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第17話 期末前(ファミレス編)

期末前になると、なぜかファミレスに来る。


家だと、つい別のことをしてしまう。

図書館だと、静かすぎて自分の呼吸がうるさい。


ここは、ちょうどいい。


音がある。

匂いがある。

人がいる。


そのほうが、落ち着く。


テキストを開く。

ノートを広げる。


向かいの席には、スーツの男。


――いた。


三上灯馬。


今日は何も言わない。

わたしも話しかけない。


問題を解き始める。

数問解いたところで、ペンを置く。


そろそろ料理が来る頃だと思って、立ち上がる。


ドリンクバーで、グラスにお茶を注ぐ。


斜め向こうの席に鉄板が置かれるのが見えた。


「お待たせいたしました」


客が、首を横に振る。


「違います」


皿が持ち上げられる。


お茶が、静かに満ちる。


席に戻る。


「ミックスグリルです」


さっきの鉄板が、目の前に置かれる。


湯気も匂いも、変わらない。


でも、別の席に置かれていた皿だ。


体が固まる。

喉の奥で、言葉が止まる。


店員の足音が遠ざかる。


「作り直しを頼むのが、最も単純だ」


見ていたのか。


「言いづらいです」


「君は客だ」


「でも、廃棄になるのも嫌です」


「では我慢するか」


「……もやもやはします」


「謝罪を求める手もある」


「謝られたら余計に気まずいです」


グラスの氷がカランと鳴った。


「それなら、事実だけ伝えるといい」


「用事もないのに呼ぶみたいじゃないですか」


「呼べば分かる」


なにも分かるわけない。


わたしは、この人みたいに、なんでも言い切れない。


でも、このまま黙っているのも、癪だ。


ボタンを押す。


奥で「はい」と声がする。


逃げ道がなくなる。


店員が足を止める。


「お呼びでしょうか」


「さっき、この皿、別の席に置かれていましたよね」


「あ、申し訳ございません。お作り直しいたします」


「作り直しは大丈夫です。ただ、気になって」


店員は一瞬戸惑い、深く頭を下げる。


「ご指摘ありがとうございます。今後気をつけます」


店員はもう一度頭を下げて、去っていく。


鉄板の音が、やっと耳に入る。

ざわめきも、戻ってくる。


「店にとってはありがたい」


「あんなこと言ったの初めてです」


すっきりしてしまった自分に、罪悪感がわく。


「わたし、怒っていたんでしょうか」


「それは、怒りではない」


「じゃあ何ですか」


「クレームだ」


「クレーマーじゃありません」


思ったより早く、言葉が出る。


この人と同じ側には、立ちたくない。


「質はいい」


三上は席を離れて、出口に向かう。

会計の音が鳴る。


言葉だけが、少し残る。


わたしはウインナーにナイフを入れる。


一口。


いつもと同じ味。


でも、少しだけ、軽い。

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