03話 魔法教育みたい
私の名前はミレー。
学校の教師兼高位魔術師なのだが、その役職は今休んでいる。
教師なのに休むなんてどういうことだ!と思う人も居るかもしれないが、甘い。
育児休暇ってものがあるんだよ!
その育児休暇はノエルに続いて第二の子が出来たからだ。
第二の子がどのような子かは分からないが、長男を超えることはないだろう。
あれは天才だ。
勝手に文字を覚え、私でも知らない魔法を使い、凄く複雑なものを作る。
何処かの文献で見た魔道具に良く似ていたが、魔道具は自然に出来るものなので違う。
どうしようもないのでその本人息子に直接聞いてみると、
"きかい"と言うらしい。彼が名づけたのか、誰かが教えたのかは分からないが、これはとんでもないことである。
これを天才と呼ばずにどうしようか。魔術だけならまだ分かる。
魔術因子が代々強い私の家の血を継いでいるから。
だがきかいとやらはどうしたもんか。
もう頭のつくりが違うとしか言いようがない。
突然変異の類だろう。
次男か次女がプライド高かったら落ち込むだろうな・・・。
高位魔術者である私がそう思うくらいに、この子は可能性を秘めている。
このような者が家から出た時は、とりあえず帝国に文書を送れというのを父から聞いたのを思い出した。
これはもしかしなくても出すべきだろう。
出さなかったらこの才能をないがしろにしてしまうかもしれない。
正直、生徒として学校に欲しいが、そんな事を言ってはいられない。
帝国に行き、その才能が認められれば、帝国直属の魔導師にも会えるし、
何より基本を吹っ飛ばしていきなり中級魔術師になる。出世は早ければ早いほどいいものだろう。
私は息子の凄さを伝えるために、とっておきの羊皮紙とインクを机に置いた。
カリカリと音を鳴らしながら進む羽ペン。
そのまま事実を書いて書くのだからそれは書くのが早いだろう。
私は直ぐに書き終わり。近くの郵便屋にこの手紙をお願いした。
出してから気付く。
そういえば機械ってどっかで聞いたことあるような・・・。
でも、それをノエルが知っているわけ無いので気のせいだ。
・・・気のせいだと思う。
彼の顔を思い出しておかしくないかもと思ってしまった。
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目の前にあるのは、白濁色の野菜煮。
つまりはシチューだ。
白色のスープの中には、青菜、豚肉、じゃがいも・・・こっちでは馬鈴薯か。
元の日本で言うと具材はもっと欲しいのだが、今の私じゃ食えないのでどうしようもない。
食えるための技でも開発しようかな・・。
一応ちょこんとノエルの方に座って居る。
食事中に立っているなんて行儀悪いしね。
「ノエル、好き嫌いしちゃ・・・わないわね。」
「箸の使い方・・・もいいな。」
なんだか私が行儀を教えた時から、アルバンとミレーは出る幕がなくなっている。
ノエルの奴ももうちょっと子供らしくすればいいのにな。
というか物理的に脳味噌小さくてこの知能なら成長したらどうなるんだ?
私が手伝わなくても天才でした☆オチか?
まぁそうなんだろうけども。
「なぁ、武道も覚えてみないか?」
「あなた、抜け駆けは許しませんよ!」
「え、それじゃあお前も抜け駆けしたことになるんじゃ・・。」
「知ったことではないわ。」
「何その理不尽。」
ノエルが親子の争いを見て、やりずらそうにしている。
その顔には苦笑、子供がするような顔じゃない。
「お父さんお母さん喧嘩は・・・。」
「「喧嘩じゃない(わ)!」」
「「アッハイ」」
思わず私まで返事をしてしまった。こいつ・・・やりおる。
そのような中では、諦めたようにノエルは木のスプーンを使ってシチューを食べている。
「あ、そういえば、あと一ヶ月だぞ。お前の妹。」
「・・ゴホッ!!??」
ノエルが思わずむせる。いきなり妹の話になったからだ。
まぁ、いきなりでなくてもむせると思うけども。
スプーンを思わず机に落としてしまって、コトッと音がする。
まぁ、仕方ないか。レヴィは簡潔に考える。
「妹の名前は何がいいかと決めかねていたところなんだが。ノエル何か言い案はないか?」
「妹の名前か・・・。とびきり可愛い名前でいいんじゃないかな?」
「じゃあビアンナとか。」
「それは却下。」
ノエルがお父さんの案に厳しく決を下す。さすがにビアンナはないけど即答したら駄目じゃないか?
