ロウ (3)
外がどんなに寒くても、家の中にはいつも火があって暖かい。人が集まっていると、その分また少し暖かくなる。そんな冬は心強い。
でもチョウはこの暖かい家を出て、冷たい外に向かって行くのだ。一人少なくなってしまう。さびしいけれど、チョウはとてもかっこうよかった。
父さんはチョウの肩を抱いて、一緒に歩き出した。
家の外には何もない。今は、凍った黒い土がずっと続くだけ。隣の家が遙か向こうに見えるだけだ。
その道を父さんとチョウは歩いて行って、どんどん背中が小さくなっていく。
父さんはもう少し先までチョウを送って行って、そのまま工場に働きに行く。
父さんと兄さんが家から出て行くと、家は母さんとロウと二人きりになった。母さんはもう冷めてしまったおかゆをすすっている。
ロウは、母さんに甘えて、膝のところに頬を寄せてみた。母さんが冷たい手で、ロウの耳をなでた。
「ねえ? 母さんは夢を見る?」
母さんは、食べる手を止めて静かに笑った。
「さあ、ちっとも見たことはないよ。それに、見たとしてもすぐに忘れてしまうさ」
「ふうん…」
「ロウは夢を見たの?」
「うん。でも、変な夢なの」
「話してごらん」
「あのね、動物がいた」
ロウは、ぽつぽつと今朝の夢の話をする。
「見たこともない動物。さらさらと流れるような毛が金色なんだよ! それでとても大きいの。でもヤクやロバよりは小さい。あれは犬なのかな? 町の近くにいるような黒いやせこけた犬じゃあない。あれよりは大きいし、フサフサなんだよ。黒い髪の小さい女の子がいて、その犬と静かに寝ているの」
「よく覚えているねえ、そんな夢を! ロウの犬だったのかい?」
「違うよ。その女の子の犬だよ」
「その女の子はだれなの?」
「さあ?」
で、話すことはなくなった。
だって、たったそれだけの夢だったのだもの。
女の子が犬の首のあたりを、もそもそとなでる。犬は静かに女の子の隣に丸くなって、ただ女の子のそばにいる。何も起こらない。
その女の子がだれなのか、ちっともわからない。ただそれだけの夢。
でも、ロウはとても静かで優しい気持ちになったような気がした。
自分の夢なのに、どうしてロウは夢の中には出て来なかったのだろう。その女の子は、ほんとうにどこかにいる女の子なのだろうか? なんだか気になって、ロウはその日一日、なんとなくその夢のことを思い出していた。そして、母さんのお腹の中にいる赤ちゃんも、女の子だったらいいな、と思った。
夕方、すっかり暗くなってから、父さんが帰って来た。
扉が開くと、冷たい空気が流れ込んでくるので、すぐにわかる。
父さんは何か配給の食べ物を入れた麻袋を持っていて、それを母さんに渡し、ロウにも小さい袋のものをポンと投げて渡した。
「ロウにも立派な兵士になってもらわないとな。明日から、ロウも学校に行くんだぞ」
袋の中には、帳面と鉛筆が入っていた。
ロウはうれしくなった。学校に行って勉強すれば、自分も一人前の男になれるだろう。そして、チョウのように国のために戦うのだ。うんとがんばろう。
「お父さん、お疲れさま。ごはんのしたくができていますよ」
と母さんがにこにこしている。
「これからは、うちの暮らしは、ずっとずっと良くなるぞ」
父さんは、明るくなった。
家全体も明るくなった。
だからロウはうれしかった。




