冬来たりなば
にゃんこの毛は、年に二度、春と秋に大きく生えかわる、らしい。
らしい、というのは、完全室内で飼っているせいか、一年中フローリングの上を舞う抜け毛と格闘している気がするからだ。
撫でられ好きなうちのにゃんこは、誰かの手が触れるたび、うっとりしながらグレーの毛をまきちらす。気がつくと、こたつの上もパソコンも、調理台だって毛だらけだ。掃除機が吸い込んでいるゴミの大方は、もちろんにゃんこの毛。
飼い主の体感的に言うならば、もこもこと厚い冬毛に変わったあとの数カ月だけが、抜け毛量が激減する貴重な期間なのだ。
つまり、今。
が、今朝、いつものように食事中のにゃんこにブラシをかけて、ハッとした。
抜け毛が、増えてる!
もう夏毛に生えかわっていくというのか?
そして、思い出した。
いつもこの時期なんだ。
毎年ちょうど寒の入りの頃、突然にゃんこの冬毛は抜け始めるのだ。
これから本格的に寒くなろうというときに、にゃんこの本能は、いったいどこで遥か遠くの夏を感じとっているのだろう。
ブラシにごっそりついた毛を見ながら、ふと頭に浮かんできた言葉。
「冬来たりなば、春遠からじ」
いつだって、すぐ目の前の寒さに身を固くする人間たち。
その先を見ている、にゃんこの体。
「大丈夫。春は、もうそう遠くないんだにゃ」
にゃんこの抜け毛に、そっと励まされた気がする、寒の入りの朝だった。