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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十章 道を歩む

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無は……想像に応え、在りしものを産む

 亜空間転送――物質はもちろん、魔法の結界さえも跳び越えることのできる最強の転送魔法。

 この転送魔法は、異なる空間を通り抜けることにより、成就する。


 ただし、莫大な魔力が必要な上に、通り抜ける空間は想像が反映する危険な世界。

 人の身で渡り切るのは不可能と言われている。

 

 だが、俺の黄金の力……現在(いま)ある時で身を包み、想像の具現を回避できる力を使えば亜空間を渡り切ることができる。

 そして、それはすでに、王都侵入の際に証明している。



 俺は三人へ簡素な説明を行う。


 俺とアプフェルとパティの魔力と、黄金のマフープの結晶の力を借りて亜空間の入り口を生む。

 そこから俺はみんなを黄金の力で包み込み、いざ亜空間へ。

 そして、バスクの結界を抜け出し、見事彼らから逃亡する……。



 説明を終えて、三人に問いかける。


「亜空間はかなり危険な世界だけど、この状況を打破できる唯一の方法だ。どうする?」

 

 まず、ティラが答える。

「生き残るためだ。やろうではないか。それに私はヤツハを信頼しておる」


 アプフェルとパティが続く。

「まったく、とんでもない魔法を習得してるんだから。でも、面白い。いいでしょ、のった!」

「一歩間違えれば、無に呑まれる……恐ろしい話ですが、ヤツハさんなら確実に切り抜けられる。行きましょう」


 三人は迷うことなく俺の案に乗る。

 信頼という力が俺の心に強く宿る。


「よっしゃ、じゃあ覚悟はいいな。今、俺たちを包んでいる結界は六龍相手にはそんなに持たない。でも、空間の魔力を織り込んだ結界。数十秒くらいは耐えられるはず。いくぞ!」

「うん」

「わかりましたわ」

「うむ、心得た」



 俺とアプフェルとパティは三方に別れ向き合い、両手を合わせて前に伸ばす。

 その中心には黄金のマフープの結晶を浮かべる。

 こいつを媒介にすれば、エクレル先生やクレマ並みの魔力を産めるはず。


 俺たちの動きを見て、パスティスとバスクが動く。


「バスク、何か知らんが妙な感じがする」

「うん、わかってる……この力……まさかっ!? パスティス、すぐに結界を破壊しよう!」


 

 パスティスとバスクは力を集約させて、俺の結界に強力な一撃を何度も繰り出す。

 そのたびに結界が弱っていく。

 結界が吹き飛ばされる前に、亜空間転送魔法を成し遂げないと!


 俺は先生から感じた魔力を思い出し、魔力を空間魔法から一段上の亜空間に干渉する力へと引き上げる。

 俺の身体は紫光に包まれ、それはアプフェルとパティにも伝播する。


 そこから、ゆっくりと両手を上下に開き、大きく開けていく。

 黄金のマフープの結晶からは壮麗な魔力が溢れ出す。

 その量たるや、俺たち三人の魔力を合わせた量をも凌駕している。



「すげぇな、この道具」


 この一言にパティが答える。


「教会の洗礼を受けた、神の宝石。とんでもないものをお持ちですこと。これの前ではわたくしの鉄扇など、おもちゃ同然」

「え? もしかして、これって高いの?」

「サン金貨、五千枚はするかと思いますわ」



 サン金貨五千枚――俺的円換算で二十二億~二十五億え~ん!!!!!



「グハッ! そ、そんなにするの!? ティラ、こんなすごいアイテムなの、これ!!」

「だから言ったであろう。魔力を回復する道具としては一級品だと。並みの魔導士ならば、千度万度回復しても底尽きぬ至高の逸品だからな」

「至高すぎる!? いたたたっ。胃が痛い。もったいない」


 胃に痛みが走るが、亜空間魔法を行っている最中なので患部を押さえることもできない。

 

 

 そんないたいけな俺にアプフェルとパティは呆れた声を浴びせてくる。

「何やってんのよ、あんたは?」

「またですのっ? もう、値段くらいで右往左往しないで下さりません」

「だって~、ああ~、もったいねぇ! ちきしょう、覚えてろ、六龍め!」


 キッと六龍の二人を睨む。


 睨まれた二人は眉を顰める。


「何やら、理不尽な恨みを買っているようだが」

「そうみたいだね……じゃないっ。早く、この結界を壊さないと!」

「お、おう」


 六龍の魔力が高まる。

 次の一手で結界を壊すつもりだ。

 


 俺は亜空間の入り口の完成を急ぎ、呪文を唱えた。


「心を水面(みなも)に。穿つは世界。(ことわり)を超えし境界。全てへ繋がる道。我、存在許されざる眠れし秘宝の極地に足を踏み入れん。世界よ、刮眼(かつがん)せよ!」

 

