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サマタオ  作者: 辰野ぱふ
22/22

サマタオ (2)

 自分は「木」だ。それもイチョウのメスの木だ。

 この場所には以前、サマタオの分身の木が何本もあった。それは、もともとはサマタオが種子だった同じ頃に、同じ元の木から育った木たちだった。

 サマタオはメスで、ぎんなんの実をつけるから、ここに残され、何本かの木は切り倒された。そうやって平らにならされた土地には小さい家があったはずだ。ミドリはその家にいたはずだ。

 サマタオの幹の中を探ると、ぼんやりとそんなことも残されている。

 自分の意識の中に映る自分の姿は、きっとミドリがサマタオを見上げた記憶なのだろう。

 こうやって、映った像を認識するということを人の営みに当てはめてみると、「見る」という行為に置き換えられるだろう。今まだサマタオは自分で周囲を見ることはできないけれど、像を形としてわかるということは、おもしろい。

 サマタオは人よりもずっと大きくて、長生きだったし、今までもただそこに立っていただけだったけれど、なにか周りでうごめくものを感じてはいたのだ。

 サマタオは人のようには動かない。

 でも、風で枝や葉は揺すられるし、小さい人がサマタオに登って来て、葉を揺らしたり、枝を折ったりしたことはあった。

 このごろ、ふっと、サマタオは自分から動いてみたいと思うようになった。どうしたら自分が動くようになれるのかは、見当もつかないのだが、いずれ、この目覚めと同じように、何十年、何百年とかかって叶うのではないだろうか。もしかしたらそれは、サマタオから産まれた、サマタオの記憶を継ぐ別の木の時代になるのかもしれないのだけれど。

 目覚めるというのは、気持ちのいいものだ。でも、続けて目覚めていることは、まだまだ今のサマタオには困難なのだ。今はただ何かの変化を借りて、偶然に目覚めているにすぎない。

 サマタオは、目覚めている時には、木の中のあらゆる機能を探って、自分の幹のなかの記憶を確かめてみるのだった。

 ミドリのほかにもいた人たちは、いったいどこに行ってしまったのだろう。

 空にも地にも、もっと動くものがあったはずなのに、今はとてつもなく静かだ。

 今、動く人がそばにいたのなら、もっとおもしろいだろうに。

動く人が今サマタオの幹に触ってくれば、同時にいろいろ探ることができるだろうに。

 その人を探すことができれば、自分から目覚めている方法もわかったかもしれないのに。

 サマタオは自分の身体の中をゆっくりと点検してみる。今はほとんど丸裸で、木の幹だけが風にさらされている。でも新芽の用意はできていて、日の光と水があればそれが芽吹く頃だろう。

 そういうことは、自然の中でなにも考えずに営まれてきたことだ。今までもずっと。

 それを意識するということは、くすぐったくて、おもしろい。

 目覚めている間に、自分の根の先がどこにつながっているのかも、探ってみる。

 サマタオの根の周りには虫やら、草や木の根っこやらがからみつくようにたくさんあって、そのずっと先に、サマタオが一緒に育った、同じイチョウの木があることがわかる。その木の中には、元はサマタオと同じだった木の部分もあるかもしれない。

 その木はどうしているのだろう。サマタオのように目覚めているのだろうか。

 サマタオはどんどんと根を伸ばして、ほかの木の記憶も探ってみたいと思う。その木にはサマタオとはまた別の文字が刻まれているだろうから、それを目覚めさせてやりたい。

 サマタオは、今、自分の根が、女の子の足のように地下から解放されて、地上を動くことを夢見ている。

 そうやって少しでも動いて、ほかの木のいる所や、人のいる所を探しに行けたら、どんなにかすばらしいだろう。

 人は、空気を変え、天候を変え、あらゆるものにつながって、サマタオにもつながっていたのに、それを知っていたのだろうか。

 サマタオが、何度も木として芽を吹き、育ったように、人だって何回も生まれ変わり、その分身はすべてつながっていたはずなのに、その記憶をどこかに刻んでいなかったのだろうか。

 どこかで人を見つけることができたら、それも探ってみたい。

 そうやってずっとずっと目覚めて、探っていたいのに、知らないうちにサマタオの意識は眠っている。目覚め続けていることは、まだまだ難しい。

 また風が起こる。

 まだどこも自分では動かすことができない。だから外から何か近づいてくるものがあるまで、ここにいるしかない。

 今までだって、恐ろしいほどの時間が過ぎていったのだから、それと同じ時間、ただここにこうしていてみよう。

おしまい。

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