アキト (3)
友人は逃げるように、密漁船で自分の国に帰って行った。アキトはその船が見える所まで友人を送り、固く手を握り合った。
アキトと友人は同じような立場だった。ただ研究を続け、自分の家族を大切に思い、常に最善を尽くそうと思っていただけだ。どちらも間違っていなかった。それなのに、どうしようもできなかった。
戦が始まった時には、いつかまたみんなと会えるまでは、静かにふんばれる気がしていた。
それから、アキトの仕事が変わった。
戦場に送る若者のために、志気を高めるプログラムを用意しなければならなくなった。
”グリーンスペース”の原理を応用して、プログラムの趣旨を変えなければならなくなった。”グリーンスペース”はこれまでのように各人に合わせて思考するのではなく、はっきりと方向を持った波長を強く体験者に与える機械になった。補正のイメージは球体ではなく、憎しみ、争いなどの方向に偏ったとがった形を表すようになり、”アンガー”と名付けられた。
そんな中でも、最善を尽くそうとアキトは考えていた。
疑問を感じながら戦場に向かう若者の心は弱くなってしまうだろう。自分に信じられる戦いの意味を吹き込まなければならない。大きな流れに流されるまま戦場に送られる若者のことを考えると、自分の分身のように思えた。自分の中に起こる寂寞とした思い、疑問と決別できるもの。それは何か。それは何なのだろう? アキトは若者のために、戦いに向かう気持ちを高めることができる物を作ろうと思った。
いつだってアキトは仕事に打ち込んできた。
でも、ミドリが亡くなってからは、仕事に対する熱意が冷め、心はカラカラに乾いてしまった。
最後の非常扉が開き、アキトは外に立った。
空気は焦げ臭く、燃えてはいけないものの臭いが、あたりにたちこめていた。
そのぼんやりした煙のかなたに空は見えていた。
多くのビルが焼け落ちていることで、空は広く、丸く感じられた。
ぐるりと何にも遮断されることなく、あらゆる国とこの空はつながっているのだ。
焦げ臭くてもいい。アキトはその空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
空がつながっているというのに、いったいどうやってこの世界を閉ざせるというのだろう? まったくバカらしい。
と、その時、空が爆発した。
一瞬にしてアキトの身体は小さい光の粒になった。その光の粒はアキトの思いを乗せて、世界に飛び散った。




