保健室
「あらら、どうしたの?」
僕の腕を見て保険医の先生は眉をひそめた。
「ちょっとペンが刺さっちゃって」
「何をしてたらペンが刺さるのか不思議でならないわ」
呆れながらも消毒液で傷口をぬぐってくれた。
応急処置が済んだところで、保健室に電話の音が響いた。
「はい……、まあ、わかりました。すぐ行きます」
どうやら何か起こったらしい。
「体育で倒れちゃったこがいるから見てくるわね。君はもう行ってもいいわよ」
「はい、ありがとうございます」
礼を言い終わると同時に保険医の先生は救急箱をもって部屋を出ていった。
自分も授業に戻ろうと腰を上げたとき、部屋の扉が開いた。
「あ……」
入ってきたのは彼女――間宮さんだった。
「……」
間宮さんは無言で部屋を見回し、僕だけしかいないことを訝しく思ったのか眉をひそめた。
「あ、先生なら体育で倒れた生徒がいるからって出て行ったけど」
「そう」
それだけいって間宮さんはソファーに腰掛けた。
「何処か怪我したの? 気分悪いとか?」
「別に、ただのサボり。……あなたは?」
「ああ、ちょっとペンが刺さっちゃって」
「えっ! 一体どれだけ刺さったの?」
無表情だった間宮さんが急に目を丸くしていった。
なぜそんなに驚くのかわからなかったが、自分の腕を見て彼女が勘違いしていることに気付いた。
「ペンが刺さったのはこっち」そう言って今しがた治療を受けた個所を指差した。「これはまた別で、指を骨折しちゃって」そして次は手に巻かれた包帯を指差した。
「……羨ましい」
「え?」
間宮さんの呟きがうまく聞き取れず聞き返した。それにしても状況にそぐわない台詞だったような気がする。
「……なんでもない」
間宮さんは二度は言わず、元のクールな態度に戻っていた。
「あの、話は変わるけど、僕のこと覚えてる? 階段でその、助けたというか、巻き込まれたというか……」
「うん? ……あー……うん」
僕のことをたっぷり十秒は眺めてから間宮さんは曖昧な返事をした。
どうやらそれほど記憶には残っていないらしい。
「じゃあ、昨日なんだけど、放課後にボールが飛んできて……」
「ああ、誰か飛んできたと思ったけど、君だったの?」
「はい……」
昨日のことは誰かが飛んできた、というイメージしかなかったらしい。
うまくキャッチできて得意げな顔をしていた昨日の気分が恥ずかしい。
「じゃあ、僕は戻るから」
「そう」
僕は居たたまれない気分のまま保健室をでた。
保健室を出て少しして思い出した。僕が何故、間宮さんに会おうとしていたかを。
そうだ、もう一度謝ろうと思っていたんだった。昨日はなんだかんだそれができなかった。今がチャンスじゃないか。
そう思い、再度保健室に足を向けた。