表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり主婦のポンコツな日々  作者: 小日向冬子
5/21

息子のこと

 息子はとりあえず高校三年生、目下受験生である。


 なぜ「とりあえず」かというと、学校に行っていないからだ。

 いや、通信制の高校に在籍はしているので厳密にいえばやはり高三なのだが、今年一年、まったく授業をとっていない。


 彼は、中学受験をして中高一貫の学校に入ったのちに、不登校になった。


「学校に行く必要性を感じない。面倒くさい」そう言って、最初は時々休む程度だったのが、次第に五月雨登校となり、中三の最後の半年は完全不登校となった。


 学校に行かないという、わたしの中ではありえない選択肢を、彼は頑として貫き通した。

 それだけではない。途中でやめてしまったことが彼の中でどんなに負い目になっているかと胸を痛める母を尻目に、毎年のように母校の文化祭に遊びに行っては、当時のクラスメートと盛り上がっている。彼らとの交流は、いまだに続いているらしい。

 自分だったら、とても考えられない。



 思えばいつも彼の行動は、わたしにとっては想定外だ。


 イレギュラーなことが苦手で、何もかも前もって準備しておかないと不安でたまらないへたれ母とは対照的に、彼の口癖は「なんとかなるっしょ」。


 バイト代が入れば、後のことは考えもせず、あるだけ使ってしまう。

 漫画やアニメのDVDを大人買いし、パーツをそろえてどでかいパソコンを自作し、「駅まで歩くのが面倒」という理由で原付も購入した。その試験も、一夜漬け。



 通信制の高校だって、普通の高校みたいに世話を焼いてくれるわけじゃないから、半数以上が卒業できないと聞く。

 何事も人一倍面倒くさがる息子に、自己管理などできるとは思えない。

 予想通り「面倒くせえなぁ」と言いながら、ギリギリになってやっつけ仕事でレポートを提出し、落とした単位もいくつかあった。


 そんなある日、彼は言った。

「俺、高認受けるわ。だから、3年は授業とらない」

 はぁ? 大丈夫なんすか?

 ここでも彼は言った。

「なんとかなるっしょ」


 実際、彼はさっさと高認をクリアし、受験へと向かっていった。が、大学受験となると、絶対的な勉強量が足りない。先日のセンター試験の結果を見ると、とても危ういところにいるのがわかる。


 が、今日も彼はつぶやいている。

「カラオケいってこようかな~」


 その瞬間にやっぱり思ってしまう。

 本当に大丈夫なのか?


 頑張り教が身についてしまっている母とは対照的に、ギリギリまで手を抜く省エネ運転。そうやって、すれすれのところで様々な危機をすりぬけていく息子。

 結果、たとえすり抜けられなかったとしても、「ま、しょうがない」と切り変えていくポジティブさを、君はいったいどこから仕入れたのだ。


 そんな彼を見ていると、今でもたまらなくハラハラする。

 が、その一方で、いつの間にか思っていたりもするのだ。


「ま、それもありかもな」


 そう呟いている自分が、昔よりちょっと気楽に生きられていることに気付いたりする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