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第20話 椅子を買いに(家具屋編)

最近、部屋の机で作業する時間が増えた。


気づくと、いつも腰が痛い。


椅子が壊れているわけではない。

ただ、合っていない。


だから、新しい椅子を見に来た。


家具屋には、たくさん椅子が並んでいる。


形も、色も、ばらばらだ。

違いが多すぎて、違いが分からない。


値段の違いだけは分かった。


一つに座ってみる。


悪くない。

でも、これでいいのかは分からない。


立ち上がって、隣の椅子に移る。


座って、姿勢を整える。


顔を上げる。


――いた。


椅子の列の奥で、立ち止まっている男。


三上灯馬だった。


わたしが座っている椅子を見て、言う。


「その椅子、君の背中を支える覚悟がない」


「……椅子に覚悟ってあるんですか」


「人はね、座った瞬間に、この椅子と契約する」


ただの家具なのに、急に責任が生まれた。


「気になるのは腰なんですけど」


「人は、腰で座ってるわけじゃない」


「背中を預けられるかどうかで、椅子は決まる」


「背中を引き受けない椅子は、腰を裏切る」


それは困る。


三上は椅子の背もたれに、ぽんと軽く触れた。


「三分で分かる」


「何がですか」


「椅子の本性だ」


言われるまま、座る。


なんで言うことを聞いているんだろう。


一分。


まだ大丈夫。


二分。


少しだけ、腰に違和感が出てくる。


三分。


背中が、逃げ場を探し始めている。


気づかなければ、気づかなかったはずの違和感だった。


三上は頷く。


「この椅子は、座り続ける未来を想定していない」


「それは対等とは言えない」


「……なんか、責任取ってほしくなってきました」


三上は、椅子にもう一度だけ触れた。


「それが、契約が破綻した瞬間だ」


「責任を求める。それが正常な反応だ」


正常、らしい。


わたしは椅子から立ち上がる。


もう、信用できなかった。


三上はそのまま、椅子の列の奥に戻る。


さっきまでとは違う椅子が並んでいる。


細い脚。

硬そうな座面。

背もたれは、途中で途切れている。


どう見ても、長く座るための形ではない。


「契約を検討中なんだ」


三上は腕を伸ばして、背もたれの角度を確かめる。


「でも、この椅子も人を支える覚悟がない」


三上は、試すように座る。


三秒。


立ち上がる。


「ほら」


「最初から謝る気さえない」


「裏切る椅子ですね」


「いや、正直者だ」


「そこが問題なんだ」


「これは展示物だ」

「椅子であることを表現している」


「君は、どれにする?」


突然の問いだった。


わたしは迷ってから、別の椅子に座ってみる。


背中を預ける。


今度は、逃げ場を探さなくていい。


三上は、それを見て言う。


「悪くない選択だ」


評価された、らしい。


なんで、わたしはこの人に評価されているんだろう。


レジに向かう途中、三上が言う。


「椅子はね」


三上は振り返らない。


「人の未来を支える家具だ」

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