話し
「今日は、話をしたらダメかな」
第二音楽準備室に着くなり、僕はそう口にした?
「話?」
間宮さんは出鼻をくじかれたような顔をした。
「楽しみにしてるのを悪いんだけど……」
「もしかして嫌になった?」
少し寂しそうな声で彼女は言った。
「違う、そうじゃなくて。ただ、今日は話をしたくて……。」
「いいけど、何?」
椅子に腰かけた彼女に怒った様子は無く、僕はほっと息をついた。
「大したことじゃないんだけど、どうして間宮さんはその……、そんな体質になったのかなあって思って」
「私の子の性癖のこと?」
「うん、そうなった原因とかあるのかな?」
「原因か、知りたいの?」
「差し支えなければ」
「そう……」
間宮さんは遠くを見つめるように斜め上を見つめ、そこか悲しげな表情を作った。
「小さいことから酷い虐待を受けていつしか痛みを紛らわすために痛みを受け入れるように……」
「え……?」
そんな辛い過去が……、と同情しそうになったところで、彼女はすっと表情を戻した。
「なんて事実は一切ない
「……え?」
呆気にとられた僕の表情はさぞかしまぬけだっただろう。
「うーん、いつからだろうね。ものごころついた時にはもう備わってたよ。原因はとくにないね」
「そうなんだ……」
もしかしたら、初めに彼女が口にしたように何か辛い理由があるのかと思っていたけど何もないとは。むしろ彼女らしくて安心した。
「訊きたいことってそれだけ?」
正直それだけだった。
それだけで、昼休みの時間分ぐらいは潰せると思っていたが、こんなにも早く話が終わってしまうとは思ってもみなかった。
どうしよう。
自分から話があるなんて言っておいて「これだけです」なんて言えるわけがない。
何か、話題……。
僕は必死で思考を巡らせた。
回想は昨日のこの部屋でのことに戻った。彼女の白く美しい肢体を思い出してしまった。その時に意外に思ったことも思い出した。
「ええと、間宮さんって綺麗な身体してたよね」
言葉にしてから何を口走ってるんだと自分を責めた。
「ありがとう、っていうべき? それとも怒るべき?」
「いやその……、今まで自分を痛めつけてたって言ってたから、傷とかあるのかなって思ってたけど、その……だから変な意味じゃ」
僕は必死になって言い訳した。
「大した傷がなくて意外だった?」
「あ、うん……」
「まったく失礼だな。私だって一応女の子なんだよ」
「一応、ではないと思うけど」
「だからまあ、大きな傷とかがあったらまずいだろうとかも思うわけだ。ただ小さい傷とかはいくつかあるけど」
「自分でやった傷?」
「そう。見る?」
間宮さんは征服の裾をちらっとめくってそう言ったが、僕は首を振って否定した。
「でも意外だな、間宮さんが自分の体を気遣ってるなんて」
「まってくもって失礼な奴だな君は」気分を害したように眉をひそめて言った。「良く言うじゃないか、嫁入り前の娘がどうとか」
「そうだね」
あの間宮さんにも少しは常識的なところがあるらしい。
「でも、もう遠慮はいらないかな」
「……?」
理解できず首を傾げていたら彼女が僕を見据えていった。
「だって君がいるだろ?」
「……え?」
このとき、僕が考えたのは彼女の言葉の意味ではなく、いったい今日に何度疑問を浮かべただろうかということだった。