ほら、お父さん拗ねちゃったし。どっちが子供かわかんないよ。これじゃ。
思わずノエルの耳元で優しく、もうちょっと言い方考えろよ、と声をかけるとノエルが思いっきり肩を震わせる。
一人の女性が言ってやっていると言うのに失礼だな。礼儀についても教えなければいけないのか・・。
「じゃあさ、ティエナとかいいんじゃない?」
「ティエナね。女だってのは確認したからそれでもいいと思うわ。」
「ビアンカ・・・。」
「諦めなさい。」
お父さんはビアンカが気に入ったのか諦めようとしていなかった。
感動的だな。だが無意味だ。
おっと失言失言。
口悪くならないようにあんまり悪い言葉は使わないようにしないと。
食事も終わって、魔法練習。正直体力にも重点は置きたいのだが・・。
今は仕方ない。9歳の体のつくりに稽古なんてしても無駄だろう。
体を痛めてしまっては本末転倒だし。
「氷雷撃。」
そういえば、この世界の魔法って中々ハイスペックだな。
魔力あれば誰でも出来て、凄い便利って本当にチートですし。
どっかの魔王様でも見たら、胃がはちきれるんじゃないだろうか。
彼の手から出る電撃を帯びた氷を見やって、次に自分の手を見る。
細くしなやかで小さい手。
今の私の状態がどうなっているかは、水でしか確認できないので、詳しくどうなっているか分からない。
たぶん前回の世界とはまた違った状態なのだろう。
この世界にあった、次の状態。
何故私がノエルの前に現れて、何故ノエルが私を見ることが出来るのか。
まだ分からないままだが、いずれ分かるだろう。
きっと、たぶん、おそらく。
今までは自由に飛び回っていた分今の状況が分からない。
しかし、彼はきっと波乱に巻き込まれるだろう。
何時だってそうだった。何かの中心の者を主体とする世界。
いわゆる主人公がいて、やっと続いている世界。
きっとノエル君が主人公なのだろう。主人公チートって言うのが満載だしね。
でも、本当にそれだけなら。主人公を中心にするだけの世界なら。
―何故私は主人公に見えるのだろうか。
その疑問は何時消えるのだろうか。
――
ところ変わって、ノエルが起きる前。
私が睡眠不要なので暇を持て余していた所に・・。
ミレーが面白そうなことをしていた。何やら手紙を書いているらしい。
宛先は帝国のグレイン城。そんなところに何の手紙を?と横から覗き込むと、そちらで鍛えてもらえませんかと言う一文。
私はなけなしの力でその手紙が他のものより目立つように魔術を使う。
いや、別に不純な動機じゃないんだよ?でもやっぱり主人公君にはもっと頑張ってもらわなきゃって思って☆
別にそっちのほうが面白そうとか思ってるわけじゃないんだよ?ママさんの思いが伝わらなかったら嫌だなぁ、と思って☆ついやっちゃった!とかじゃないんだよ?
ママさんがその手紙を便箋に入れて、蝋を溶かして印を押す。そうすると何故か急いでいるように家の外に駆け出す。配達初めが近かったりするのだろうか。
これでノエルがジャ○ーズ事務所に母が勝手に応募しちゃって、見たいなことが出来るのか。
目の前でそんな現場を見れるとは、世間は狭いな。
あの少し反応が薄いいつものノエルがどう反応するかが見ものだね。
と、えーとなんか暇だなぁ。
この世界は遊び道具も碌なもんないし。暇な要素しかない。
せめてラジオでもあったらな・・・。
勿論この世界には冷蔵庫もオーブンもテレビもない。
つまりアナログをモチーフにした憎々しいアイツや黒い丸耳を持つ憎めないアイツさえいない。
この世界は娯楽が少ない、だからと言って娯楽に興味がないわけじゃない。
賭場に行けば、やばい奴らが沢山いるだろう。
それは人間の屑やら来る場所を間違った奴まで。
それは何所の世界でも一緒だった。
汚い部分から綺麗な部分まで根本的な部分は全て同じだった。
娯楽が家に侵入していなくても結局は一緒なのだ。
だがノエルは違った。
贔屓みたいな言い方をするが。別に主人公だからとかではなく、全くと言ってもいいほど欲が自己によるものではない。
欲はある。ただそれは家のためやら、レヴィのためやらで自分のためにやろうとしない。
"自己犠牲"とか言うちゃちなものかもしれない。
他人を自分より重要にしている。存在が他人であるように。
・・・何か意味分からない説明になっちまったけど、
詰まるところがアイツは他人の為に生きてるんだ。
他人がいなくなったら困る。それじゃあ助けるし、そのために強くなるだろう。
ここまでが私が9年間かけて読み取った、あいつの性格だ。
自己犠牲ってのは大切な人のためにやるものだ。
他の主人公達もそうだっただろう。
じゃあアイツの大切なものって?
