が一つになっても、君の身の回りで何かの変化が起こるわけじゃないし」


「そうだとしても、あんたに利用されたと思うと気分が良くないな」

「でも、得るものもあったでしょ。大罪と死から逃れ、地球では味わえない冒険に仲間たちの出会い、とかね」

「それはたしかに……」

「そうそう。ギブ&テイクってやつだよ」


 

 後ろから届く底抜けの軽い言葉に笠鷺は眉を顰める。

「威厳の欠片もない女神様だな」

「私、庶民派だから」

「はぁ~」


 笠鷺は大きく(かぶり)を振って、それよりも大きなため息を落とす。


「まぁ、いっか。あとは上の連中だけで勝手にしてくれ。なんにせよ、俺にはどうしようもない」

「そうだね。もう、私を止められる存在はいな~い」



 笠鷺の後ろから、音符を纏った言葉が飛び跳ねて通り過ぎて行った。

 彼は後ろで指先を天に向けて、目をくの字にしている女神を想像する。


「ったく、こんなアホの子みたいな神様がいるなんて……」

「誰がアホの子だよ! ってか、それだと私がアホじゃなくて、私の両親がアホ扱いになっているし。口論で親への悪口は第一級侮辱罪だよ!」

「たしかにね~って、あんた親がいるのかよ?」

「いないよ」


「……そう、頭痛くなってきた」

「半分の優しさでできた痛み止めいる?」

「いらない。あんたと話していると調子が狂うわ。ま、人間の俺たちには関係ないこと。せいぜい、上の連中と遊んでろ」


「そうする……と、言いたいけどっ! おりゃ、チョップ! &! ドロップキッ~ク!」

「ギャッ! グハッ!」



 笠鷺は背後から両耳削ぎチョップを食らい、さらに背中を蹴られ地面に転がる。

 しかし、女神の力で後ろに顔も瞳も向けることはできない。

「何すんだよっ!?」

「君の嫌がらせに対する報復措置だ。甘んじて受けろ!」

「はっ?」


「笠鷺燎。君はキタフを帰し、さらにはサシオンの宇宙を元に戻した。彼らは私に対抗できる知識と技術と力を持つ宇宙の存在」

「ん? まさか、俺は?」


「そう! 君は私が好き勝手できないように、きっちり楔を打ち込んだんだよ! 私を抑える力を持つ宇宙に、私に関する情報を残しておいた!」

「そうなんだ。やるねぇ、俺」

「ふんっだ」



 少女から飛び出した荒い鼻息が、笠鷺の耳をくすぐる。

 彼は自分のことを利用した神相手に、しっかりと仕返ししていたことに満足げな笑みを漏らした。

 するとウードが、プンプンと蒸気を上げ続けるコトアに問いかけてきた。



「そこまで笠鷺があなたの行動を読んでいたのなら、どうして笠鷺はこんな回りくどい手段を? 止めることもできたのでは?」

「それ? たしかにあの時の笠鷺は私の計画に気づいてたよ。だけど、その直後に脳の崩壊が始まって、こうする以外なかったみたいだね」


「なるほどね。僅かでもボタンを掛け違えば、計画とやらは破綻していた。つまり、神であるあなたは危ない橋を渡っていたということ?」

「うん、そうなる。誰にも先が見えない場面を作り出す。だからこそ、今の私がいる。だけど、賭けはまだ終わっていない。今のところ八割方私が優勢だけどね」



 まだ、サシオンとキタフが残っている。

 彼らの宇宙が存在する限り、高位の戦いに決着はつかない。


 コトアは言葉に落ち着きを取り戻し、極めて冷静な雰囲気を纏う。

「そういうことで、勝負は今も続いている。その勝負に、笠鷺が参戦してくるかはわからないけど」

「俺がか?」

「君の道は運命の力に守られている。だから、今の私の力をもってしても、君の行動の予測ができないもん」

「そうなんだ……」



 笠鷺は二度三度首を捻る。

「ま、関わるのは面倒だな。あとはサシオンとキタフに任せよう」

「ホントに?」


「ホントだホント。俺はアクタで唯一の迷々(マヨマヨ)として世界を旅人(さまよ)うさ。まぁ、迷っていることと言えば第二、いや第三か? その人生をどうするかぐらいだけど……商売でも始めようかな? プリン専門店とか」


「ふ~ん、そんな感じでずっと過ごしてくれるといいけど。さて、そろそろ私は消えるね」


「わざわざ、このことだけを伝えに来たのか?」

「うん。君には色々と無茶をさせたからね。だから、これくらいは伝えておきたかった」

「そっか……じゃ、そちらの近藤によろしく伝えておいてくれ」

「う~ん、それだったら君が死んだあと、私の部屋に来てみる?」


 彼女の誘いに、一瞬だけ笠鷺は色よい返事を返そうとしたが、運命の切れ端が危険信号を放つ。

「いや、死んだのちにメイド扱いされるのはごめんだ」

「冥土だけにメイド。おお~さむいさむい。さすが、中身は爺さん」

「やかましいわ。そんなつもりで言ったわけじゃないっ」

「ま、わかったよ。折を見て、こちらから会いに行けるように近藤には休暇をあげるから、それじゃあね」



 神とは思えぬ軽い別れの言葉が響く。

 それと同時に、四人から圧迫感が消えた。




・アプフェルとサダ


 本編でもコトアが予測とは違うという言葉を使い触れていますが、この物語、かなり話が変わっています。

 当初の予定ではラスボスはサダでした。(中ボスはコトア)


 その場合、サダの妻は事故で亡くなり、娘は回復が難しい昏睡状態です。

 ですが、サダはアクタで娘を癒せる力、魔法を手に入れました。

 そのために全世界を敵に回し、帰還を望みます。

 そこへ地球へ飛ばされていたアプフェルがサダの娘を連れてアクタへ戻ってきました。

 娘さんはアプフェルの癒しの力で助かっています。

 

 しかし、すでにサダの方は戦いの末に命の灯を失いかけてました。

 彼は最期に娘を抱きしめ、彼女から自分の記憶を消します。

 そして、娘をアプフェルに託し……と、悲劇なんで止めました。


 因みに、109話『アプフェルの瞳』でアプフェルがヤツハに対して訝し気な瞳を向けているのは、彼女が物語のキーだった名残りです。

 

 まだいろいろありますが、これぐらいで……。

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