第34話 短き戦闘と幻の冒険者1
解析の結果に今まで放っといた称号を増やしました。
では、まずは目撃者がいない状況を作ってしまおう。
自分と同い年の子供が誘拐犯を倒しましたと言っても大人は信じないだろうが、見てしまった人は事実だと知ってしまうから後の厄介ごとのタネになりかねない。
周囲に吹聴されるのも、自身と同じくらいの年なのに凄い人物だと勝手に期待されるのも面倒くさい。
なるべく面倒事は少ない方がいいからね。よく物語内の悪役は花が咲く前に優秀な芽を摘み取っておかなくてはなんて言うけれど、種をまく時から選別して間引いて妨害しておかないと。
目撃者を作らないだけならば、窒息や激痛、強衝撃などで無理矢理気絶に追い込んだり、喪失や精神汚染、幻覚などで廃人または狂人に仕立て上げればいいのだが、それでは折角助けても救出した人たちに無視できないような後遺症を残すことになってしまう。
そうなってしまうと、現在立てている計画的にもまずいのでここは穏便に悪性状態異常『睡眠』でしばらくの間眠っていてもらおう。
本当は『記憶系統』の魔法が使えればよかったのだが、まだ知能の値が足りていないらしく使うことができない。
俺の知能の数値とあいつの精神の数値から考えて、今使える魔法ではおそらくあいつを眠らせることはできないだろう。
それに、よくよく考えてみると道具を使いこなせる程度の知能はあるようなので、対象が自分自身ではないとはいえ魔法を唱えたら流石に気が付かれてしまうだろう。
それくらいの知恵があるやつだったら、敵対意志を感じた瞬間にもしかしたら人質を取るなどの卑劣な手段に出かねない。
俺だって時と場合によっては人質、物質を躊躇なくとり相手の弱みに付け込むので人のことは言えないのだが、今回はできるならば子供たちが五体満足で精神的にも安定した状態で帰してあげたい。
その関係上人質を取られると面倒なので、こちらが子供たちのほうにたどり着くまでの間やつの行動を邪魔する魔法も一緒に組んでしまおう。
と、その前にあいつの情報を確認しておこう。
『【隠匿】された情報を【解析】しました。情報を更新します』
身体情報
name「 」(試作品No666x) Lv194 age0 sex雌雄同体 race混合獣人型
condition喜悦状態、空腹状態、大狂気状態 fromテ・デウム帝国▼(詳しい情報の取得可) Exp54000/43657
命67000/67000 魔力71200/68000
筋力12098 耐久10043 敏捷11290 器用12430
知能12764 精神10082 持久100231
スキル一覧
【奪吸収】(200)【変形】(178)【高速再現】(176)【捕食物分析】(145)
【記録】(156)【呪怨大耐性】(2)【呪言葉】(24)【苦痛中耐性】(167)
【毒中耐性】(59)【隠匿】(2)【水属性魔法】(48)【火属性魔法】(13)
【風属性魔法】(9)【木属性魔法】(10)【金属性魔法】(9)【雷属性魔法】(9)
【無属性魔法】(54)【氷属性魔法】(6)【岩属性魔法】(7)【土属性魔法】(8)
【液体化】(20)【固体化】(20)【毒体内生成】(50)【影潜り】(120)
【氷の吐息】(43)【溶解液】(20)【食変】(54)【擬態】(98)【言語翻訳】(150)
称号一覧
【上位混合獣種】【試験体】【生命を弄ばれし者】【怨念集いし者】【狂気に飲まれた者】
どうやら、スキルを使って情報を隠していたらしいが特に問題なく【解析】することができたようだ。
解析結果はこんな感じだ。スキルは俺並とまではいかないものの【奪吸収】の効果でかなりの量を持っていたから重要そうなものだけを残して一部省略している。
【奪吸収】、【吸収物分析】はたぶんあいつの種族としてのスキルだろう。
前世では混合獣人型なんて種類の魔物はいなかったしスキルなんてものはなかったが、あいつの称号にもある上位の混合獣種は自身が吸収したものの能力や魔法を使っていたからまず間違いないと思う。
出身地を現すfromの欄に付いている▼はどうやら、複数の情報が混ざっている時に表示されるようだ。
実際、詳しく見てみたいと意識してみるとテ・デウム帝国の他にも『カセン』や『サーヌク』、『リーシュ』などといった地名が数十個出てきた。
称号は弄ばれるだったり、怨念だったりと不吉なものが多いが今は気にしなくていいだろう。
ただ、この混合獣人型はまともな生き方をしてこなかったのだろうということはわかる。
様々な生物が混じったような見た目の混合獣にだってちゃんと雄と雌の区別くらいは存在する。
