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自傷

「あっ……」

 保健室のドアを開けようとしたところで何処か艶やかな声が聞こえた。

 僕は無意識にそっとドアを少し開け、その隙間から中を窺った。

 なんのことはない。

 たださっきと同じように間宮さんが座っているだけだった。

 僕の視線は間宮さんの手元に移った。

 何やら手遊びをしているように見える。

 右手で左手の小指を鷲掴みし、そのまま思いっきり折り曲げた。

 間宮さんの小指はあり得ない角度まで曲がっていた。

 見ているこっちが痛くなってくるほど彼女の小指はぎしぎしと悲鳴をあげているように見える。

「……え?」 

 視線をふと上に――彼女の顔の方へと向けた。

 痛々しさに顔を歪めていた僕とは相反した表情を、彼女はしていた。

 双眸はとろんと蕩けて恍惚の様相、頬はほんのり赤く蒸気して色っぽい息遣いが微かに聞こえる。

 そして彼女と目があった。

「あ……」

「……」

 間宮さんから艶やから表情が消え去り、冷徹な視線が僕を刺した。

 何か見てはいけないものを見てしまった気分になり嫌な汗が脇の下を伝った。

「……ちっ」

 明らかな舌打ちの後、間宮さんは手招きして僕に中に入るよう促した。

 中に入った僕は身体を縮こませて間宮さんの前に座った。

「何を、見た?」

 問い詰めるように間宮さんは言った。

「いや……、その、間宮さんの指が、その……かなり曲がっていて……」

「そ、それで?」

 少し声が上ずっている。

 強がっているように見えて間宮さんも、緊張しているようだ。

「それで……」

 その先をどう言葉にしていいか分からず僕は言葉を濁した。

「他には何も?」

「えーと、その指は痛く無かったのかな?」

「そ、それは痛いわよ」

「じゃあなんで、あんな……、なんていうか、悦んでいた?」

「つっ……」

 間宮さんは俯いて黙りこんでしまった。

 わずかにのぞく頬がさっきとは違う赤みを孕んでいるように見えた。

「あの、別に誰にも言わないから」

 何気なく言ったその一言は彼女にとって地雷だったらしい。

「何? それじゃあ私が人に言えないような行為に及んでいたと言いたいの?」

「いや、あまり人に知られたくないのかと……」

「そんなことない! ええ、そう。私はマゾヒストよ! 痛みに快感を覚えるわ。変? 確かに普通とは言い難いけど、それほど異常ってわけでもないでしょ、ねえ!」

 間宮さんはそう捲し立てると自分が今何を告白したのか気づいて顔を赤らめて再度俯いた。

「そ、そうだよ。SMなんて言葉があるくらいだし」

 自分なりにフォローしたつもりだったがSMという言葉はどうやらお気に召さなかったらしい。

「私はSMなんかに興味ない! そんな変態と一緒にしないで。私はただ痛いのが気持ちいいだけ!」

 どうやら彼女のそれはSMと一緒にしてほしくはないらしい。そしてSMは変態という定義らしい。なんとまあ、難しい。

 マニアをオタクといったら怒るあれといっしょだろうか。

「じゃあ、あれだね。辛いものが好きな人と一緒だね」

「はあ?」

 辛いという感覚と、痛いという感覚、どことなく似ているし、良いたとえだと思ったんだけど受け入れてはもらえなかった。

「でもあれだね、それって痛いことが苦じゃないってことだから、いいことなんじゃないかな」

「まあ、ね」

「少し羨ましいな、僕なんて痛いの苦手だから未だに注射とか嫌だし」

 少しは気分を直してくれたのか間宮さんは顔をあげて推し量るように僕を見た。

「あ……、」僕は当初の目的を思い出した「あの、少し前なんだけ階段から落ちたよね、覚えてる?」

 間宮さんは頷いた・

「そのとき助けようとして、結局一緒に落ちちゃったの僕なんだよね。そのことで一度ちゃんと謝っておこうと思って」

「ああ、あれも君だったの。ありがとう、痛かったわ」

「え……? あの、どういたしまして」

 謝ったのに感謝されるなんて、何とも言えない気分だった。

「……」

 間宮さんが観察する様にじろじろと僕を見ていた。

「あの、何?」

「君、よく怪我するみたいだけど、もしかして君も?」

「僕は普通です」

「私は変態だって?」

 間宮さんはむっとして眉を吊り上げた。

「そんなわけじゃ……」

 機嫌を損ねないように慌てて話題を変えた。

「あー、僕は昔から何かと巻き込まれやすくて生傷が絶えないんだよね。本当に困った体質、というか巡り合わせというか」

「羨ましい……、私なんてわざと巻き込まれようと努力してるって言うのに」

 嫉妬するような目つきでそう言われても複雑な気分だった。できれば変わってもらいたい。

「それじゃあ昨日のボール飛んできたときとかわざと当たろうとしてたの?」

「そうよ」

 本当に僕の行動は全て大きなお世話だったらしい。指を骨折までしたっていうのに。

「じゃあ、その……、痛みを楽しむのもいいけど死なない程度にね」

 そう言って僕は今度こそ保健室を去ろうとした。

「待って」

 彼女はそう言って僕を呼びとめた。

「君といると何かと巻き込まれそうな気がする。協力して」

「……え?」


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