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第15話 コートを買いに(エレベーター編)

ショッピングモールは、どの階も主張が強い。

上は甘い匂い。

下は魚と惣菜。

間の階は、だいたい服。


わたしは、間の階を行ったり来たりしている。

コートを買いに来た。


サイズがなくて、一つ上へ。

色が違って、一つ下へ。


エレベーターの前に戻る。


列の先頭で、ストップウォッチを片手に立っているスーツの男。


「階は性格を持つ」


――いた。


三上灯馬。


「性格の違う階に、人をどう運ぶか」

「ここはそれを隠している」


「隠してる?」


「現在位置を出さない」


三上はエレベーターの扉の上を指す。


よく見ると、現在位置の表示板がない。

言われるまで、気づきもしなかった。


三上はストップウォッチを押した。


「群管理だ」


「何ですか、それ」


「複数台をまとめて制御する。全体の待ち時間を最短にする仕組みだ」


「近くにあっても止めないことがある」

「遠くをあえて動かすこともある」


「わざとですか?」


「効率のためだ」


ドアが開く。

列が一歩進む。


三上はストップウォッチを押し直して、乗り込む。

わたしもついて入る。


中には階数表示がある。

外にはなかったのに。


「二十七秒」


「なんの秒数ですか?」


「待ち時間だ」


「長いんですか」


「体感より短い」


「見えないと、長く感じる」


「気にしたことなかったです」


「気にしている人がいる」


数字が一つ上がる。


「今、一瞬、減速した」


「止まらなかったですよ」


「三階から呼びがあった」


「分かるんですか」


「分かる。止めなかった」


ドアが開く。


わたしは降りる。


「次に乗るとき、体感を教えてほしい」


「ずっと乗ってるんですか」


「検証中だ」


ドアが閉まる。


通路を抜けて、服屋に入る。


コートを試着する。

色で迷う。


一度店を出る。


扉が開く。

ストップウォッチを持った男がいる。


別の階も見て回る。


扉が開く。

またいる。


結局、最初の店に戻る。

値札をもう一度見て、会計を済ませた。


気づけば一時間近く経っている。


エレベーターを呼ぶ。


扉が開く。


やっぱりいる。


同じ位置。

同じストップウォッチ。


「酔いません?」


「問題ない。停止が少ないと、揺れが少ない」


一階でドアが開く。


わたしが降りると、三上も続いた。


三上はストップウォッチをしまう。


「現在位置を隠すと、怒りは育たない」


「怒り?」


「人は、自分が待たされていると自覚したときに怒る」


「どうして分かるんですか」


「表示があると、ため息が増える。ここでは減る」


この人は、ほかでもやっているに違いない。


「じゃあ、見えるって損ですね」


「見えないと、考えない」


「考えなくていいなら楽ですよ」


「楽は、成長しない」


紙袋の取っ手をきゅっと握る。

元の値段を知っていたから、得した気分になれた。


見えて、嬉しいこともある。

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