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マヨマヨ~迷々の旅人~  作者: 雪野湯
第十四章 絶望の先にあるもの

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死へ向かう

 フォレはヤツハの変わりようを目にして、唇を震わせながら、彼女の名を呼ぶ。

「ヤツハ、さん……?」


 彼には何が起こっているのかわからなかった。

 突如、年老いたマヨマヨが現れ、その人物はヤツハの知り合いのように見えた。

 老人が消え、次に現れたのは絶大な魔力を身に宿す女性。


 フォレの瞳には、良く知る彼女でありながら全く見知らぬ女性が宿っている。

 女性は僅かに足を動かす。


 

 すると、フォレの頬に甘美な香りが通り抜けた。

「フォレ、剣を借りるぞ」

「えっ?」

 

 女性はフォレの隣に立っていた。

 彼女の姿は確かに、フォレの瞳に宿っていたはず。

 だが、今、その彼女は隣に立っている。


(まさか、転送? いや、違う。僅かだけど、頬に風が当たった……それはつまりっ、この方は、ヤツハさんはっ、ただ足を運んだだけっ!?)


 そう、ヤツハはごく普通にフォレの隣に立っただけ。彼の目では捉え切れぬ速さで……。

 ヤツハはフォレの剣をグッと握り、黒騎士へ足を向ける。

 それは死出の道。


「ヤツハさんっ!」

「フォレ……帰ったら、飯にしような」

 

 ヤツハは振り返り、笑顔とともにフォレを瞳に宿す。

 彼女の笑顔を目にしたフォレは、口を数度開け閉じし、確かな声で応えた。

「はい、ヤツハさんの好きなお肉をご馳走しますよ」

 

 

 ヤツハはアプフェルへ顔を向ける。

「アプフェル。ふふ、泥まみれだな。帰ったら、まずは風呂が先か」

「ヤツハ……そうね。汗も流さなくちゃ」

 アプフェルは柔らかに笑う。


 パティへ顔を向ける。

「パティ。高そうな服がボロボロだな。旅は普段着の方がいいんじゃないのか?」

「ヤツハさん。ふふ、これがわたくしですので」

 パティは震える手を伸ばし、先にある扇子を手の取り開き、静かに佇む。


 アマンへ顔を向ける。

「アマン。今度、アマンの乗る船に乗せてくれよ」

「ヤツハさん。はい、必ず。お約束します」

 アマンは半身を起こし海賊帽を胸に当てつつ、静かに会釈をする。


 皆の送り出す声と笑顔にヤツハは覚悟を乗せて、前へ、黒騎士の元へ向かう。

 


 

 ヤツハは剣を構え、黒騎士の前に立つ。

 黒き死神は剣の(つか)をギシギシと握り締めて、言う。


今生(こんじょう)の別れは済んだか?」

「フンッ、わざわざ待ってくれるなんて優しいじゃん。ついでに見逃してくんない?」

「この期に及んでかような冗談を。愉快な娘よ。だが、この状況……フフ、あの男の示唆した通りか」

「あの男?」


 あの男という言葉に、ヤツハは同じ言葉で問いを被せる。

 しかし、黒騎士は答えることなく、(つか)を握る手に力を送る。


「ふん、貴様に何が起こったかは知らぬ。ただ、我を楽しませてくれること、期待するっ!」



 黒騎士は言葉の終わりと同時に禍々しい闇の剣を振るった。

 ヤツハは両足を広げ、フォレの剣をもって正面から受け止める。

 

 剣のぶつかり合う音により、鼓膜を(きり)で抉るかのような音が不快に広がる。

 黒騎士の放った剣の膂力(りょりょく)

 それは、フォレやバーグの力を持ってしても、まともに受け止めれば身体ごと両断されてしまうもの。

 

 しかし、ヤツハはそれを見事正面から受け止めきり、さらにっ!


「うぉぉぉぉりゃぁぁあぁ!」


 黒騎士を後方へと弾き飛ばした。


「ふんっ」

 黒騎士は片足を使い大地を強く踏み抜き、僅かに土に線を残し立ち止まる。

 彼は愉悦を声に籠める。


「ほぉ、面白い。我が剣を正面から受け止めるだけではなく、この巨躯までも弾くとは。魔力で肉体を強化したとはいえ、そのか細い腕には似合わぬ剛力。愉快なり」

「何が愉快なりだよ。こっちは楽しかないよ!」

「我を前にして、悪態をつくとは……フフ、剣技はそこな男よりも劣りながら、見事な体捌(たいさば)きを見せてくる」


 黒騎士は傷と疲労で動けぬフォレに視線を投げ、ヤツハへ戻す。

「剣を受け止めた瞬間に、全身を発条(ばね)の如く柔軟に構え、大地を支える二本の足に力を受け流す。まるであの男のような……面白い戦い方をするな、娘よ」



 黒騎士は赤黒く光る瞳に闇を見せ、ヤツハを見つめる。

 ヤツハは無言で剣を構える。

 彼女の額より、一筋の冷たい汗が流れ落つる。


「行くぞ、娘よ」

「あああああっ!! こいよぉぉぉぉ!」

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