ジム (2)
マリーがにっこり笑って、下から恥ずかしそうにジムのことを見る。その瞳が今ジムだけを見ていると感じるとジムの心ははずみ、なにげなく話しかけるのにもドキドキした。
「今日は、いいお天気だね」
やっとこ声をかけると、レジ袋の中にジムの買ったあれこれを詰めながら、マリーがくすっと笑った。
「そうね」
そして話が途切れる。
なんてバカなんだオレは。もうちょっとマシな話ができないものだろうか。その日は一日、その失敗の思いが繰り返し浮かんできて、ブルーな気持ちになる。
でも、またマリーに声かける時は、どうしてもマヌケになってしまう。
「ね、映画に行かない?」
心臓がバクバク飛び出しそうになりながら、何回目かにやっと話を先に進めた。
「いいわね」
意外にあっさりとマリーはデートに応じてくれて、ウキウキしながら映画に出かけた。
「ね、何の映画が好き?」
いたずらっぽく笑うマリーの顔を見ているだけで、気持ちが高揚した。
「そうだな…」
どういう映画が好きだと言ったらいいのだろう。ジムは頭が真っ白になって、ただニコニコ笑うしかなかった。
「ね、あたしは、だんぜん、ミュージカルだって思うわ」
にっこり笑って、そう言ってマリーから手をつないできた時は、天にも上る気分だった。「うん、確かにミュージカルかもしれない」、アホみたいにそう思ったけれど、口には出せなかった。ただ、ずっとそうやって歩き続けていたかった。
まあいい、これからたくさん二人の時間を重ねて、何もかもがバラ色に輝いて行くんだ。
自分の歩く道が特別に見えた。
マリー、マリー、マリー。
まだまだ、一緒にたくさんの時を過ごしたかったな。これから二人で指輪を選び、一緒に誓い合う場所を探し、新しい生活、新しい家族と暮らす毎日はどんなだっただろう。
思いはあちこちに飛び、ぐるぐると楽しかったことばかりが渦巻いていた。そしてジムが生きてきた二十二年間と同じ長さを繰り返した。
ジムのすべてが蒸発して無くなろうとしていた瞬間。ふと、思い出の中に引っかかるように、知らない女の子がいた。
ゴールデンレトリバーの横で静かに眠っている。
ああ、オレもそこに行くんだ。静かで、穏やかな所に。
ジムの操縦する機体は、だんだん小さくなり、あたりの空気に飲み込まれていった。




