第一話:補習という名の校外学習Ⅰ(協力要請)
魔法騎士養成学校から出た二人は、現在、ことことと馬車に揺られながら移動していた。
理由としては目的地である場所が場所のため、馬車での移動であるのだが、その道中でロードが口を開く。
「なぁ、サラ」
「ん? 何?」
「お前、いい加減に気づいてるんだろ? これは表向きに補習とされているが、れっきとした回収作業だってことを」
窓の外を見ながらの問い掛けだったのだが、いつも同じ手で気付かないと思っているのか、とロードは言う。
「そうだねぇ。でも、上の人たちは表向きの言い訳をくれるし、私たちは私たちで回収できる。違う?」
「間違ってねーよ。けどな、誰かの手のひらで踊らされてるとなると、苛ついて仕方ねぇんだよ」
サラとて、それが分からないわけではないし、利用されているとなれば怒りもする。
だが、それでも、与えられた役目ぐらいは全うしたいのだ。
「気持ちは分からないこともないんだけどさ。まず、やるべきことは全て片づけちゃおうよ」
はい、とサラはサンドイッチが入れられたバスケットをロードに差し出す。
「ったく……」
文句を言いながらも、きちんと受け取ったロードを見て、サラは笑みを浮かべ、自身もサンドイッチを口にする。
その後、御者の休憩を合間に挟み、二人は馬車に揺られながら、目的地へと向かっていく。
「お客さん、着きましたよ」
「ありがとうございました」
礼を言い、金を払い、馬車を見送った後に振り返れば、サラの目には壮大な景色が飛び込んでくる。
「おぉー」
その景色に、サラは感嘆の声を上げた。
目の前に広がるのは、どこまでも続く草原と遠くに点在する建物。
「おい、サラ。現実逃避もいいが、俺たちは補習に来たんだからな?」
「分かってるよ」
ロードの言葉にそう返しながら、サラは改めて、目の前に広がる草原に目を移した。
「全く、補習も必要ない彼女たちに、何故行かせたんですか?」
魔法騎士養成学校のとある一室で、男たちは話していた。
「セイフティーラウンズは元々、そういう所だろう。それに、その言い方からすれば彼女たちの補習が表向きの理由だと、理解しているんだろ?」
「それは……」
サラ・ソーノ・アルテミスとロード・ハートのペアが最適だと判断し、表向きは補習として、その場所へと向かわせた。
実際、任務のようなものなのだが、本人たちが任務ではなく補習だと思っているのは、幸か不幸か。
ーーまあ、この二人は、サラたちが補習が表向きの理由だと気付いていることを知らないのだが。
「まあ、大丈夫だろう」
あの二人ならーー
☆★☆
さて、誰かいないのか、と、草原の周囲を二人は見渡す。
「どうしよっか。草原にあるなら、すぐに見つかるかと思ってたんだけどなぁ」
「あるとしても、やや広めの一軒家ぐらいしか無いしな」
うーん、と唸るサラに、ロードがそう返す。
「あれを、一軒家って言っちゃうんだ」
広さといい、大きさといい、明らかに一軒家ではないのだが、それ以外のいい表現が無いのもまた事実。
「とりあえず、あそこに聞きに行ってみようか」
というか、目的地がここだと、ほとんど勘だが、そんな感じがするのだ。
そのまま二人は、ロードが見つけた家に向かう。
「すみませーん」
恐る恐るその家の玄関であろう場所を開け、サラがそう声を掛けるが、返事はない。
「開いてるわけだから、いないわけじゃないんだろうけど……」
どうしようか、とサラはロードに目を向ける。
「だったら、いる可能性がある向こうに行ってみるか?」
「不法侵入にならない?」
「今更だな。というか、こっちは聞きたいことを聞きに来たんだから、不法侵入じゃないだろ」
ロードの提案を今更な理由で尋ねるサラに、彼はそう返す。
「まあ、そうなんだけど……」
「あれ?」
言い淀むサラに、不思議そうな声が届く。
「え?」
サラたちが振り向けば、そこには小さな女の子がいた。
「お姉ちゃんたち、お客さん?」
首を傾げる女の子に、サラは笑顔でそうだよ、と返す。
「誰か、大人の人はいないかな? お姉ちゃんたち聞きたいことがあるんだ?」
そう言えば、女の子はこっち、と案内を始める。
その先には、先程ロードが行こうと言っていた建物。
そのまま女の子について行き、かつん、とこれまた開いていたドアの前に三人は立つ。
「お父さん」
「珍しいこともあるもんだな。来客も一緒とは」
「足音と気配だけで来客が来たと判断できるんですね」
女の子の呼び掛けに対し、特に表情を変えることもなかった室内の人物に笑みを浮かべ、サラはそう返す。
「勝手にお邪魔してすみません。呼んでも返事がなかったので、こちらのお嬢さんに案内してもらいました」
そう説明するサラに、室内の人物ーー男は顔を顰める。
「それで君たちは何なんだ」
「ああ、自己紹介してませんでしたね。魔法騎士養成学校≪セイフティーラウンズ≫所属、サラ・ソーノ・アルテミスと」
「ロード・ハートです」
男の言葉に、サラとロードはそれぞれ名乗る。
だが、それを聞いた男の表情は厳しいものになった。
「お前らっ……一体、何しに来た」
「貴方に、お聞きしたいことがあります。ユレイデン博士」
目的を単刀直入に告げるサラに、男は叫ぶ。
「お前たちに聞かれることも、話すことも何もない! 今すぐここから出て行け!」
「っ、」
サラへと物を投げられ、とっさにロードが彼女を腕で庇うが、痛いものは痛い。
「ちょっ、ロード?」
「っ、くそっ!」
当たった部分を摩るロードを、サラが心配そうな表情を浮かべ、投げてきた男は、どこか悔しそうな顔をする。
「お父さん……」
「お前は少し出てなさい」
「でも……」
「大丈夫だから」
不安そうな女の子に、男は安心させるかのように言う。
「分かった」
女の子はそれでも心配そうだったのだが、そのまま出て行った。
「で、尋ねたいこととは何だ」
それを聞き、サラは支えていたロードから一度離れ、男へと尋ねる。
「単刀直入に尋ねます。青のクリスタルダイヤモンドはどこですか?」
「やはり、それが目的か」
予想通りだと言いたげな男に、サラは続ける。
「そうです。ご理解いただけているのなら、協力してもらえませんか?」
「断る」
「なっーー」
「そうですか。残念です」
断る男に、何か言おうとするロードだが、それをサラは遮る。
「ですが、私たちも手ぶらで帰ることは出来ませんので、やはりご協力願えませんか?」
「しつこいぞ」
「しつこいのは理解しています。ですからーー」
協力してください、と続けようとしたサラだが、彼女の肩に手を置き、首を横に振るロードを見て、肩を落とした。
「また明日、それが駄目なら明後日と来ますので、良いお返事をお待ちしております」
とりあえず、出直す旨を告げれば、
「何度来ようと、返事は変わらんぞ!」
叫ぶような男の声が返ってきただけだった。




