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11 一日目の夜

 ◆


 御堂は暫くおれを抱きしめた後、頭をポフポフと叩いた。


「落ち着いたかい、洋ちゃん」


 おれは思いっきり首を傾げて、「お前、おれとヤるんじゃないのかよ?」と聞く。

 自分で言ってて酷いと思うが、男にベッドで「任せて」なんて言われれば、そうとしか思えない。

 あ……それでコイツに抱きついてたおれって、もしかしてヤバかったかも。


「は? なんでぼくが洋ちゃんと? ぼくが女だったら、そりゃあ今すぐにでも洋ちゃんと付き合うよ、だって百合だからね。でも考えてみて! 今のぼくらは男女だよ! 出来るわけないでしょ!」


 人の気も知らず、もの凄い剣幕でおれを突き放す御堂は、やはり頭のネジが十本は飛んでいるに違いない。ていうかコイツの価値観が、まったく理解できないぞ。


「そ、そうか」


「洋ちゃんの言い方だと、男とえっちをしたら戻る可能性があるってことでしょ? だったらぼくは、それを断固阻止するだけだよ」


 いや、ちょっと待て、御堂。

 お前、おれを助けるつもりじゃないのか?

 阻止されまくったら、おれ死んじゃうからな。


「その間にぼくが女になれば、百合っぷる。そうでなければ洋ちゃんには、空子ちゃんと付き合ってもらう」


 だからそれじゃあ毎日死に戻って、あと九日でゲームオーバーになるパティーンのやつだろうが。言えないけどな。


「……だけど、どういう訳か男子に告白されなきゃいけないんでしょう? だったら相手がいない場合は……」


「いない場合は?」


「仕方ない……臨時でぼくが代行しよう」


 なにその、もの凄く嫌そうな言い方。

 御堂、お前っておれの親友だよな? なんで拳を握りしめて涙を流してんの? 失礼だろ、それ。


「それは、お前がおれに告白してくれるってことか?」


「だって、誰かに言われなきゃいけないんでしょ」


「そうだけど……表面的なやつだとダメだと思うぞ」


「それって真剣に好きになれ――ってこと?」


「ああ、そうだな」


「それは……」


 御堂はおれの顔をまじまじと見て、眼鏡をクイクイと動かしている。

 

「そりゃあもちろん、舐めたいし嗅ぎたいし触りたいよ?」


 心底気持ち悪いな、コイツ。


「でも、それが恋や愛かっていうと難しいね」


 ふざけんな。


「あくまでも友情の延長線上にあるっていうか」


 性欲の延長線上だろうが、ボケ。

 おれがジト目で睨んでいると、御堂が胸を抑えてベッドの上に倒れ込んだ。


「いいっ! その目っ! まるで汚い虫けらを見るような、蔑んだ目が最高っ!」


 おい、コイツ。百合オタで女装趣味があってドMなのか? 属性ありすぎだろう。

 その後、おれ達はいつも通りの他愛ない話をして夜を過ごし、やがて眠った。


 ◆◆


 真っ白い雲の上に立っている。おれは今、夢を見ているのだろう。

 真っ青な空は太陽も無く、ただただ光に包まれている。


「どうやら明日を迎えることが出来そうじゃな」


 金髪ツインテールロリ神が、おれの前に現れた。

 突風が、おれの前を吹き抜けた瞬間のことだ。


「片桐に告白されたからか?」


「そうじゃな」


「チャリーンって音……あれが合図になるのか?」


「そうじゃ。親切じゃろう?」


 ローラ・ローリングは腕組みをして、不機嫌そうだ。時折、頬を膨らませている。


「不満そうだな」


「それはそうじゃ。お前のことじゃから、今日も失敗すると思っておった」


「おれだって死にたくねぇんだよ」


「ふん。それだけか……相変わらず手前勝手じゃの」


「なんだ? 加恋に対する良心の呵責とでも言えってのか」


「別に……そなたがどう思おうと、条件をクリアすれば良い。所詮は暇つぶ……んおっふぉん!」


 このツインテール女神。今「暇つぶし」って言おうとしなかったか?

 まあ実際、加恋に対する罪悪感はある。彼女の復活に手を貸せるなら、それにこしたことは無い。

 だがそれと、おれ自身の命の問題はまた別だ。

 今のままおれが十回死んだら、女になって数日で死んだ意味の分からないヤツとして葬式を出されてしまう。そんなのは冗談じゃない。

 

「ふん、まあいいさ。ともかく片桐の告白は、本気だったってことだ。それなら最悪、これから毎日アイツに告白されたっていいんだろう? その間に真実の愛ってやつを見つけるんなら、何とかなりそうだ」


「どうかのう? 人の心は移ろいやすい。その片桐と申す者が、そなたにいつまで恋い焦がれておるか、分からぬじゃろうて」


 そんなことは分かっている。

 片桐は誰に対しても本気だ。だからこそ、容易く本気の告白をしてきたのだろう。

 となればもちろん、おれが靡かなければ次に行く。

 だったら別に、もう一人くらいキープして置くべきかもしれない。

 なにこれ、我ながらビッチJKだ。


「わは、わは、わははは、上手くやるがよーい」


 おれが頭を抱えていると、ローラ・ローリングは実体を失い、雲の中へと溶けてゆく。

 心底可笑しそうな笑い声が反響して、おれは微睡みの中へと沈んでいった。


 ともあれ翌朝、おれは無事に目を覚ますことが出来た。日付も一日進み、五月二日になっている。

 よし、問題ない。

 もっとも、おれを起こしたのは御堂の声だ。目覚ましは既に、ヤツが止めてしまったのだろう。


「おはよう、洋ちゃん」


 背中越しに、御堂の声が聞こえた。


「おう、おはよ……う」


 御堂の腕が、おれの腹を抱えていた。

 どうやらおれ達は同じ方向を向いて眠り、御堂の腕がおれの腹に乗っていたようだ。

 不思議と不快には感じない。それどころか、心臓がドキドキする。

 だからこそおれはベッドから飛び降り、慌ててカーテンと窓を開けた。


「わ、眩しい……」


 御堂が掛け布団を被り、朝日から逃れようとしている。

 おれはその隙に深呼吸をして、鼓動を整えた。


 大丈夫、びっくりしたから心臓がドキドキしてるんだ。

 決して御堂に触れられていたから、こんな気持ちになってるんじゃない……。


「顔、洗ってくる」


 おれは御堂の顔を見ないようにして、ゆっくりと階段を下りた。

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