――
「大切なもの?」
仕方がないので本人に聞いてみた。
あるよね!考えてそこで終わりなやつ!
結局それが伏線になるんだけど、別にそんなんなくてもいいよね!
聞いたら解決できた系の問題は回収しないとBAD ENDの可能性もあるし。
世界を救えると言っても過言ではない。
「君の一言で世界が救えるんだ。」
「え!何々!?いきなり何なの?」
「おっとごめんよ。ちょっと勘違いしちゃったよ。・・それで君の大切なものって何?」
場合によっては私も去らないといけないかもしれない。
その人を庇う形って多いからね。
「うーん、なんていうかなぁ・・・。レヴィも、お父さんも、お母さんも皆大切かな。」
「いや、もうちょっと絞って。限定的に・・。」
「えー。・・・ん。レヴィは何か一人で大丈夫そうだし。特にって人はいないかな。」
何やこの子メッチャいい子やん。
私涙出そうになるわ・・・。
「そういうレヴィはどうなの?」
「えっ私?・・・私は・・どうかな。強いて言うなら君かな。」
「強いてはいらなかったなぁ。」
「君とはまだ長く居ると思うからね。このぐらいじゃ足りないだろ?」
「足りないって・・・。僕はこれ以上レヴィを信用しろと?」
「じゃあさ、崇めて奉って!」
「いや、崇めるまでは行かないけど・・。」
彼はポリポリと頬を掻く。
少し困っているのか、目を少し細める。
「まぁ、いきなりこんな話して悪かったね。
特訓の続きに戻ろうか。・・・じゃあ次はこの魔法やる?」
「なにそれぇ。」
「簡単だよ。重力操って世界滅ぼす。」
「超無理気。」
「じゃあ、ハルマゲドン。」
「超無理気2。」
「なんならいいの?」
「まずその考えを改めろ。」
▲▼▲▼▲▼▲▼
「そうだ、京都に行こう。」
「さっきから何よ?藪から棒に。と言うか何所?」
「いや町に出ようかと思って。」
「何でさ?」
まるで必要ないと思うので首をかしげる。
一体どうしたのだろうか。
「いいですか。坊ちゃん・・・。夜遊びってのがあってですね・・・ぐへへ。」
「いや、夜遊びを三歳に教えんなよ。」
「9歳で分別付く君も大概だけどな!
―でさ、君も流石に欲を持つべきだと思うんだ。少しぐらい図々しくたって皆君に怒らないよ。」
「じゃあ、家計のことで相談なんだけど・・・。」
「アウトォ!!9歳がいきなり生々しすぎるわぁ!」
図々しくと言ったくせに直ぐに怒った。
何でなんだろう、やってることが正反対だ。
これはやはり物理で行くしかないのか。
「・・言い方を変えよう。もっと子供らしい欲望は?」
「・・・えーと、子供らしいって何?」
「あかん、これもう重症ッすね。手の施しようがないっすね。」
「何で急に諦めてんの!・・・強いて言うならさ、友達が欲しいかな。」
「いや、君なら直ぐに友達くらい・・・。あ(察し)」
「いや普通に男友達だから。誤解しないでよ?」
下卑た顔を浮かべるレヴィに手を振って否定する。
何で9歳がそんなこと言うと思ってんだよ。
9歳が色づいたらアカンやろ。
9歳とはまだ感情が完全に制御しきれていない頃だ。そう無闇に何かを出来るわけじゃない。
・・・と自分は思っている。
「いやはやノエルもそんな頃か。・・・友達ねぇ。」
「まぁ、絶対欲しいって訳じゃないけども。」
とりあえず町への道を歩いていく。こうすればとりあえず町へいくことが出来るし、もしかしたら何かしらあるかもしれない。
レヴィがゆっくりと頭の上に乗り、寝転がる。
「友達・・。欲しいなら振り向いてみたら?」
「過去を振り替えろって意味?」
「いや、物理的に。」
くるっと首を回して後ろを向く。
するとスッと隠れる人陰が。
・・・おっと。
光魔法の認識偽装で、姿を消してみる。
すると驚いて出てくる人影が。
