待ち合わせ
あの後、半強制的にアドレスをききだされた。
そして最後の授業が終わろうと言う頃、早速間宮さんからメールがきた。
『君、部活ってやってる?』
『何も』
机の中で手さぐりに操作しながら、短くそう返信した。
『じゃあ、教室で待ってて』
いったい何が起こるのか、僕ははらはらとしたが断る理由も見つからず、『了解』と返した。
やがて授業が終わり教室はざわめきだした。まだ大抵の生徒が教室に残っていた。
教室のざわめきを打ち破ったのは間宮さんだった。
誰もが声のゲインを半分に落とし、またはゼロにし、彼女を興味深く見つめた。
教室に入った間宮さんはきょろきょろと誰かを探している様子だった。その視線は僕を捉えて停止した。
そして、しっかりとした足取りで僕の方へ歩いてきた。
「さあ、帰ろうか」
周りの視線など気に留めず、間宮さんは言った。
一刻も早くクラス中の視線から逃れたかった僕は急いで支度を済ませ、無言で教室を出た。
廊下を二人並んで歩く。すれ違う人々が僕等を見ているような気がするのは、僕の自意識過剰ってわけではないはずだ。
「なんで……」
間宮さんにだけ聞こえる音量で僕は呟いた。
「ん? 言っただろう。君と居ることで何かに巻き込まれるためだ。これからはなるべく一緒にいよう」
理由が別にあったなら、それはなんて魅力的で心躍る言葉だっただろう。
「そして、私に痛みを与えてくれ」
続けて彼女はそう言った。
僕と一緒に居ることで僕や自分が他人の目にどう映るとか、そんなことはまったく考えていないような口ぶりだった。
「別に毎日何かが起こるってわけじゃないよ」
「そのときはまた別に、協力してもらうから」
「……え?」
間宮さんはそれが何か詳しくは語らず歩き続けた。
ほどなくして分かれ道に差し掛かり、僕らはそれぞれの家路に着いた。
翌朝、目が覚めると携帯が光り、メールの受信を告げていた。
『八時十五分集合』
とだけ書かれていた。
集合場所も書かれていない。おそらく昨日別れた道だろう。
かわいい女の子と一緒に学校へ登校する。
一度は夢見たことだが、こんな形で叶うとは複雑な気分だった。
八時十五分ジャストに僕は昨日別れた道に辿り着いた。
間宮さんは既に着いていた。
両手はポケットに突っ込み、電信柱に寄りかかり俯いている。俯いているせいで長い髪が顔を隠し表情は見えない。
誰も寄せ付け異様なオ―ラを放って間宮さんはそこに立っていた。
通り過ぎる人々はちらちらと横目に物珍しそうに間宮さんを見ていた。
そんな彼女に話しかけるのはそれなりの勇気が必要だった。
「あの、お待たせ」
間宮さんはゆっくりと顔をあげた。半開きの目が僕を捉えた。
「ああ……」
間宮さんは左手にしていたSWATCHの腕時計を見た。
「……ジャスト。行こうか」
そして二人並んで歩きだした。
学校に近づくにつれ同じ制服の生徒が多くなってきた。
僕は気恥ずかしくなり歩幅を緩めて彼女の一歩後ろを歩いた。
すると彼女も歩幅を緩め、また僕等は並行して歩くことになった。
僕はまた歩幅を緩める、そして彼女もまた……、それを繰り返しているうちに僕等の歩みは止まってしまった。
「……何やってんの?」
呆れたように彼女は言った。
「いや、なんか並んで歩くのって恥ずかしくて……」
道の真ん中で歩く僕等は結果的により一層の注目を集める結果となってしまった。
「恥ずかしい?」
「あんまりこういうの慣れてなくて」
「それは、私が変態だって言いたいの? 変態と一緒に隣を歩くのは恥ずかしいって言いたいの?」
間宮さんは凄んで「そう言った。
「違うよ! そういうことじゃなくて。女子と並んで歩くことことなんてないから……」
「え? ああ、そういうこと」
なんとかすぐに怒りを鎮めてくれた。
怒りの余韻か、彼女の頬は開く染まっていた。
その後はなぜか間宮さんは早足で歩き僕は着いていくのに精いっぱいだった。