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引きこもり主婦のポンコツな日々  作者: 小日向冬子
10/21

親育て

 中学卒業間際に不登校気味になっていた甥っ子(「息子のこと その2」参照)は、春から無事高校生になった。


 が、やはりなかなか周囲になじむことができず、時折感情を爆発させては「こんな高校辞めてやる!」と大暴れしているらしい。


 困り果てた義姉は先日、市の子育て相談に駆け込んで、元教師だという初老の相談員に話を聞いてもらってきたという。


「で、どうだったの?」


「うん、すっごく、よかった!」


 義姉の声がいつになく明るいところからみても、どうやらいい相談員さんに当たったらしい。


「その相談員さんもね、あの子みたいな性格なんだって! 息子の話をしたら、すごくよくわかります、わたしもそういうタイプですからって」


「ふーん、そうなんだ」


「でね、こういう子は学校を辞めてしまうとかえってもっと迷ってしまうから、辞めさせないほうがいい、ただ、ちゃんと一人前の大人として扱ってあげなさい、そうすれば、自分でちゃんとわかってる子だから大丈夫ですよって言ってくれたの。なんだか、すっごく安心したわぁ」


 そう言って手放しで喜んでいる義姉のようすが気になって、恐る恐る尋ねてみた。


「じゃあ、今度また学校やめるって言い出したら、どうする?」



 というのも、この間はそう言われてカッとした義姉が甥っ子と激しい口論になり、さらに父親が怒り狂って彼を学校に連れて行き、先生方の前で「辞めません、これからは毎日登校します」と無理やり言わせたと聞いていたからだ。


 義姉は感情を抑えるのがとても苦手で、旦那様は極端な行動に出てしまいがちなタイプ。そのうえ妻の言うことになどまったく耳を傾けようとしないらしく、彼女はそのことでいつも頭を悩ませていた。



「え? う、うーん、どうするんだろ……」


 義姉の声のトーンが一気に下がる。


 とってもよくわかる。

 どこからどう手をつけたらいいのかわからなかった状況が整理され、的を得たアドバイスをもらえたりすると、真っ暗闇のトンネルに一気に光が差し込んできたような気持になる。


 でも、本当に大変なのはそこからなのだ。

 その光を、目の前の現実に具体的に落としこまなければならない。



 息子がまたエキサイトして学校を辞めると言い出した時に、どういう態度で何とことばをかけるのか。

 親の言うことになど耳を貸さなかったら。

 そして、父親が強引な態度を頑として崩さなかったら――。


 これから起こるひとつひとつの場面で、きっとまた彼女は悩み苦しむだろう。


 そして知るのだ、子どもを独立したひとりの大人と扱うことも、彼の強さを信じることも、ことばとしては簡単だけれども、決してたやすいことではないのだと。


 わたしも未だその戦いの中にいるからこそよくわかる、本当に向き合わなければいけない相手は、子どもではなくて自分自身。


 そのことこそが子育ての一番のしんどさであり、また醍醐味なのかもしれない。




「大丈夫だよ。最初から上手くはいかないかもしれないけどさ、何度も失敗してはこれは違うって感じて、親だってきっとそうやって少しずつわかっていくんだよ」


 さっきとは打って変わってため息をつきしょぼくれている義姉をそう言って励ましながら、同じようにもがき続ける自分自身に精一杯のエールを送ったのだった。

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