 俺たち三人の中心に黒い渦が生まれる。

 安定をアプフェルとパティに任せて、俺は身より空間の力である紫光を消して、代わりに黄金の力で身を包む。

 その光をアプフェル、パティ、ティラに伝え、包んでいく。


「よし、飛び込むぞっ。俺が飛び込んだら、迷わず飛び込め!」


 俺は三人の返事を待たず渦に飛び込んだ。

 続いて、パティ、ティラ、アプフェルが渦に飛び込む。


 それと同時に、俺の結界が壊れる音が響いた。





――再び亜空間


 俺は周囲を見回す。

 空も大地も色を失い、すぐ傍では色を失ったパスティスとバスクが狼狽(うろた)えている姿があった。

 俺は後ろを振り向く。


 黄金の力に包まれたパティ、ティラ、アプフェルが白い光の円の上に立っている。

 

「ここからはおしゃべりは無しだ。気が逸れるからな。それじゃ、光の線からはみ出ないように進むぞ。あと、なるべく何も考えるな。ただ、光の線の上を歩くことだけに集中しろ」


 三人は無言で頷く。


 パティは俺の肩に手を置いて、ティラがパティの腰に手を置き、アプフェルがティラを支える。

 縦一列となって、亜空間に浮かぶ光の線を歩くことになる。


 俺は出口を思い描く。


(出口は結界から離れた、潜みやすい場所にしないと)

 それを強く念じる。

 その意思に応えるように、遥か先に出口と思われる光が輝く。

(よし、行こう……うっ)


 一歩、足を踏み出そうとした。

 だけど、光の線は以前のものよりも細く、両足を揃えて立つのがやっと……。


(なんで? 魔力不足か? わかんないけど、慎重に行かないと)


 

 線から足を踏み外さないように、注意深く足を運んでいく。

 歩を進めるたびに、周囲の風景は淀んでいき、やがては闇に呑まれた。

 俺たちが放つ黄金の光だけが闇に浮かぶ。

 

 みんなに動揺が走るが、俺は後ろを振り返り、大丈夫だと瞳に思いを乗せる。

 それは通じたようで、コクリと返事をしてくれた。

 再び、前を向いて、細い線の上を歩いていく。


 無言で闇の中を歩き続ける。

 出口となる光は遥か先。まるで近づいている気がしない。

 それでも、俺たちは歩き続ける。

 

 周囲は何もない闇。

 不安が容赦なく心を包んでいく。

 

(くそっ、四人分の魔力を使い続けるのってしんどいな)

 黄金の力で四人を包む。

 

 その魔力にはアプフェルやパティのサポートの力を感じているが、亜空間の入り口を開ける時に失った魔力は相当のもの。

 黄金の力を維持することが俺はもちろん、アプフェル、パティにもかなりの負担になっている。


 黄金の力が、ゆっくりと失われている気がする。

 俺は再度、黄金の力を高めるために意識を集めようとした。

 だけど、その間隙を縫って、悲劇が起きる……。



「かあさま……」

「え?」


 ティラが闇を見つめて、母を呼んだ。

 俺も彼女が見つめる場所へ目を向ける。

 

 闇には薄っすらと、プラリネ女王が浮かんでいる。

 彼女はとても暖かな微笑みをもって、ティラを手招きしている。


 ティラは優しき母の残影に応え、一歩、足を踏み出してしまった。

 俺は叫ぶ!


「ティラ! あれは幻影だ! お前が作り出した幻だっ! 行くなっ!!」


 その叫びは間に合わなかった。

 ティラは光の線から足を踏み外す。


「母様……あっ」

「ブラン様! いけませんっ!!」

 

 アプフェルは線から落ちかけたティラを拾い上げて、パティへ押し付ける。

 そして……代わりにアプフェルが線から落ちていった……。



「アプフェル!!」

 アプフェルを呼ぶが、彼女は返事をすることなく闇に呑まれ、粒のような光になっていく。

 俺は身を乗り出して追いかけようとしたが、それをパティに押さえつけられた。


「落ち着きなさい、ヤツハさん!」

「だけど、アプフェルがっ!!」


 闇の先に小さな光が見える。

 アプフェルと思われる光は、横から飛び出したもう一つの光にぶつかり、完全に消えてなくなってしまった。


「あ、あぷふぇる……そんな……」

「ヤ、ヤツハよ、すまぬ。私が、幻影に囚われてしまったために」

「ティラ……どうして? どうしっ、」

「ヤツハさんっ!」



 俺が責める口調を見せかけたところで、パティは言葉を打ち切るように、ひときわ大きな声を上げた。

「進みましょうっ! ここではどうしようもありません! アプフェルさんを助けるためにもっ!」


 パティの表情は苦渋に満ちていた。

 歯を噛み締め、感情を無理やり抑え込んでいる。


「あ、ああ、わかった……」


 俺は彼女の姿に背中を押され、再び歩き始めた……。

 頭の中はアプフェルのことでいっぱいだった……だが、辛うじて残る、助けるために進むという意識の切れ端が冷静さを保ち、出口へと足を進ませた。

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