好き
エアガンはもはや第二音楽準備室の備品と化していた。
BB弾も補充し、百個以上はストックされている。
そう、僕が初めて間宮さんをエアガンで撃った日から毎日、彼女は僕を求めてきた。他の誰にもできない、僕だけの仕事。
もはや最初の抵抗は無くなり、自分だけが彼女を満足させられると、軽い優越感さえ覚えていた。
「今日は左腕」
そう言って間宮さんは日ごとに的を指定してきた。
「前腕」
「手首」
ときにはおもしろがって場所の指定までしてきた。
おかげで僕の射撃の腕はかなり上がった。
「右足」
そう言っては細長くスレンダーな足を惜しげもなく差し出すのだ。
靴も、靴下も脱ぎ、生足をさらけ出している。そんな扇情的な光景に胸を高鳴らせない男子はいないだろう。
そして僕はその綺麗な足を、残酷にBB弾で撃ち続ける。
白い足が徐々に赤く染まっていく。時折振り返る彼女の顔も紅色に染まり、その表情はとても官能的だった。
僕はふと気付いた。
「ねえ、片足だけ真っ赤で変に思われないかな」
僕の問いに間宮さんは不敵に笑って鞄から何かを取り出した。
「ちゃんと考えてあるよ」
そう言って取り出したのは黒いストッキングだった。
そして彼女は僕の目の前でするするとストッキングを履いた。僕はなんだか恥ずかしくなって目をそむけた。
まだ昼休みは少し残っていた。
その間、舞い屋さんは椅子に座りストッキングの上から足をさすりながら余韻に浸っている。
僕はそんな彼女を横目に見ながら床に散らばったBB弾を小さなチリトリで拾い集めていた。
「ねえ」
しゃがんで作業をしていた僕に、間宮さんは不意に声をかけた。
「何?」
「今日、久しぶりにクラスメートに話しかけられたよ」
間宮さんが他の誰かと会話をしているところを僕はまだ見たことがなった。
なにせ、近づきがたいし話しかけづらいのだ。
それでも、クラスの連絡などで話しかけなければいけないこともあるはずだ。しかし、そんなことで話しかけられてわざわざ僕に報告理由は無い。いったい何を言われたのだろう。
「何だって?」
「君と付き合っているのか? だって」
僕は持っていたBB弾を取りこぼした。
「そ、それで?」
僕の声は震えていた。
動揺して彼女の顔を見ることができなかった。
「適当に濁しておいたよ」
「そ、そう……」
「まったく、女子って生き物は色恋沙汰が相変わらず好きだね」
間宮さんは軽い調子でそう言った。
しかし、内心ではどうおもっているのだろうか。僕と付き合っているなんて噂されて迷惑がってはいないだろうか。
僕は恐ろしくて顔をあげることができなかった。
押し黙っていると彼女は僕に尋ねた。
「なんて答えてほしかった?」
たまに魅せる悪戯な笑顔で彼女はそう尋ねた。
「……」
僕は何も言えず口を噤んだ。
「毎日毎日、一緒に居るからね、それは誤解されてもしかたないかもね。ねえ……、付き合ってることにしようか?」
僕は彼女の言葉に反射的に顔をあげた。
「えっ?」
「何? 嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃないけど」
「他に好きな子でもいる?」
「いない、いない!」
僕は全力で首を横に振った。
「よし、じゃあそう言うことで。君も誰かに訊かれたら付き合ってるってことにしといて」
あまりにはあっけらかんとした間宮さんの態度に僕は閉口した。
「間宮さんはそれでいいの?」
「うん。君は色々協力してくれるし、君のことは好きだし、別にいいよ」
彼女の口から出た『好き』という言葉に僕は鋭く反応した。
だけど、彼女が僕に抱いている感情と、僕が彼女に抱いている感情は少し違うと薄々と感じた。
嬉しいやら、悲しいやら、今の気分はよくわからないけど、取りあえず間宮さんと『付き合っていること』になれて喜んでいいのかもしれない。




