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初恋の人
ある朝、渋谷区は壊滅した。
生き残った人々は何かを理解したらしい。
天国って、すぐそこに、あるって。
「あっと……」
恵比寿駅で電車から降りるとき、新美カオル(男)は手に持っていたスマートフォンを落としたから助かった。
カオルのスマートフォンは、車輌とホームの隙間から下に落ちた。
カタンカタンとそれは落ちて、それを追ったカオルは手を伸ばして、満員の乗降客の流れの中でひざまずいた。
「じゃまだ! どけ!」
「すいません、スマホを落としちゃって……」
電車に乗る人降りる人。
それぞれの沢山の目は、カオルより1m以上うえにある。
暑い季節だから、みんな汗っぽくてイライラしている。
カオルは予備校生である。
テキストがギッシリ詰まったバッグをしょっている。
電車から降りる人、乗る人。
だからカオルは何度か蹴られた。
(蹴らないでよ)
カオルがそう思ったとき、この空間が思い切り真っ白に光った。
──ゴトッ、ゴトゴト──
山盛りにリンゴが盛られたカゴが逆さまにされた音だ。
リンゴは人の首。
ゴロゴロ。
7月の終わり、だからカオルは助かった。