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引きこもり主婦のポンコツな日々  作者: 小日向冬子
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病が呼ぶ

 糖尿病予備軍であるらしい。


 詳しい検査をしたわけではない。

 が、身内の病歴と年に一度の健康診断、そしてときおりあらわれる低血糖かと思しき症状を告げると、かかりつけの医者はにっこり笑って太鼓判を押してくれた。

「あなたは遺伝的に、太ったら確実に糖尿病になるタイプだから、気をつけてね」


 というわけで、体重管理は至上命令である。


 基本的に食事は主食が少なめで、間食もほどほどにしている。酒もたばこも嗜まないので、いたって健康的な食生活だ。


 が、ときどき無性にパンやお菓子が食べたくてしょうがなくなる。それも、甘いデニッシュとか、バターたっぷりのクッキーとか。


 そんなのは、よくあることだと言われるかもしれない。

 でも実は、わたしにとっては大変リスキーな欲望なのだ。


 うっかり昼食をパンだけで済ませたりしようものなら、その数時間後、まるで夕飯の準備どきを狙ったかのように、異常な脱力感に襲われる。ひどいときは、冷や汗が出て座り込み、しばらくなにもできなくなってしまう。

 おそらく、糖質過多の食事で一気に上がった血糖値を、性能の悪いわたしの膵臓君は上手く収めることができないのだろう、と思う。


 こうなるとわかっているのに、食べたくなるのだ、甘ーいパンが。



 そんなとき、十二指腸潰瘍に苦しめられた若い頃をふと思い出す。

 この病気は、すぐ治るが、すぐに再発もする。

 同じ病を抱える職場のおっさんは、ため息交じりにぼやいていた。

「あと一歩で再発だって、なんとなくわかるんだよね。で、そういうときってさ、なぜだか無性にカレーライスが食べたくなるのね。

 でも、そこで食べちゃうと、必ずアウト。

 あれってきっと、病気が呼ぶんだよねぇ……」


 然り。


 わたしの場合、それは揚げ物だった。

 胃がじりじりと痛んでいるというのに、我慢できない。


 当然ながら、再発した。



 人にはどうやら、破滅に向かうベクトルが備わっているらしい。

 なんとかそれと闘えるようになったのは、失いたくないものができたから。

 苦しめたくない人がいて、守りたいものがある。

 だからまだまだ、壊れるわけにはいかないのだ。


 そう思いつつ、今日も野菜たっぷりのスープをくつくつと煮込んでいる。

 糖質はほどほどにね、と自分自身に言い聞かせながら。

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