使役者は使役した魔物に勝手に名前を付けてしまうが、野良の魔物にも個体ごとに名前は決まっている。確かに生まれたばかりの魔物には名はないが、成長して一ヶ月くらいで自然と名前が付く。
魔物だってよほどその人物に陶酔するか、その人の考えた名前を気にいるかしない限り、元の名前を大事にするし元の名で呼ばれることを一番うれしがる。
そのことを分かっているから調教師は魔物とコミュニケーションをとり魔物が一番喜ぶ名前を付けようと努力する。
自己中心的な考えをしているやつが多い使役者は以前から付いている名前を仮名と呼んで自分でつけた名前を真名と言っている。
まあ、区分しておいた方が便利だから仮名、真名で定着してしまっているが普通の人だったら真名至上主義の使役者のように嫌悪と嘲りをもって仮名とは呼ばない。
性別が雌雄同体ということは、雄であると同時に雌でもあるということだ。
生物には時と場合によって雌雄を逆転させるものもいる。
だが、一つの身体で雄にして雌。体内に複数の遺伝子を組み込み、脳内分泌物を自在に操って孤独に生殖活動を行い進化していくという歪な性別を持つ生物なんて自然には生まれてこない。
また、仮名は例えば粘体生物だったらスラ郎さんやスラ一といった名前が付くのだが明らかに試作品番号は自然につく名前ではない。
よく考えてみれば出身地だって普通複数あるわけがない。
だから、たぶん人為的に生み出されたのであろうあいつは真っ当な生き方をしていないと思う。
まあ、だからといって情けをかけるとかそんなことはしない。
人為的に作られたのならまずここにいるのがおかしい。普通は逃げ出さないように檻の中に閉じ込めておく。
この個体が意図せぬほど強大な力を持った結果、研究施設から逃亡したのなら説明はつくが仮名にあるNo666から見るとそれはあり得ないだろう。
番号が666ということは、少なくともこいつの前に試験体が665体はいたことになる。
最低でもそれだけの回数生物実験を繰り替えしている人たちが、悪い方向で意図せぬ結果を引き起こすようなへまを犯すだろうか?それはないだろう。
万が一にも偶然という線もあるが、わざと混合獣人型を放置している可能性のほうが確実に高い以上下手に情けをかけるとその時ではなくても何時か不意を打たれかねない。
だから、俺の今持てる全力を尽くして叩き潰す。けれど、余りにも瞬殺しすぎると今度は逆に相手に警戒を抱かせて本気で情報収集をされたら面倒くさい。
なので、
絶妙な具合に偶然的に勝てたといった状況を作らなければいけない。
物理的、魔法的監視がないことはクロロとルテインが確認済みだ。
混合獣の脳内には記憶の一部を送信する魔法具が埋め込まれているが、それも聴覚から聞こえてくる音声だけで思考は送られないようなので大丈夫だろう。
最悪、ルテインが魔法具を妨害している間に壊してしまえばいい。
では、魔法の用意をしてしまおう。こちらからの行動は【隠蔽】や【偽装】などにより最初はばれない。
向こうもまだナイフを研いでいるようだし今のうちに魔法を唱えてしまおう。
現在の俺の知能では、全属性とはいえ下級魔法その中でも中の上くらいを5つ同時に通常で詠唱するのが精一杯だ。
まあ、だからといって5つ以上の魔法を同時に放てないとは言ってないのだが。
「『『全てを見下ろす大いなる緑色の木。その断片が荒れ果て乾ききった心を潤わせる癒しを打ち出していった』』
『『全てを見下ろす大いなる緑色の木。その断片が人々の身体と精神に安らぎを与え微睡みへの誘いを打ち出していった』』
『他に属すことのない異端なる透色の無。その断片が一時的に常時よりも深き魔の力を引き出した』」
「【【癒球・通常】】
【【睡眠球・通常】】
【魔法補助・通常】」
まずは今起きている攫われてきた子供たちを確実に眠らせるために、精神状態を穏やかにする良性状態異常『癒し』を当たった者に発生させる【癒球】、悪性状態異常『眠り』を発生しさせる【睡眠球】を唱える。
この魔法で俺が作り出せる球の数はそれぞれ4つずつ。現在起きている子供たちは6人なので2回分の詠唱を行う。
余っている一回分の詠唱余地は、次に使う魔法の威力を底上げする【魔法補助】にした。
この5つの魔法は魔法発動遅延化の技術を使って唱え終えた魔法を発動せずに保持しておく。
その間にもう一度多重詠唱を始める。
「『全てを刺し貫く大いなる銀色の金。その断片があらゆる動作を封じる重き枷を作り縛り上げていった』
『全てを刺し貫く大いなる銀色の金。その断片が頭蓋のうちに響き渡る不快にして甲高い音を奏でていった』
