表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第二十章 道を歩む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/286

VS二龍

 俺はサシオンから受け取った長剣を握り締め、パスティスを睨み、構える。

 パティは(かなめ)に黄金の宝石光る白銀の鉄扇をバスクへ向ける。


 それを受けて、パスティスは両腕を伸ばし構えを取り、バスクは魔導杖(まどうじょう)に魔力を注ぎ込み始めた。

 俺は二人に話しかける。



「そっちの神輿と、俺たちの神輿。どっちが王に相応しいか、勝負と行こうか。パスティス、バスク」


「ほぉ、我ら六龍とやり合えると?」

「面白い冗談だね」


 パティは寒風吹鳴(かんぷうすいめい)する平原には見合わぬ一筋の汗を落とす。

「六龍? 戦いの前に笑わせないでくれます。守護すべき相手に刃を向けた逆賊でしょう!」


 パティの挑発に、バスクは無言で魔力を高める。

 俺は剣柄をしっかりと握り、パティへ一言声を掛けた。


「バスクは任せた。俺はパスティスを潰す!」

「ええ、任されましたわっ!」


 パティは瞬時に魔力を高め、クラス4の炎の呪文、ミカハヤノをバスクに放った。

 バスクも同じくミカハヤノを放つ。

 二つの巨炎は二人の間でぶつかり、地面が怯える衝撃を生んだ。



 パティは悠然と構え、バスクを見据える

「さすがは女神の装具。やりますわね」

「それはこっちのセリフだよ。良い魔道具を手にしているとはいえ、あれほどの魔法を瞬時に操れるなんて」

「努力を重ねましたから……もう、あのような悔しい思いをしないために!」

 

 パティの脳裏には黒騎士の影が過ぎったのだろうか。

 シュラク村で見せた、苦悶の表情を浮かばせる。

 だけどすぐに、戦いに臨む一人の戦士へと表情を戻す。


「では、行きますわよ。六龍、蒼の死神バスク!」

「ええ、いつでもどうぞ。美しき雛鳥、パティスリー=ピール=フィナンシェ」




 二人は巨大な魔力を操り、空と大地が震える戦いを続ける。

 俺はそれを見ながら、ティラに声を掛けた。


「こわっ。ティラ、後ろに下がってろ」

「うむ、頼んだぞ」

「任せときなって」


 俺はサバランさんのように、ピッと指先をティラに振るう。

 そして、前に立つパスティスへ体を向けた。


「俺たちもやり合おうかね」

「フンッ、随分と落ち着いているな」


「パスティス……あんたは強い。単純な実力なら俺よりも上。以前だったら、ビビッて取り乱していただろうよ。でも、俺はもっと恐ろしい存在を知っている。あんたからは黒騎士ほどの恐怖を感じない」

「ぬっ」

「そして、トーラスイディオムよりもな」


「時の龍か。王都近くに奇妙な力を感じていたが、神龍だったとは……まさか、お前が退けたのか?」

「だとしたら?」


 俺は剣を両手で握り締め、パスティスに闘気をぶつける。

 それに応え、彼も両腕に力を乗せた。


「楽しみだっ!」


 パスティスが大地を蹴り上げた瞬間、俺の目の前に現れた。

 豪腕が音を切り、顔に迫る。

 それを紙一重でかわし、剣で彼の顔を突いた。

 パスティスもまた、それを紙一重でかわす。

 俺たちは後ろに飛び退き、距離を取る。



 二つの頬に、血が流れ落ちる……。



「いつぅ。ったく、乙女の顔に何してくれるんだよ?」

「フフ、乙女? 毒婦の間違いでは?」

「ひっで……だけど、今のでわかった」

「なにをだ?」


「決して、届かない相手じゃないって」

「フンッ、婦人の戯言は、いつの世も男には理解できぬ」

「婦人……う~ん、それにはめっちゃ反論したい」

「ん?」

「ま、いいや。続けよっか」


 俺は魔力を高め、全身を黄金の光で包む。

 急激な力の高まりに、パスティスは唸り声を上げた。


「ぬぅぅ、これはっ」

「さぁ、始めよう。とことんなっ」


 俺は左手にクラス4の雷撃呪文、タケヅチカライを宿し放つ。

 黄金に染まる高純度の魔力から放たれた魔法は、本来の威力を遥かに超える。

 

 その力にパスティスは目を見開く。

 僅かに生まれる隙。

 俺は雷撃魔法の後ろにぴたりとつき、それを盾として踏み込み剣で襲いかかった。

 

 だが、パスティスは冷静に雷撃を躱し、剣をも躱す。

 

 虚しく(くう)を切る魔法と剣。


 無防備となった俺にパスティスはカウンターを仕掛ける。

 彼は左足でしっかりと大地を踏みしめ軸を作り、巨石を彷彿とさせる太い右足をぶつけてきた。

 右足は魔力を帯び、力は大きな渦を生む。

 俺は渦を見つめる。

 

(渦……魔力であれ、肉体の力であれ、そこには流れがある!)


 渦巻く力の奔流――だけど、流れ把握すれば受け流すなど、俺なら容易い!



 力の流れを読みきり、左手のみで右足を上へと弾く。

 

「なにっ!?」

 驚愕するパスティス。

 バランスを崩した彼の懐に飛び込み、一閃。

「クッ、させるかっ!」


 彼は剛腕で剣の腹を叩き、捻じ伏せる。

 その衝撃で俺の右手に痺れが走る。


「チッ、いたた。今の欲しかったなぁ」

「貴様、いま何を?」

「何って、あんたの力の流れを読み切って、受け流しただけだよ」


「なっ!? 貴様は剣や魔法のみだけではなく、武をも修めているのか?」

「武? う~ん、授業で柔道やった程度だけど。ま、いろいろ組み合わせて何とかなってるみたい感じかな」


「じゅうどう……? 聞かぬ武術だが、少なくとも全く知らぬわけではないというわけか。そして、その武術。それはどうやら、肉体の力を極限に高めるジョウハク国の武術とは違う、静をもって動を鎮める武術のようだな」


「え? よくわかんないけど、柔よく剛を制すみたいな?」

「フフ、所違えど、行きつく先は二つ。動か静か……フンッ、面白い。武の切れといい、不可思議な魔法の威力といい、ここからは本気を出すとしよう!」


 

 パスティスが身に纏う女神の黒き装具から、白き気焔が立ち昇る。

 気焔は全身の筋肉を充足させ、彼の身体を一回り大きく変化させる。


「……行くぞっ、ヤツハ。黒騎士とトーラスイディオムに見せた力っ、この六龍パスティスに見せてみよっ!!」




評価点を入れていただき、ありがとうございます。

評価にお応えすべく、猛る思いを心の動としながらも、気は静と鎮め、想像を指先に宿し書に伝え、物語を書き綴ってまいります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