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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

独白

作者: アオミドリ







10年前、僕が5歳の時です。

その当時僕は施設にいました。

いわゆる捨て子です。







そしてあの人、多田正宗さんとは施設で出会いました。養子が欲しかったそうです。週に二度、施設に訪れては子供たちの遊んでいるところを見学して、袋いっぱいのお菓子と洋服とぬいぐるみを毎回施設に寄付してくれて。





施設の子供たちの中では正宗さんは優しい足長おじさんとして人気でいつも子供たちに引っ張りだこでした。僕は引っ込み思案な地味な子供だったので、輪の中には入れず遠くから見ているだけでしたが。





そして、正宗さんが施設に通い始めて3ヶ月くらいかな、経った時に、初めて正宗さんが僕に喋りかけてくれたんです。読書、好きなんだ。私も好きなんだよ。って。






今考えれば優しい大人の言葉だったんだと思います。いつも一人で本を読んでいる子供に対しての気遣い。でも、当時の僕は本当に嬉しかったんです。






僕には友達がいませんでした。

いつも本ばっかり読んで暗くて地味な子供なんて、つまらないものです。声をかえてくれる子は数えられるくらいで。それも日に日に少なくなっていきました。




そんな中、正宗さんは笑顔で話しかけてきてくれて。そのうえ、ずっと君と話したかった、だなんて。嬉しすぎてその日の夜に涙したのは内緒です。







その日から正宗さんは僕に喋りかけてくれるようになりました。そのぶん、笑顔も言葉も自分自身増えてくのを感じてました。そして、2ヶ月ちょっと過ぎたくらいです。正宗さん僕を抱きしめながら言ってくれたんです。養子にならないか、と。




でも…、それが叶うことはありませんでした。施設の園長先生が、だめだ、って言ったんです。正宗さんは独身で、当時働き盛りの30歳でしたから、そのうえ若社長さんだったというのは後から知りました、養子にあげても寂しい思いを子供が感じてしまう、って。









もっと早くに言えばよかった、でも寄付に、子供たちの笑顔に、なかなか言い出せなかった。園長先生が涙ながらに頭を下げてたのを、今でもはっきり覚えてます。園長先生はとても子供思いの優しい人だったんです。でも、養子になりたかった僕は絶望しました。




養子をくれないなら、この施設に通う意味などない。きっと別の施設でまた養子を探すのだろう、幼い僕でもわかりました。それくらい。



その夜はたくさん泣きました。

終わりなんだ、もう。

しかし、翌日の5月10日のことでした。










その日こそが刑事さんが言う誘拐事件の日です。






いつも通り午後1時、僕は施設内の庭の隅っこの木の下で読書をしていました。確かみんなは一緒にドッチボールしてたと思います。

その時、施設の柵越しに正宗さんが声をかけてきました。




衣玖君自身が私を選んでくれるなら、今よりもっと幸せにしよう。衣玖君の気持ちを聞かせてくれ。



10年経ってもあの日のことは鮮明に覚えています。正宗さんの言葉一字一句残さず。







…僕はもちろん正宗さんに一緒に暮らしたいこと、家族になりたいことを告げました。


そして正宗さんは今すぐ僕に誰にも見つからないように施設を出てくることを指示し、僕はそれを言葉通り実行しました。


あいにくみんなはドッチボールに夢中でしたから。園長先生も先生も。






…施設から抜け出した時は不思議とみんなの笑い声に羨む気持ちなどなくなっていました。

それくらい喜びで溢れていたんです。





ねえ、刑事さん。僕は確かに自分の意志であの人のもとへ向かったんです。正宗さんのところへ行ったら、もうここへは戻ってこれなくなることをわかってて。これもあの人の罪なのでしょうか。



あの日から10年間、僕は監禁も暴行もされていません。ただ普通に穏やかに過ごしていただけです。親がいたことはありません。でも、あの人は親以上に親らしかったと思います。だからどうか、罰を軽くしてください。




僕は本当に幸せでした。

あの人に恋愛感情を抱いてしまうくらいには。









これが全てです。

…もう帰っていいですか?

お店、忙しいんです。






あ、お暇があればいつでもカフェ&バーROOTSに遊びにきてくださいね。コーヒー、サービスしますので。


では、また。






.



閲覧ありがとうございます。

結末らしい結末がないですが、独白形式なのでこういう締め方にさせていただきました。

多田が何故主人公を養子にもらうことにしたのか、この話の後日談など、頭が働けば執筆したいと思います。

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