ロウ (2)
「いいか、この国はほんとうの世界一になる。今までだって世界一だった。でも、少しだけ遅れていたんだ。だから、国中のみんなで努力した。力を合わせた。それで工業も商業もなんでもがんばって、お金もたくさん持てる国になってきた。
ところが、今まで少し先を行って豊になった国が、それを妬んだ。そして、この国の発展を止めようとして、あれを作るな、これをするなと言ってきた。自分たちは自分たちのやりたいようにやって豊かになったというのに、この国には同じことをするなと言う。それはおかしいだろ?」
チョウは、うんうんとうなずいている。
「この国が作ったもので、ほかのたくさんの国の人も豊かになったんだ。野菜だって、洋服だって、なんだって。この国の中でできないものはないんだ。これからはそういうものを、この国の中で生かしていくんだ」
ロウには話が難しくてわからない。チョウのように背筋を伸ばしては、父さんの話を聞いていられない。
「どうだ? チョウ? どう思う?」
「ほかの国はずるいと思います。それだから戦って、この国はもっと強くならなければなりません。今までのように言いなりになるばかりでなく、この国が中心となって、世界を導いて行かなければならないのです」
父さんは、うれしそうな顔をして、チョウの話を聞いている。
戦いに出るためにチョウは学校にも行ったから、勉強して難しいこともちゃんとはっきり言えるようになった。
「チョウの夢は何だ?」
と父さんが聞く。
「敵をたくさんやっつけて、うんと偉い軍人になります。そしてお金をたくさんもらったら貯めて、家をきれいに建て替えます。一人ずつの部屋があるような大きな家です」
父さんはまた、うんうんとうなずく。
学校に行くと、言葉づかいも立派になる。ロウはチョウをうっとりと見つめた。
「今まで世界一だと言っていた国には、たくさんの子分の国があるんだ。中くらいの国、小さい国が大きな国の影に隠れてえばっていた。そういう国が集まって、邪魔をしてくるんだ。チョウはな、まずそういう小さい国に乗り込んで行く。だれが本当に強いのかを思い知らせてやらないとな」
「ぼくはこわくない」
チョウは胸を張った。
「そうともこわくなんかないさ。お前は正しいことをするんだ」
父さんはチョウの肩をがっしりとつかんだ。そして顔だけはロウのほうに向けて、ロウの目をじっとのぞき込んだ。
「ロウの夢は何だ?」
急に夢、と聞かれて、ロウは今朝見た夢のことを思い出した。
でも、その「夢」と、今父さんが聞いている「夢」とは意味が違う。そんなことくらいは、ロウにもわかっていた。
でも、どっちもなんで「夢」って言うのかな、とロウはふしぎに思った。
今朝の夢のことが浮かんできてしまってしょうがない。自分の将来の夢のことなんか考えるすき間がない。
「おまえも、立派な兵士になるんだぞ」
父さんは、声をたてて笑った。
ロウはあわてて、うんうんとうなずいた。
このごろは毎朝、いつも、こんな話だ。
笑い声が増えたし、父さんの頬も少しふっくらして、鼻歌も歌うようになった。
「いよいよチョウは、この国の外に出て行く。今日からだ。しばらくは帰って来ない。そうしたら、ロウが兄さんのぶんも家の仕事を手伝うんだぞ」
父さんは、ロウの頭をなでた。ゴツゴツしていて板きれみたいに感じる。
ロウはまた、こくんとうなずいた。
父さん、チョウ、ロウはもうおかゆを食べ終わった。ロウが母さんに席を譲ると、母さんは大きいお腹を抱えるようにして、ゆっくりと席に座った。そしてにっこりと笑った。
これから母さんがおかゆを食べる番だ。でも、父さんとチョウは母さんのことなんかちっとも気にしていない。
「さあ、したくしないとな!」
チョウと父さんは立ち上がった。
チョウは用意してあった布のカバンを持って、背筋を伸ばして、父さんと抱き合った。チョウの身長はもう父さんとほとんど変わらなかった。
母さんは、おかゆを食べるのを途中でやめて、戸口まで父さんと兄さんを送る。
「チョウ。身体に気をつけてね」
母さんは、下を向いて、目から涙がこぼれた。
その母さんの後ろに隠れて、ロウはどういうふうにしていたらいいものかよくわからずに、もじもじしていた。
「じゃあな、ロウ。あとのことはたのんだよ。ぼくもがんばるから、ロウもがんばれよ」
チョウが、ロウの頭をぽんぽんと軽くたたいた。
前はけんかもよくしたのに、チョウはすっかり大人になってしまって、まるで父さんがロウを見るような目で見ている。
ロウは、なんだか恥ずかしくて、ただ小さくうなずいただけだった。
「じゃあ、お母さん、行ってきます。身体に気をつけて。ぼくは長く帰れないかもしれないけれど、元気な赤ちゃんを産んで下さい」
母さんは泣いていて、何か言おうとしても、口もとが震えていて、言葉が出てこないみたいだった。
今まで、ずっと一緒にいたのに、今日からチョウが家にいなくなるなんて…。ロウにはまだその感じがつかめなかった。




