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サマタオ  作者: 辰野ぱふ
14/22

ジム (2)

 マリーがにっこり笑って、下から恥ずかしそうにジムのことを見る。その瞳が今ジムだけを見ていると感じるとジムの心ははずみ、なにげなく話しかけるのにもドキドキした。

「今日は、いいお天気だね」

 やっとこ声をかけると、レジ袋の中にジムの買ったあれこれを詰めながら、マリーがくすっと笑った。

「そうね」

 そして話が途切れる。

 なんてバカなんだオレは。もうちょっとマシな話ができないものだろうか。その日は一日、その失敗の思いが繰り返し浮かんできて、ブルーな気持ちになる。

 でも、またマリーに声かける時は、どうしてもマヌケになってしまう。

「ね、映画に行かない?」

 心臓がバクバク飛び出しそうになりながら、何回目かにやっと話を先に進めた。

「いいわね」

 意外にあっさりとマリーはデートに応じてくれて、ウキウキしながら映画に出かけた。

「ね、何の映画が好き?」

 いたずらっぽく笑うマリーの顔を見ているだけで、気持ちが高揚した。

「そうだな…」

 どういう映画が好きだと言ったらいいのだろう。ジムは頭が真っ白になって、ただニコニコ笑うしかなかった。

「ね、あたしは、だんぜん、ミュージカルだって思うわ」

 にっこり笑って、そう言ってマリーから手をつないできた時は、天にも上る気分だった。「うん、確かにミュージカルかもしれない」、アホみたいにそう思ったけれど、口には出せなかった。ただ、ずっとそうやって歩き続けていたかった。

まあいい、これからたくさん二人の時間を重ねて、何もかもがバラ色に輝いて行くんだ。

 自分の歩く道が特別に見えた。

 マリー、マリー、マリー。

 まだまだ、一緒にたくさんの時を過ごしたかったな。これから二人で指輪を選び、一緒に誓い合う場所を探し、新しい生活、新しい家族と暮らす毎日はどんなだっただろう。

 思いはあちこちに飛び、ぐるぐると楽しかったことばかりが渦巻いていた。そしてジムが生きてきた二十二年間と同じ長さを繰り返した。

 ジムのすべてが蒸発して無くなろうとしていた瞬間。ふと、思い出の中に引っかかるように、知らない女の子がいた。

 ゴールデンレトリバーの横で静かに眠っている。

 ああ、オレもそこに行くんだ。静かで、穏やかな所に。

 ジムの操縦する機体は、だんだん小さくなり、あたりの空気に飲み込まれていった。

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