第19話 期末の打ち上げ(ボウリング場編)
期末お疲れー!という声に押されて、ボウリング場にいる。
単位はまだ確定していない。
打ち上げの意味は、正直よくわからない。
レンタルシューズは妙に軽い。
信用していいのか分からない軽さだ。
学生たちはもうテンションが高い。
「いけー!」
ガコン、と音がして、ピンが散る。
わたしはボールを持ち上げる。
手の中で、重さをなじませる。
一投目はガーター。
二投目で、奇跡みたいなスペア。
ボールが次々に転がっていく。
スコアが更新されていく。
モニターに「ゲーム終了」の表示が出る。
結果は、まあ普通だった。
モニターから目を離す。
向こうのレーンが、妙に静かなことに気づいた。
――いた。
黒いボールを持ち、真顔で立っている男。
三上灯馬だった。
助走は短い。
動きに無駄がない。
ボールが、まっすぐ進む。
ストライク。
三上は、表情も変えない。
「……やっぱり」
学生の一人がつぶやく。
「三上さんだ」
「え、スコアやば」
「本物だ」
一人がレーンの縁まで近づく。
「三上さんですよね」
「なに」
「次、一緒にやりません?」
三上は、助走の位置を確認しながら言う。
「人数は?」
「四人です」
「……悪くない」
「いいんですか?」
「母数は多い方がいい」
「検証ですね。受付で追加してきます」
学生が受付に走る。
三上は、最後の一投を投げる。
ボールは、迷いなく進む。
ストライク。
本当に、混ざるんだ。
学生が戻ってくる。
「入れました!」
モニターに名前が増える。
三上の名前の下に、四つ並ぶ。
順番が再編成される。
わたしはボールを持って、三上のレーンへ移る。
「待ち時間、長くなりますね」
「好条件だ」
わたしの順番は五番目になった。
三上が投げる。
ストライク。
結果は、変わらない。
歓声が弾ける。
学生たちが続く。
投げる音が、規則的に響く。
笑い声とため息が入り混じる。
そして、わたしの番になる。
ボールを投げる。
八本。
三上の番になる。
同じ助走。
ストライク。
戻ってきた三上に、つい言う。
「いま、なにを見てるんですか」
三上はレーンを見たまま言う。
「助走の長さだ」
「歓声のあと、長くなる」
「それで?」
「精度が落ちる」
「……」
「上手さは偶然でも出る」
「同じは偶然では出ない」
言い切りだった。
「重心がずれるからだ」
――重心の三上。
昔、そう呼ばれていたと言っていた。
「まっすぐ立ってるつもりだった」
三上は言う。
「そのせいで、一度全部外した」
学生の一人が笑う。
「俺の話ですか?」
「いや。自分の話だ」
「三上さんでも外すんですね」
「昔ね」
「じゃあ次、俺が全部倒します」
笑いが起こる。
ピンが倒れる音。
モニターが光る。
空気は、元に戻る。
わたしは次のボールを持つ。
さっきの話は、ボウリングのことではない気がした。




