決意
「君が私を痛めつけて」
間宮さんが放ったその言葉を聞いて、僕は思考させてただ黙っていた。
「ちょっと、聴いてる?」
間宮さんは立ち上がって僕の目の会えで手をひらひらとさせた。
もちろん聴いていた。そんなことされなくても意識ははっきりとしてる。
彼女は冗談で言っているのではない。それがわかっているから余計聴こえないふりをしていたかった。
「聴こえてるよ」
それを聞いて間宮さんは席に座りなおした。
「さあ、そこのばちで叩くなり、トロンボーンで殴るなり好きにして」
いきなりそう言われてもできるわけがない。
「どうして僕が……」
「君しかいないだろう? 親に、友達に痛めつけてくれって言えって言うの?」
一応他の人に言えないと言う自覚はあるみたいだ。
「保健室でやっていたみたいに、自分でやればいいじゃないか」
僕がそう反論すると、彼女はぶすっとした表情でさらに反論した。
「確かに、一人でやるのもいいさ、だけど何か物足りないんだよ。例えばマッサージだって自分でするのと他人にしてもらうのとじゃ、何処か違うでしょ?」
「まあ、確かに……」
間宮さんが言わんとしていることは分かる、しかし彼女が僕に頼んでいるのはマッサージとは違う、何せ、痛めつけてくれと言っているのだ。特別な趣味でもない限り、いきなりそんな非人道的なことをすんなりできるはずがない。
「納得した?」
「……だけど」
僕は眉をひそめ反論の意を示した。
「嫌、なの?」
「望まれてるとは言え、痛めつけるのはちょっと……」
「どうしても?」
間宮さんは大きな両目で僕を見据えながら言った。
「……」
間宮さんは銃数秒、僕の答えを待っていたが、彼女にまっすぐ見つめられた僕は身体が石になったように固まって何も言えなかった。
「そっか、どうしても嫌なら仕方ないね」
間宮さんはそう言って席を立った。そして、
「今まで色々と付き合わせてごめん」
最後にそう言って部屋を出て行こうとした。
最後に……。
え、もう終わり?
間宮さんとの関係が終わってしまう。
クラスも違う、委員会や、部活で出会うこともない。
これからもう二度と口をきけないかもしれない、関われないかもしれない。
そう思うと、僕の口は反射的に言葉を発していた。
「待って!」
彼女は開きかけたドアを止めて、後ろを向いたまま動きを止めた。
「何?」
冷たい声で彼女は言った。
「やるよ」
か細い声で僕は言った。
「何を?」
「君を傷つける、痛めつけるよ。君が望むように」
「……ふふっ」
短い笑いが間宮さんの口から漏れた。
そしてドアを閉めて振り向いた。
振り向いた彼女の顔は、悪戯が成功した子供のような笑顔で、それはもう残酷ともいえるような何とも言えない笑顔で笑っていた。
「君ならそう言ってくれると思ってたよ、その点は期待通りだ」
その口調はまるで僕が引き受けることを見透かしていたようだった。
「そんな、期待は嬉しくないなあ」
苦笑いを浮かべながら僕は言った。
間宮さんは踊るような足取りで引き返し、再び席に座った。
何故僕は彼女を引き留めたのだろう。
目の前の少し異常な趣味を持つ少女を前に僕は思った。
答えは意外とすぐに出てきた。
ああ、僕は彼女が好きなんだ。




