ロウ (1)
戦争には絶対反対です。
自分は巻き込まれたくないです。
何が恐怖かと言えば、自分の生活空間が戦場になることが一番の恐怖です。
勘違い婆炸裂状態です。
いったいこんなことを書いて何になるのか、と思いましたが、自分の「ポエム体質」
を止めることができませんでした。
お許し下さい。
人は1人だと本当に無力だし、何も成せないという気持ちです。
一.ロウ
石のかべに窓がある。窓といっても、ただ四角い穴が切り取られているだけだ。そしてその四角い穴をふたするように、うすい木がはり付けてあって、石のわくと木の隙間にはボロ切れやわらくずがぎゅうぎゅうに詰まっていて、どろが塗り込められている。それなのにまだ隙間があって、冷たい風が入ってくる。風が強いと、ひゅーひゅーと奇妙な音を立てる。
それでもロウはいつもぐっすり眠る。朝はなかなか起き出すことができない。
でも、今朝はなぜかまだ暗いうちからパッチリと目が覚めた。
ふしぎなことに、今見ていた夢をはっきり覚えていた。
自分は空気の一部みたいになっていて、だれかのことをのぞき見ているような感じだった。
「ロウ、朝よ! 起きなさい!」
母さんが台所で呼んだ。
外が少しだけ明るくなってきていたことはわかっていたけど、今日はまだ毛布にくるまっていたかった。
「ほら! ロウ! 朝よ!」
続けてすぐにまた母さんが呼んだ。
「起きてるよ!」
と、大きな声を出してみる。
いつもなかなか起きないから、まだ眠っていると思っているんだね。そう思われているならしゃくにさわる。
ロウはもぞもぞと動いて、隣の木のベッドを見た。そこにはもう兄さんのチョウの姿はなかった。
寒い。
もう一度毛布にもぐろうと思ったけれど、叱られる。だって、チョウはもう起きているんだから。起きなくちゃ。
下着のまま寝ているから、その上に綿入れを着て、毛皮のちゃんちゃんこを羽織って、ロウは食卓の自分の席に着いた。
食卓というのは、家のほぼ真ん中に置いてあるテーブルの周りのこと。部屋というような仕切はないから、少し歩くだけ。テーブルからは家の中をぐるりと見わたせる。
テーブルは傷だらけ、油や食べ物が染み込んでいる。木をそのままぶった伐ったような簡単な作りのいすが周りに三つ置いてある。テーブルもイスも父さんが作ったものだ。
もう父さんと兄さんは座っていて、父さんがこわい目でじっとロウを見て、えへんとせきばらいをした。
「起きたらまず顔を洗え! ちゃんと目が覚めるように!」
と、父さんがどなった。
水は冷たくて痛いほどだ。ときどき小さい氷も混じっている。だから洗いたくない。
家の入り口はすぐに土間になっていて、湯気の中で母さんが動いている。そこが台所で、そこに水場がある。母さんが泉から運んで来る水だ。
ロウは水場で母さんの尻の影に隠れて、水を汲むふりをした。
もうすっかり目が覚めているのに、なんで顔を洗わなくちゃあならないのだろう。でも、父さんに口答えはできない。だからしぶしぶ水の所まではやって来た。そして、父さんの方をちらちらうかがって、こっそり顔を洗うふりをした。
それから席に着いた。
「ロウも、そろそろ自分で起きられるようにならないとな。兄さんのチョウを見習えよ」
父さんが、誇らしげに兄さんの方を見た。
チョウは背筋をしゃきっと伸ばして、ロウを見下ろした。
チョウはこの一年でぐんと背が伸びて、なんだかすごく大きくなってしまった。
三歳しか違わないのに、ロウは自分の小ささを感じて、しゅんとした。ロウは、自分がもっと小さくなってしまったように感じた。
「はい、熱いから気をつけてね」
熱いおかゆが一杯ずつ、まず父さんの前、兄さんの前、そしてロウの前に置かれた。
スプーンは、やっぱり父さんが前に作った木のスプーンで、ちょっとずつ形が違う。その形で、どれがだれのスプーンなのかがわかる。
ついこの前までは、三人でそろって朝食を食べるなんていうことはなかった。
父さんには仕事がなくて、いつまでも布団から出てこなかった。仕事がないから、食べる物もあまりなかった。
ロウの家は農家で、外には畑があるけれど、土が悪くてたいしたものはできない。
父さんは別の所で仕事を見つけなければならないのに、働く所もない。父さんが話すのはそんな話ばかりだった。叱られることは少なかったけれど、家の中の空気は重くて暗かった。
それだったら、叱られたとしても、今のほうがずっといいな、とロウは思った。
母さんは皆が食事をする間もいつも働いている。だってイスが三つしかないのだもの。誰かが席を空けなければ母さんが座ることはできない。
父さんとチョウとロウはおかゆを食べ始めた。ただのお湯みたいな、うすいおかゆ。お米の粒が舌に触ったら、飲み込まずにゆっくり口の中で溶かす。温かいものが身体の中にはいると、身体全体が、むくむくと大きくなるような感じがする。
「これからは、どんどん良くなるぞ」
と、父さんは胸を張った。
「戦いが始まったからな。オレにも仕事ができたばかりか、チョウにも仕事ができた。こんなに若いというのに、大したもんさ。りっぱな兵士になって、オレより偉いんだからな。オレの若い頃には夢なんか持てなかった。栄養もとれなかったから、歯でもなんでもぼろぼろさ」
父さんは、真っ黒な口をぽっかりと開けて笑った。
「ここは農家で、二人も男の子がいるんだから、これで、なんでも良く育つ畑さえあれば良かったのにな。外はカラカラだ。冬は寒くて土も何も凍ってしまう。だからどうしようもない。でもこれからは違うぞ。おまえたちが外に出て仕事をして、この家を建て直すんだ。もうすぐ下の子も産まれるからな」
兄さんは、じっと動きもせずに父さんの話に耳を傾けている。
ロウも見習いたい。でも、おかゆを見ると、うずうずする。それを目の前にしてじっとしていることなんかできない。