『全てを駆け抜ける大いなる黄色の雷。その断片が判断させる暇もなく解決過程を掻きまわしていった』
『全てを侵食する大いなる黒色の闇。その断片が認識の効かない世界において緩んだ心を殴りつけていった』
『全てを浄化する大いなる白色の光。その断片が我が意思に従い動き回る現実には存在しない刃となりて斬りつけていった』」
「【金属縛・通常】
【金属音・通常】
【振り乱す思考・通常】
【精神殴打・通常】
【幻影斬撃・通常】」
次に混合獣を邪魔するための魔法を詠唱する。
【魔法補助】の効果で耐久度の上がった【金属縛】でやつを縛り上げ、動けなくしたと同時に【金属音】と【振り乱す思考】で冷静な思考をされるのを防ぐ。
更に食事時で緩みかけている上に魔法でまともな判断ができないところを【精神殴打】で心を揺らし、精神的な防御が緩んでいるところを【金属縛】には影響を及ぼさず最高の威力を出せる【幻影斬撃】で攻撃する。
不意打からの思考を弄る魔法、精神に攻撃する魔法、幻系の魔法の組み合わせはそれぞれの魔法の効果を最大限引き出せるため俺が頻繁に使う組み合わせだ。
このように、組み合わせ次第では『微妙系統』と蔑まれている魔法でも十全の効果を発揮することが可能だ。
これらの魔法もすぐには使わず、発動遅延化を使い保持した状態にし最も効果を発揮するタイミングを見計らうことにする。
よほど念入りにしているのか奴は未だに包丁を研いでいた。目は真剣そのものでよほど集中していると見える。
ならば、狙うのは包丁を研ぎ終わった瞬間だろう。
人間なら集中していた何かが終わった瞬間には集中も途切れるし気が緩む。
やつは混合獣だが人型だしそこら辺はあまり変わらないはずだ。
発動遅延化をしていると余計な魔力を食うことになるが、魔力が足りなくなってきたらスキル【魔力急速回復】を抑えめに使って補給することにしよう。
それから数分後、やっと奴の包丁研ぎが終わった。結局必要な魔力が足りずに【魔力急速回復】を使ってしまった。
さて、今ならタイミングもばっちりだし貯めていた魔法を開放してしまおう。
奴が嬉しそうに顔を上げた瞬間、保持していた10の魔法を放つ。
6つずつ、緑色の見ていると安心感を覚える手の平サイズの球が飛び出し、続くように眠気を誘う緑の同じくらいの大きさの球が飛んでいく。
それらは起きている子供たちに向かって独自の軌道を描きながら飛んでいくが、それを確かめている暇はない。
と同時に自分の中から力が湧き上がってくる感覚を確かめて、顔を上げたばかりの混合獣を金属の鎖で縛りあげる。
次の瞬間には、キィィィンといった高周音が鳴り響き、ぐらりと混合獣の身体がよろけて倒れる。
そして、実体のない数十個に及ぶ刃が同時に振り下ろされた。
その結果を確認せずに俺はルテインとクロロと共に子供たちと混合獣の間に走りこんだ。
【金属音】は無差別に放たれる魔法なので俺たちは防音で対策済みだ。
どうやら、子供たちにちゃんと魔法が当たったようで全員すやすやと眠っている。
【金属音】で若干顔をしかめている子供もいるがそれでも起きる様子はないので大丈夫だろう。
称号の説明です
【試験体】………実験的な意味合いが強く人為的に作られた特殊個体である称号。番号の後に未知数を現すxが付いている。
効果:量産効率20%減少・全能力値120%増加
【生命を弄ばれし者】………命の価値を分からず、生命をただの物や玩具としか捉えられないような狂人によって生物としての尊厳を壊されたり改造されたりしてしまった者へ送られる称号。
効果:スキル【苦痛小耐性】・【狂気小耐性】の獲得。480時間毎のトラウマに対するフラッシュバックの付与
【怨念集いし者】………様々な要因により、幾千幾万もの知的生命体や既に死した者たちからまでに殺してしまいたくなるほどに恨まれている者へと送られる称号。
効果:スキル【呪怨小耐性】・【呪言】の獲得。周囲の負の感情の吸収効果を付与。称号所持者が狂気に蝕まれていく毎段階的に全能力値が強化される。
【上位混合獣種】………種族が上位混合獣に属する者が手にする称号。種族的に上位であって決して個体で上位だとは言っていない。
効果:スキル【奪吸収】(50)・【捕食物分析】・【高速再現】の獲得
【狂気に飲まれた者】………起こっている異常に耐え切れず完全に発狂してしまった者に送られる称号。この称号を贈られた者は決して狂気の世界から抜け出すことはできない。
効果:狂気系耐性スキルの強制消滅。悪性状態異常『狂気』の進行速度を加速し、効果時間を称号を持つ個体が滅ぶまでに固定。自身への害意に対する強制抵抗付与




