空気砲
「さ、早く」
間宮さんはそう急かす。
「うん……」
そう答えた僕の声は震えていた。
時は昼休み、場所は第二音楽準備室。
間宮さんは僕に対して後ろ向きに座り、袖をまくった右腕を水平に伸ばしている。いわば、注射をされる格好である。
そして僕の両手には黒く輝き、ごつごつとしたピストルが握られている。といってもエアガンだが。
エアガンなれど、狙いを付けているのは人なのである。そのせいで僕の両手は痙攣するようにプルプルと震えて照準が定まらない。
「本当に撃っていいの?」
「いいよ」(※ダメです)
「人に当たっても大丈夫なの?」
「うん」(※危険です)
そうはいっているが、さすがに目などに当たると危険なので間宮さんは後ろを向いている。
「じゃあ、撃つよ……?」
僕はそろりと引鉄に指をかけた。
「宣言したいつ来るかっていう楽しみがなくなっちゃうじゃない」
「ごめん……」
もしかしてそのために後ろを向いたのだろうか。そうだとしたら恐ろしい。
僕はエアガンをコッキングして後は引鉄を引くだけで弾を撃てる状態にした。
腕をまっすぐにのばしエアガンを構えた。
――パンッ
乾いた音とともエアガンからBB弾が発射された。
しかし狙いを付けていた間宮さんの腕からは大きく上に逸れて、積んであった段ボール箱に当たり、その弾は易々と段ボールを貫通した。
僕はその威力を見て驚いた。
「ねえ、段ボール貫通したけど大丈夫なの!」
「大丈夫、大丈夫」軽い調子で彼女は言った。「それよりちゃんと狙って撃ってよ」
「うん……」
僕は再びコッキングし銃を構えた。
狙っているのは人の腕ではなく、ただの棒の的だと自分に言い聞かせた。
――パンッ
「あっ」
次は命中した。
手首の近くに当たり、跳ね返った弾は僕と間宮さんの間に転がった。
「痛ぅ……」
後ろから見る限りでは、彼女はとても痛そうに伸ばしていた腕を抱いた。
「大丈夫?」
そう言って僕が駆け寄ろうとすると彼女は再び腕を伸ばした。そして、
「もう一回」
間宮さんはそう催促した。
「……」
僕はこれ以上撃っていいのか躊躇した。
そのまま渋って立ち尽くしていると間宮さんが顔半分振り向いて言った。
「はやく」
その表情、その声はとても色っぽく、僕は操られたように再度銃エアガンを構えた。
間宮さんは満足そうに笑って後ろを向いた。
――パンッ
――パンッ
――パンッ
僕は何度も撃った。
驚くことに発射された弾は全て彼女の腕に命中した。
――パンッ
――パンッ
――パンッ
やがて、弾が切れた。
床には白いBB弾が何個も転がっていた。
「はぁ、はぁ……」
撃った僕も、撃たれた間宮さんも共に息切れしていた。
狭い防音室に二人の息遣いだけが暫く反響した。
「ふふ、こんなにしてくれちゃって」
間宮さんは振り向き、もう片方の腕もまくって、僕に見えるように前に差し出した。
左右の腕は明らかに色が違っていた。白い透き通るような左腕に対して、僕が弾を打ち続けた右腕は彼女の高揚した顔よりも赤く染まっていた。
「痛い?」
「うん、まだじんじんする」
間宮さんは嬉しそうに自分の腕を見て笑っていた。
このときの僕には不思議と罪悪感がなかった。エアガンで人を撃つなんて非人道的なことをしたにもかかわらず、後ろめたい気持ちなんて微塵もなかった。
ただ、高揚があった。
彼女が喜んでいる、僕は彼女に求められている、僕はそれに答えられた、僕は彼女の悦ぶ姿を見て満たされていた。




