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サマタオ  作者: 辰野ぱふ
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ユアン (2)

 ブランコでもすべり台でも遊んだし、砂場でいろいろ作ったこともあった。一緒に遊んだ友だちは、今どうしているのかな?

 迷路のような坂の多い道を、あちこち抜けて歩くのも楽しかった。ママはいつも心配して、ユアンの後ろをついて来たっけ。あのときは、ずっとずっと歩いてどこまでも行けると思っていた。

 ママは夢見ている。またユアンと走れたらいいなって。歩けたらいいなって。でもきっとそのことは口には出さない。だって、今、ユアンは眠っているだけだから。

 ユアンはもっと思い出す。この病院に来る少し前には、ママが抱っこしていろんな所に連れて行ってくれた。

 電車にもバスにも乗った。美術館にも博物館にも連れて行ってくれたね。

 海にも行ったよね。海の中には入れなかったけれど、水に手で触ってみた。なめてみたらしょっぱかった。その味は覚えている。 

 動く椅子に座って、デパートを回ったこともあった。楽しかったな。

 いつかまたそうやって外に行ってみたい。ママと一緒に。

 まだまだ知らない所をたくさん見てみたい。ママと一緒に。

 ママは静かな音楽をかける。そして、物語を読んでくれる。

 小さい星に住んでいる王子様のおはなし。

 ユアンにとっては、今、このベッドの上がユアンの星で、王子様の星の広さと、ユアンのベッドの広さは同じくらいかもしれない。ユアンはこのベッドの上の王子様だ。

 ママの声が聞こえているけれど、またどこからが夢かわからなくなってくる。

 ふわふわと雲の上にいるような、浮かんでいるような感じがする。

「ユアン?」

 ママの手の感じがわかる。

「もう眠っているの?」

 そうかな?

 これは夢なのかな?

「ここはこんなに静かで平和なのに、戦の始まった国もあるのよ。ずっとずっと東の国。大きな戦になるかもしれないわ。もっと長い間憎しみ合って戦っている所もある。そんな所では、きっとあなたを守ってあげられなかった。こうやって今、ここにいられることを、感謝しないとね。どうぞ、戦いが早く終わりますように」

 ユアンのどこかでママの手が動いた。

 それがどこなのか。

 たぶん、ユアンの金色の髪の毛だね。

 そうやって、いつもなでてくれたことは、はっきりと覚えているから、その思い出と重なって、ユアンにはママの様子がわかる。

「戦って何をすることだろう」

 またゆらゆらと、たよりない思いの中にユアンは引っ張り込まれていく。

 夢の中の女の子と犬は、いつも気持ちよさそうに眠っている。

 ユアンもそのすぐ隣で眠っているような気持ちになる。なんだか、とても近くに感じることができる。とてもやさしく迎え入れてくれる。

 いつか、ぼくが動けるようになって、その女の子に会って、話すことができたらいいのにな。

 ご飯が、身体の中に全部入ったのか、身体全体がぽかぽかと暖かくなってきていて、とろとろと思いが溶けていく。ベッドの中にユアンの身体は沈んで、そのままベッドになってしまったような感じになる。とても気持ちいい。

「ユアン、お眠り。良い夢を見てね」

 ママがそばにいてくれる。

 そうやってただ過ぎる時間がユアンは好きだ。

 その時間に乗って、ゆらゆらただよっている毎日が好きだ。

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