白球
そのあと、彼女とは暫く会わなかった。
何処のクラスなのか、同じ学年なのかさえもわからなかったがもう一度ちゃんと謝罪しておきたかった。
最後は元気に走って言ったけど、もしかしたら身体のどこかに傷が残っているかもしれない、頭を打っていたら後々なんらかの問題が起こるかもしれない。
何処も異常がないのか、もう一度会って確かめたかった。
そう思っていた今日の放課後、運よく彼女を見かけた。
まだ、学校を出たばかりのようでグランウンドに沿った道を一人で歩いていた。
僕は駆け足で彼女の方へと向かった。
――カキーンッ
大きな音が響き渡った。
ふと空を見上げると、白球が空高くに舞っていた。
その軌跡を目で追うと着地点にちょうど彼女がいた。
「危ない!」
大声で叫ぶが彼女は気づかない。
白球はまるで吸いこまれるように彼女に向かっていた。
足を速め全速力で彼女に駆け寄った。
そして、そのままの勢いで僕は跳躍した。
右手に鋭い衝撃が走り、数秒後それは壮絶な痛みに変わった。
残念ながら着地はうまくいかず、僕は道路に転がった。
右手には白球がすっぽりと収まっていた。野球部顔負けのファインプレーだと自分でも思った。
少し得意げに彼女を見上げた。
「ちっ」
「え?」
なぜか憎々しい視線と共に舌打ちされた。
別に僕が勝手にやったことだから、感謝の言葉を望んでいたわけではないけれど、憎ま
れるいわれはないと思った。
――そんなことより。
跳躍の寸前、僕は彼女を見た。横目に見ながらも、確かに白球を捉えていた。白球が自分に迫っていることに気づいていた。それなのに走り寄る僕には気づいていなかった。眼中になかったと言っていい。
なぜ?
疑問が頭に渦巻いた。
気が付くと彼女の姿はなかった。
またしても僕は呆然と立ち尽くしていた。
右手がじんじんと熱を帯びている。物凄く痛い。左右の掌を見比べると右の方は茹であがったように赤く染まっていた。そして右手の薬指だけが親指と同じぐらいの太さに晴れていた。
「病院へ行こう」