男子一人と女子一人。カップルか?けしからんな。
辺りを見回す二人。年的には10歳前後だろう、近しい年齢だ。
彼女はあたりをキョロキョロ。彼はそれを微笑ましく見ている。
僕は音を立てずに彼らの後ろに回りこむ。彼らの無防備な背中を見て脅かしたくなるが、グッと抑える。
「二人ともどうしたの?」
「ふえっ!?」「えっ!?」
彼らはすぐさまこちらを向いて信じられないと言う顔をする。
片方の男の子は金髪モドキみたいな髪色の好少年だ。
女の子は黒髪をロングにして下で纏めている。
服はどちらも布製であり、この時代に即した凡庸な服である。
いたって普通の町民と言ったところだ。
「す・・」
「す?」
男のほうから声が出る。
すっこんでろよ!とかなら泣ける自信がある。
一応泣くことで我慢できるように準備をしておくと・・。
「すごいです!」
「ん?」
予想外の言葉が飛んだ。凄いだと?
これぐらい9歳なら誰でも出来るだろう。
僕は才能がないからレヴィやお母さんに手伝ってもらってやっとのことで出来ているけど。
「なぁノエルよ・・・。勘違いしているようだから言っておくけども。普通の9歳は魔法使えないからな?」
マジか。
これが本当なら、僕はこの世界についてかなりの勘違いをしていたらしい。
まさか他の人が魔法を使えないなんて。
レヴィの話だと、話している人のほとんどが魔法か特殊能力が使えたからこの世界でもほとんどが強いんだと思ってた。
「何でそんなもの使えるんです?教えてくれませんか?」
イケメン少年は、犬のように可愛らしい顔でこちらを見てくる。
口調が少しおかしい気もしないでもないが、敬語だ。きちんと直立で話しかけている。凄い礼儀の出来た子だ。
ただ、尻尾があったら猛烈に振っていそうなイメージが頭から離れない。
「その前に僕は君たちの名前も知らないんだけど・・。教えてもらってもいいかな?」
「・・ッ!失礼しました!メル・フラウバーといいます。――ほら。」
男の子が軽く女の子の袖を引っ張ると、ハッと気が付いたように口を開く。
「メレイ・フラウバー。よろしく。」
「ノエル・クロードです。そちらは兄弟?」
「はっ、はい!僕が弟になります。」
「・・・私が姉だ。」
「そうか・・。というか魔法を教えて欲しい?だっけ?別に習うだけなら、学校に行けば・・・。」
「学校に行けばかなりのお金がかかります。別に貴方に無償で教えてもらおうとは思って居ませんが、こちらの家庭も大金持ちではありませんからそこの所考えてくれるとありがたいです。」
「じゃあ魔法について諦めれば・・・。」
「僕は旅の者の道具により、魔法の才能を測ってもらいました。結果が芳しかったので、努力すればそこそこの魔術師にはなれると思います。僕は魔術師で頑張って、家のためにも魔法でより沢山のお金を稼がないといけないのです。つきましては、貴方の召使でも何でもいたす所存です。」
「その敬語をとりあえず止めてくれんか?話しにくくてしょうがない。
―そうだね、両親が良いと言うなら僕はやるけど、召使は却下だ。やるなら、弟子か生徒だ。」
「両親の許可が出たら教えて下さ・・くれるのですか?」
少し固めの言葉を直すメル。
直しても敬語なんですがそれは。
「まぁ僕の教えれる範囲は・・。」
「本当ですか!賃金はどのくらいで・・・。」
「そんなのいいよ。-僕友達が欲しかったんだ。だからさ、教える条件は友達になることにして、君たちに友達みたいな間隔で教える。それでいい?」
「勿論です!」
(いいよね?レヴィ。)
「おーやっちゃえやっちゃえ。こういうのは経験しとくと凄い役立つよ。」
レヴィからの承諾も事後承諾だが受け取り、俺は安堵する。
そこから、メルの質問攻めに遭うのはきっと必然的だっただろう。