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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第十七章 奇妙なパーティー

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奇妙な仲間たち

 クレマの口から手を外すと、彼女は陸に打ち上げられた魚のごとく口をパクつかせる。

 そんな俺たちの様子を荷台から見ていたエクレル先生が声を掛けていた。



「何をしてるの、ヤツハちゃん?」

「あ~、久しぶりに会ったんで、ちょっとはしゃいじゃいました」

「そう……ふむ」

 

 先生は視線を俺から、懸命に空気をエラにではなく肺に取り込んでいる、たぶん哺乳類のクレマに移す。


「美人。それでいて、少女としての可愛さも漂う。さすがはエルフ、満点。ヤツハちゃん!」

「え、はいっ。なんすか?」

「私を紹介しなさいっ!」

「え、命令形? ま、まぁ、いいですけど。あのクレマ、こちらは俺の師匠で空間魔法の使い手のエクレル先生です」


 

 先生はふわりと荷馬車から飛び降り、音もなく地面に立つ。

 そして、クレマに自己紹介を始めた。


「初めまして。私はエクレル=スキーヴァー。愛弟子がお世話になったようですね」

「ああ、夜露死苦。クレマだ。姉御の先生ってことは、転送魔法を使った魔法使いだな」

「ええ」

「正直、バビったぜ。人の身であれ程の空間魔法を見せるとは」

「ふふ、魔導の頂に立つというエルフにそのように褒められるなんて」


 と言いつつ、先生はクレマを抱きしめた。

 突然の行動にクレマは戸惑っている。


「ちょっ、おい?」

「これは空間魔法使いのあいさつ。互いの魔力の波長をよく知ってもらうためにこうやって抱きしめ合い、相手に敵意がないことを示すのよ。良ければ、クレマさんも」

「そ、そうなのか? それじゃあ」



 クレマは先生をギュッと抱きしめる。

 先生はさわさわとクレマを(まさぐ)る。


「フフフ」

「ちょっと待て、何かおかしくないかっ? あ、姉御!?」

「先生、クレマはコナサの森の代表だよ。ダメだって」


「む~、ちょっとしたスキンシップじゃないの」


 先生は両手をほどき、ひらり荷馬車に戻り、両手を開け閉めして感触を噛み締めている。

 どう~も、初めて俺と出会った時と比べて、趣味が悪化しているような気がする……。

 一方、クレマはというと、触られた太ももや尻に手を当てて首を捻っていた。



「なんだったんだ? あれが挨拶?」

「あ~、ごめんなクレマ。あんま、気にしないで」

「ああ、姉御がそういうなら……変わった先生だな」

「うん、そだね」


 先生にチラリと視線を向ける。先生は表情を恍惚として両手で自分の頬を揉んでいた。


「ああ~、エルフの感触新感触」

「マジ、ヤベぇな……うん、ほっとこう」


 もう手の施しようがないので、先生の存在は無視することにした。



「クレマ。そろそろ俺たちは行くよ」

「えっ? 待ってくれ。ピケさんにトルテさんでしたか? せめて、歓迎の宴を! いや、今日は泊って頂いて!!」


 トルテさんやピケを見ながらとんでもないことを言い始める。

 それを断るために声を上げようとしたところに、トルテさんの声が間に入った。


「気持ちは嬉しいけど、王都には待たせてる子たちがいてね。早く帰ってあげないといけないんだよ」

「そ、そうですか。申し訳ございません。あたい、トルテさんの事情も考えずにっ」

「いや、大丈夫だから。普通にね、普通に」

「はい、わかりました! 普通ですね! そうだ!! せめて、森の出口まで送らせてもらえませんか!!」

「出口までねぇ」


 トルテさんは隣にいるサダさんや荷台に乗るエクレル先生に目を向ける。

 サダさんは鼻から提灯を出している。先生はエルフの感触に酔っている。

 二人とも意識は遥か彼方……。


「そうだね。送るだけなら。ただし、普通にね」

「もちろん、普通であります!」


 言葉遣いが完全におかしくなっている……一抹の不安はあるが、とりあえず彼女に案内してもらうことに。

 クレマは黒馬に跨り、荷馬車の先頭に立つ。


「では、案内させていただきますっ! 野郎ども、粗相のないようにな!!」


 

 威勢を飛ばされたエルフたちは何事が起こっているのかわからずに戸惑いを見せたが、そこはクレマの統率力だろうか。

 すぐに彼らは道の端に寄って、両手を後ろに組み、胸を張る。


「では、参りましょう!」

 クレマを先頭に荷馬車が動き始める。

 両脇に立っているエルフたちは俺たちが通過するたびに、「お疲れ様です!」と九十度のお辞儀とともに挨拶をしてくる。


 トルテさんは頭を抱え、首を左右に振る。

「あのね、クレマ様……」

「そんな、様付けなんて畏れ多い! 敬称は不要でございますですよ! そうだ、道に花を咲かせましょうかっ? あたいの魔法に掛かればそれくらいのこと!」

「クレマ、様……普通に……ねっ」



 トルテさんは温和でありながらも迫力籠る笑顔をクレマにぶつける。

 すると、クレマのエルフ特有の白いお肌の顔は一気に青に染まり、大量の冷や汗を浮かばせる。


「こ、この迫力。さすがはアカ」

「なんだい?」

「いえ、何でもありません。では、普通に案内させてもらいます。こちらです」


 クレマは身体を縮めこませ、森に向かう。

 そのあとを追い、トルテさんは馬に手綱を打つ。

 隣には眠りこける護衛サダさん。

 荷台にはエルフに浸る王都の魔物。

 

 俺はピケの隣で、額に手を置き、空を見上げる。

「はぁ、どんなパーティーだよ」

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