MISSION 14 馬鹿
「全く、相変わらず無謀というか馬鹿というか……」
翌日、俺の活躍をさゆりさんから聞いたアキラは、頭を振って溜め息を漏らした。
「発破をかけたのはお前だろうが」
俺はソファーに寝転がりながら、アキラに文句を言ってみる。
「そうだっけ? 昔の事は忘れたね」
自分に都合が悪くなると、全て忘れてしまう。こういうところは昔のままだ。
「まぁ、おかげでさゆりちゃんも助かったけどなー」
ひどい言われようの俺に、ミアがフォローしてくれる。
「ところでお前、どこにいたんだ?」
そういえば、俺が駆け付けた時にはもうミアはいなくなっていた。あんなに危険な状況だったのに、一体どこにいたのだろうか。
「私が先に逃がしたんです。ミアちゃんに何かあると総統様に怒られちゃいますから」
「怖いオッサンだな……」
悪の親玉……というよりは、ただの親バカの顔を思い出す。何となくだが、一旦怒ると怖そうだ。特に、他人に対しては。
「紅一、いいのか?」
少しだけ思いつめた顔をして、アキラが俺に言葉をかける。
「何が?」
「何でか報道はされてないけど……お前はこれで裏切り者になった訳だ。ネイチャーレンジャーのレッドになりたいって夢は絶望的になったぞ」
ああ、そんな些細な事か。その事に関しては、俺の中では問題はない。
頭の中で決着はついている。
「お前は、何もわかってないな」
「はぁ」
偉そうな俺の言い回しが気に障ったのか、アキラが苛立ちそうに答える。
「なぁミア、お前が大人になる事が出来たら、悪の組織ってのは無くなるんだろ?」
「まぁそうなるな」
腕を組み、ミアが頷く。
「だろう? だから俺がそれを手伝ってやる」
「本当ですか?」
期待に溢れる目を輝かせ、さゆりさんが嬉しそうな声を上げる。
「『悪の組織を潰す事』と『ネイチャーレンジャーのレッドになる事』。別に矛盾してないだろ。やればできるさ」
なんと完璧な理論だろうか。もともとその二つの結果は同じ事じゃないか。
ここにいたって、ネイチャーレンジャーのレッドにはなれる。世界の平和は守ってみせる。
――俺が描き続けた、ああいう人に。
「馬鹿だな」
「バカだなーっ」
「おばかさんですね」
人が折角いい話をしてやったというのに、三人が頷きながら俺を馬鹿にする。
全く、なんて奴らだ。人の苦労も知らないで。
「うるさいよ……もういい、今日は一日中ここで寝てやる。でかいイビキかくから覚悟しとけよ」
「うわ、迷惑だ」
ミアはそう言い残すと、残っている彼女の作業に戻った。
「おっと、もうこんな時間か……それじゃ、行ってきます」
アキラも授業があるとかないとかで、簡単な挨拶を残して部屋を後にした。
俺が寝転んだソファーの前には、いつの間にかさゆりさんが経っていた。
「あの、紅一さん」
俺の名前を呼ぶ彼女は、少し思いつめたような顔をしていた。
もしかすると、責任を感じているのだろうか。
「よろしく」
さゆりさんに向かって、真っ直ぐと右手を差し伸べる。
「よろしくお願いします!」
丁寧なお時儀と一緒に彼女が両手でしっかりと掴んでくれた。
手のぬくもりが、心地よかった。